海外ドラマ

ベター・コール・ソウル シーズン4

チャックを失ったジミーの葛藤と、その呪縛からの解放、そしてソウル・グッドマンの誕生!

Better Call Saul Season4
2018年 アメリカ カラーHD/4K 41-60分 全10話 AMC Netflixで視聴可能 スーパー!ドラマTVで放映 (Amazon Primeでシーズン3までは配信中)
クリエイター:ヴィンス・ギリガン、ピーター・グールド
出演:ボブ・オデンカーク、ジョナサン・バンクス、レイ・シーホーン、ジャンカルロ・エスポジート、マイケル・マンド、パトリック・ファビアン、マーク・マーゴリス、ライナー・ボック、マイケル・マキーン、トニー・ダルトン ほか

 シーズン5までが本国で放映されているシリーズ。どうやら主演のボブ・オデンカークが心臓発作で倒れたことで、撮影は延期されているようだが、シーズン6も作られる予定ではあるようだ。
 シーズン4では、これまで物語の中心であったジミーとその兄チャックの確執がシーズン3で頂点に達し、チャックの自殺という結末を迎えた後なので、ひと段落で、それぞれのその後を追う形になる。

 ガス(エスポジート)は、ナチョ(マイケル・マンド)が密かにヘクター(マーゴリス)の心臓薬をすり替えていたことを見抜き、自らに都合のいい芝居を打つように脅迫する。実際はガスの手下にやられたのだが、銃で撃たれた姿で発見されたナチョは、ヘクターの甥たちでサラマンカ家の非常な殺し屋兄弟、レオネルとマルコ(ダニエル&ルイス・モンカダ)に別の同業者に薬を奪われたと報告。兄弟は、冷酷にもその一味を殲滅してしまう。
 一方、危篤状態ののち、脳の回復が危ぶまれたヘクターだが、ガスは、わざわざジョン・ホプキンス大学から専門療法士を呼び寄せて治療に当たらせる。そこには、なんとしても自分の意思がしっかりした状態で、ヘクターに対する復讐を果たすというガスの執念深い信念があった。
 ジミー(オデンカーク)とキム(シーホーン)は、同棲を続けているが、法曹協会による弁護士資格の再審査のために、仕事の実績が必要なジミーは、いくつかの営業職の面接の後、携帯電話会社の店長に就任する。真面目にやる気は無いのだが、ものすごく口がうまいジミーは、営業職ならたいていの場合なんなくこなせるのが面白い。
 ジミーは、あまりに客の来ない支店に座っているより、麻薬ディーラーやバイカーなど、政府の盗聴を心配している連中に、プリペイド携帯を横流しする商売の方が儲かることに気づき、夜間の街頭販売でそこそこの金儲けをしてしまう。
 一方、支店を拡大する地元銀行メサ・ヴェルデの代理人として、仕事的には順調なキムだが、弁護士としての刺激がなさすぎる毎日に嫌気がさし、プロボノ(弁護の無料奉仕)として刑事事件の仕事に手を出し始める。しかし、急な呼び出しなどで対応できない状況に陥り、HHMのライバルであったリッチ・シュワイカート(デニス・ボウトシカリス)の事務所S&Cに金融部門を設立しないかと持ちかける。
 キムは基本、とてもマジメな人間なのだが、詐欺師としてのジミーの天性に触れると、心の奥底にあるスリルを求める欲求が湧き上がり、2人で危ない橋を渡ってしまう・・という、複雑な性格も良く描かれている。このシーズンでも、2人は、ジミーの用心棒になった元受刑者のバビノー(ラヴェル・クロフォード)を救うためと、許可が出てしまったメサ・ヴェルデのテキサスの支店の建築許可内容を変更するために、スマートな詐欺をやってのける。
 マイク(バンクス)は、ガスの依頼で地下掘削の専門業者を撰定し、真面目なドイツ人技師、ヴェルナー・ジーグラー(ライナー・ボック)と、ドイツから呼び寄せた職人たちを雇い入れる。彼らを絶対に外に出さないで、広大な仮設住宅に住まわせ、郊外のクリーニング工場の地下に巨大な空間を掘削させるのだ。のちに「ブレイキング・バッド」で、ガスと手を組んだウォルターたちに提供される、メス工場の誕生である。
 しかし、あまりに愛妻家でドイツに残した妻と、長期に離れているために精神不安定に陥ったジーグラーは置き手紙を残して、この仮設住宅から抜け出してしまい、マイクは厄介な立場に立たされる。

 そしてこのシーズンのクライマックスは、ニューメキシコ法曹協会の審査でジミーに弁護士資格が戻るかどうか・・!?この場でも、死んだ兄チャックの影響を受ける会員弁護士から、復帰を阻まれそうになるジミーは、一世一代の芝居を打って、審査会の同情を得ようとする・・・。
 そして最後の最後に、マッギルの名前を捨ててソウル・グッドマンを名乗ることを宣言し、シーズン4は終わっている。
 
 本シーズンでは、「ブレイキング・バッド」本編で、ガスにウォルターの助手として送り込まれ、自宅でナポレターナのカンツォーネを歌いながら料理を作る場面がマニアにも評判となったオタクの化学技師ゲイル・ベティカー(デヴィッド・コスタビル)が、ちょっとではあるが登場。さらに、ソウル・グッドマンの用心棒になる、黒人のデブ、バビノーが初登場する。

 マイケル・マキーンが演じる、ジミーの兄、チャックは亡くなってしまったので、あまり出て来ないが、最終回にジミーの回想で登場するチャックは傑作だ。ジミーが弁護士として登録したお祝いに、事務所の人間たちとカラオケをやっているバーから、こそこそ帰ろうとするチャック。それを引き止めたジミーは、「次は、俺が歌うんだからそれまで付き合って・・」と、渋々座ったチャックの前で歌い出すジミー!しかし、完全な音痴だ。そしてジミーが強引に、チャックにデュエットを迫ると、いやいや歌い出したチャックは、なんとめちゃくちゃ歌が上手いのだ!

曲はアバの「ザ・ウィナー」(The Winner Takes It All)

 全く見かけによらないが、なにしろマイケル・マキーンは、名作『スパイナル・タップ』の主演の一人で、ミュージシャンでもある。

金髪のギターがマキーン

 「ブレイキング・バッド」とともに「ベター・コール・ソウル」は、まさにドラマ/映像の鏡である。物語に派手な抑揚はないが、脚本がどこまでも素晴らしい。セリフの隅々まで、とことん練ってあるし、余計な説明的セリフが一つもない。
 必要なことや感情は、工夫された映像で示してゆく。これがなかなかできることではないのだ。
 凝りに凝って、あらゆる角度から撮影するカメラも実に素晴らしいことはいうまでもない。

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By 寅松