オンランシネマ

バレリーナ

おいおい、凄いぞ!本年度No.1のマカロニ作だあ!

발레리나/Ballerina
2023年 韓国 93分 Climax Studio/Netflix Netflixで視聴可能
脚本:イ・チュンヒョン 監督:イ・チュンヒョン 
出演:チョン・ジョンソ、キム・ジフン、パク・ユリム、シン・セフィ ほか

 韓国のNetflix映画最新作。2020年のホラー映画『ザ・コール』を監督しただけの新人監督、イ・チュンヒョンが手がけており、さほどプッシュもされていないように見えるが、どんでもない作品だ!
 これじゃ、マカロニウェスタンだよ!しかも主人公が女。
 主演のチョン・ジョンソは、『ザ・コール』でも怪演していたが、ユ・アインが主演した2018年の『バーニング』のオーディションでヘミ役を勝ち取ってデビューした女優。実は、イ・チュンヒョンと付き合っているそうで、今回、同監督は、ようやく恋人を主演に据えた映画を完成させたことになる。
 イ・チュンヒョンがそう評する通り、チョン・ジョンソの演技はもはや動物的で振り切っている!
 シンプルな復讐ストーリーなのだが、根強い女性差別、というか(世界のどこにでもあるが、この場合特にその度合がひどい韓国での)男の側の無意識レベルでの女性に対する蔑視が復讐劇の根底にあり、その意味でも考えさせる。
 悪役のチェプロ(キム・ジフン)は、最後の最後に「正直、俺は死ぬほどの悪いことはしてねえ!」と叫ぶ。
 膨大な数の女性を夜の街で拉致し、薬漬けにしたのちレイブ、撮影して、それを元に奴隷として従わせる。SM映像の販売や、(おそらく)売春などで利益を上げてきた男の実感がこれだ。(ま、もちろん世界的に見れば男女の問題に限ったわけでもなく、イジメやハラスメントの加害者と被害者の実感のズレの一つではあるだろう。多分、生きているうちに糾弾されたら、ジャニー喜多川元代表も同じことをのたまわったにちがいない)
 オクジュ(チョン・ジョンソ)が、「こうなるとは思ってなかったろうね。軽く見てたから」というセリフも印象的だ。

 映画のオープニングから、決して説明的ではないがオクジュという人物を表すエピソードがインパクトを与える。
 夜中のコンビニ。3人の屈強な強盗が、刃物を出して店主にレジの金をカバンに詰めさせている。その最中に、女の客が酒瓶をレジに置いて「会計を」と言い出す。強盗たちも驚くが、店員が「お釣りが・・」としどろもどろに答えると、女が「じゃ、ここからもらいます」と強盗のカバンから札を抜いて立ち去ろうとする。当然のように強盗が襲いかかるが、女は缶詰を武器に、あっという間に男たちを制圧してしてしまう。
 この女、オクジュは長い間、韓国内だけでなく外国でも要人警護などを行う特殊警備会社で仕事をしてきたエージェントだった。
 今は、嫌気がさして仕事を休んでいるようだ。
 久々に親友のミニ(パク・ユリム)からの連絡で、彼女の家をたづねたオクジュが発見したのは、ラッピングされたバレーシューズと、折り紙にしてある手書きのメモ。そこには「復讐できるよね。ジェフ・チョイ1009」とだけかかれており、ミニは浴室で自殺していた。
 ミニの本業は、バレリーナでオクジュの携帯にも「バレリーナ」と登録されている。
 2人は、元は中学の同級生だったが、親しくなったのはミニがバイトをするケーキ屋に、自分の誕生日のケーキを買うためにオクジュが立ち寄ってからだった。正反対なのに、なぜか2人は気が合った。
 「この仕事を続けていたら、いつかは死ぬんだろうな・・」漠然と虚無的な毎日を送っていたオクジュだが、日々を精一杯楽しそうに生きるミニに感化されて、初めて生きている実感を得たのだ。
 2人の間柄は、セリフなどではほとんど説明されないが、オクジュの脳裏をかすめる思い出として、さまざまなシーンがフラッシュバックで回想され、その付き合いの深さを示してゆく。

 オクジュは、寿司デリバリーを偽装したジェフ・チョイ1009のサイトを発見するが、それは顧客がブツを注文するためのサイトのようだった。しかし、持ち帰ったバレリーナの携帯に入れられた脅しのメッセージから、犯人の取引現場を知ったオクジュは、男のランボルギーニを追跡してその男チェプロの自宅に侵入する。
 チェプロは、もともとボンボンだったのだろう。郊外の屋敷に1人ですみ、奥には SMグッズが揃った拷問部屋をしつらえてあった。USBメモリーがいっぱいに入ったコレクターボックスを見つけ出し、バレリーナと書かれたUSBメモリーの中の映像を見たオクジュは、ミニの身に何が起こったのかを理解した。
 チェプロの家に仕掛けた盗聴器で、チェプロが仲間と女を「釣りに出かける」クラブを特定したオクジュは、自分を餌にチェプロに近づく。
 オクジュをうまく口説いたと思ったチェプロは、彼女を連れて郊外にある自分の組が経営するラブホテルに連れてゆく。
 薬を盛って、ぐったりしたはずのオクジュにのしかかろうとした瞬間、ナイフで刺されそうになったチェプロは間一髪でそれを避け、2人の格闘になるが、あとほんの少しでオクジュがチェプロの口を切り裂こうという瞬間、組の手下たちが次々と部屋になだれ込んできた。
 2人を難なく倒した、オクジュだったが、3人目はホラー映画さながらにチェーンソーを持ってオクジュに襲いかかった。あわや絶体絶命という瞬間、チェーンソー男の目の前の扉が開き、男は自らの足を切り落としてしまう。
 その部屋から、顔を出したのは女子高生(シン・セフィ)。オクジュは、彼女の手引きでチェプロのランボルギニーを盗んで、2人は現場を逃げ出した。
 女子高生は「奴隷」と呼ばれていたと話した。ポルノ映像を取られ、それをネット上に流すと脅されて、性奴隷としてチェプロに飼われていたらしい。
 女子高生は、オクジュにこう言い放った。「毎日、願ってた。いつか、誰かが現れて、私の計画を実行するのを手伝ってくれるのを」なんの計画?と尋ねるオクジュに、女子高生は淀みなく答える「全員殺すの。想像の中では、もう何度も殺したよ!」
 こうして、イっちゃってる女子高生とオクジュの女子による復讐劇が幕をあける。

 イ・チュンヒョン監督自身も言う通り、それぞれのロケーションがすべて美しく、絵になるように計算されている。
 全面、赤を基調とした中国レトロな内装のラブホテル。古い豪邸という感じで、ゴシックホラーを思わせるチェプロの自宅。女子高生を拉致された、オクジュが乗り込んだ組織の本部らしき、広大な厩舎と円形の馬の訓練施設。その地下深くに作られた、広大な大麻製造プラント。
 特に、オクジュが組員を殺しまくる殺陣のシーンは、まさにバレエのように美しい。

 チェブロのボスである、親分が登場して「こっちへ来い、会いたかったんだ。話をしようじゃないか・・」と大物らしく余裕をかます定番のシーン。男なら、間違いなく誘いに乗ってしまいやられるパターンだが、男社会のヒエラルキーに興味のないオクジュが躊躇なく撃ち殺すところが大変好感が持てる。
 オクジュが先輩のツテで違法拳銃を撃ってもらう武器屋の老夫婦のとぼけぶりなども、まさにマカロニ・ウェスタンそのもの。交渉中に婆さんが持ち出してきた火炎放射器は、絶対どこかで使うと思っていたが・・・そこでかいな。
 まさに最後には、最後まで自覚のない馬鹿男を地獄の業火で送ってやるのでした。
 
By 寅松