海外ドラマ

埋もれる殺意〜30年目の贖罪〜 (吹き替え版)

なんで!ここで突然主役が!まってよ〜!

Unforgotten Series 4
2021年 イギリス カラーHD 55~60分 全6話 ITV WOWOW/ミステリーチャンネルで放映
クリエイター:クリス・ラング 監督:アンディ・ウィルソン
出演:ニコラ・ウォーカー、サンジーヴ・バスカー、ジョーダン・ロング、ルイス・リーヴス、キャロライナ・メイン、ピーター・イーガン、スーザン・リンチ、アンディ・ナイマン、ファルダット・シャーマ、リズ・ホワイト ほか

 クリエイター、クリス・ラング、監督アンディ・ウィルソンによるITVの看板シリーズの一つ。しかし、これは邦題の付けかたを間違えたか!原題は単に<Unforgotten>(「忘れ得ぬ」という意味)のシリーズ4なので問題ないのだが、シリーズ1に「埋もれる殺意〜39年目の真実〜」とつけてしまったので、その後がシリーズ2「〜26年の沈黙〜」、シリーズ3「〜18年後の慟哭〜」ときたので、どんどん現代に近づくのかと思うと、ここでシリーズ4が「〜30年目の贖罪〜」と後戻りする。これは非常に調子が悪い。これでは、「あれ、新作じゃないな?と」見逃すところだ。安易な邦題は禁物だ!

 しかし、このシーズン4が衝撃作である。シリーズのファンは見逃してはならない!

 今回も話の発端は、ロンドン郊外の廃棄物再処理施設から、30年も前のものと思われる遺体の一部が発見されたことからスタートする。持ち主が死亡した家屋から回収された冷凍庫に、首から上と手が切り落とされた遺体が入っていたのだ。
 遺体は冷凍保存されていたために、完全な状態で保存されており、被害者マシュー・ウォルシュも特定される。当然、遺体を保存していた家の住人、ロブ・フォガティには、飲酒運転逮捕の記録があった。マシュー・ウォルシュが最後に目撃されたのは1990年3月30日午後10時55分、ロブ・フォガティが飲酒運転で逮捕されたのはその40分後で、マシューが最後に目撃された場所から1マイルも離れていないことがわかる。
 ロブ・フォガティが飲酒運転で逮捕された車には他に4人の同乗者がいたが、その詳細は資料にはなかった。ところが、ビショップ署のキャシー・スチュワート(ニコラ・ウォーカー)とサニー(サンジーヴ・バスカー)当時の警官から驚きの証言を得る。ロブと一緒に乗っていた4人は、全員訓練期間を終えたばかりの新米の警官だったというのだ・・・。

 ドラマは、相変わらず最初から事件に関わる人物の日常を追っていくので、最初はそれぞれの人々になんの関わりがあるのかわからないが、実はその4人が同乗者であることがわかってくる。
 今も刑事のラム・シドゥ(ファルダット・シャーマ)、家族問題専門のカウンセラーをしているフィオナ・グレイソン(リズ・ホワイト)、ロンドン警察、副本部長のリズ・ベイルドン(スーザン・リンチ)、そして経営者をしてるディーン・バートン(アンディ・ナイマン)は、皆同じ年代(50代後半から60代)なので、それぞれに転機を迎え、大きな問題も抱えつつある。面白いのは、彼らを追う部署のボスである、キャシー・スチュワート警部もほぼ同じ年代で、彼らと同じような個人的な悩みに振り回されていることだ。

 レズビアンで女性のパートナーがいるリズ・ベイルドンは、次期イースト・アングリア(イングランド東部)警察本部長に推されて口頭試問を受ける。だが、一方認知症で自分を憎む半身不随の母親の介護には手を焼いて、さらに家政婦からは賃上げを要求される。
 所内のセクハラの申し立ても、相手女性の弱みを見つけて強引に潰すようなラム・シドゥだが、妊娠した40代の妻のお腹の子供がダウン症とわかり、妻との意見がすれ違う。
 ディーン・バートンはすでに知的障害のある長男がいて、その世話と障害児施設のためのボランティアに忙しい。しかし、一方で昔の仲間から、フランスのカレーから麻薬密輸のための車を運ぶように頼まれ、悩んでいる。
 フィオナ・グレイソンは、独立して夫とともに資金を借りて開業しようとしているが、一方で大きな秘密を持っているために精神不安定になっている。

 一方、事件が起こった当初、キャシーは部署には出勤していない。前回の事件で疲れはて、精神的な問題もあり休職していたリズは、早期退職しようと願い出るが、人事の規則が変更になり、30年に満たない29年9カ月という勤続期間のキャシーには、退職金が払われないと言い渡されるのだ。
 この件だけではない。すでに認知症の初期症状を呈し始めている父親マーティン(ピーター・イーガン)は、1年あまり新しい恋人ジェシカ(ジャネット・ディブリー)と暮らしており、遺言書を書き換えて、孫アダム(ジャッサ・アルワリア)に譲ることしていた資産を半分渡したいと言い始める。
 イライラが絶頂のキャシーだが、残り3ヶ月をなんとか消化するために、元の部署に復帰してするやいなや、直感で4人全員が事件に関わっている可能性を指摘するのだ。
 本来なら、DCC(副本部長)の肩書きを持つベイルドンや、なんども弾劾されながらも、黒人警察協会をバックに、すべてを人種差別に絡めて力づくで悪評をねじ伏せてきた、厄介な刑事シドゥを容疑者として追うのは、官僚組織としては葛藤が生じるはず(当然、サニーは乗り気ではない)だが、警察組織自体に怒り心頭のキャシーは、そんなこともお構いなし。淡々と事件に切り込んでいくところがうれしい。

 いくつかの決定的証言を得て、4人の背景にある複雑な事情に迫るキャシーとサニー。4人を個別に審問した結果、精神不安定なフィオナ・グレイソンからは、核心に迫る供述を引き出すことに成功したのだが・・。
えっ、ここで!?
 

がーん!なんだそれ!

 聞いてないよ!なんだよ。
 だいたい、シリーズ5もあることを知ってたので、まさかここで主役が××とか考えもしなかったので、驚きました!
 しかも、捜査とは何も関係ないのか!
 ま、往々にして現実というものはそうなのかもしませんが、フィクションでこんな残念なことはありません。これじゃ、結局退職金も逃したのか!と余計な心配もしちゃったのだ。

 毎回、被疑者役として演技派が起用される同シリーズだが、実は最後の方で一番の演技を見せるのが、俳優の他にマジシャンやプロデューサーの肩書を持つアンディ・ナイマンだろう。感情を押し殺した、バートンの告白がうまい。
 ナイマンは、2017年の『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』で脚本や監督も手がけた才人。その他、『ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム』や『ミニオンズ 』『怪盗グルーのミニオン大脱走』など声の出演。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ 』『ジャングル・クルーズ 』などでも有名だ。
 フィオナ・グレイソンを演じたリズ・ホワイトは、BBCの「ライフ・オン・マーズ」でジョン・シム演じるサムが、73年当時にタイムスリップした結果、所属することになったマンチェスター/サルフォード警察の同僚で、唯一自分が未来から来たことを打ち明ける、アン・カートライト巡査を演じていた人。

 ということでシーズン5から、アイルランド系のシニード・キーナンが演じるジェシカ・ジェームズ警部がサニーの上司になるようですな。うーん。

※(本サイトでは通常、全て字幕版を紹介しているが、本作に限っては日本で初放映したWOWOW以来字幕版が製作された痕跡がなく、Amazonでも字幕版が供給されていないため、吹き替え版視聴による感想であることをお断りしておきます)

By 寅松

埋もれる殺意〜18年後の慟哭〜(シリーズ3)の評はこちら>>
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