まぼろし映劇

成熟する季節

手練れの演出・脚本・撮影&予告編が楽しめる、安心の日活青春映画ど真ん中

成熟する季節
1964年 日本 82分 白黒スコープ 日活 Amazon Primeで視聴可能
監督:斎藤武市 脚本:池田一朗、宮内婦貴子 撮影:高村倉太郎 助監督:神代辰巳
出演:浜田光夫、和泉雅子、長門裕之、芦川いづみ、殿山泰司、初井言栄、山岡久乃、沢村貞子、山本陽子 ほか

「せ」は青春の「せ」 「い」は色気の「い」 「じゅ」は純愛の「じゅ」 「く」は苦悩の「く」と始まる予告編が快調で、「成長する青春群像の哀歓を才匠 斎藤武市監督が 信州上田を舞台にあふれる詩情とユーモアで描く青春明朗大作」とのことだが、この予告をまとめたのは、70年代にロマンポルノの傑作を何本も撮ることになる助監督(当時)神代辰巳と思われる。

 話はありきたりで、真面目な生徒や先生の時代がかったセリフに甘酸っぱい恥ずかしさを感じるが、予告編付きで配信されているおかげで楽しく鑑賞できる。アマゾンでは日活作品を多数配信しているが、DVDになりそうもないマイナー作品でも予告編が同時配信されている場合があるのでけっこう貴重。例を挙げれば『拳銃0号』『第三の死角』『銀座の女』『街に気球があがる時』『ひとり旅』『ゆがんだ月』『海の勝負師』などなど(ただし、この手の配信は期限があるようなのでご注意を)

 さて、和泉雅子は活発明朗だが裕福な家庭に問題アリの女子高生、勉強は苦手だが母子家庭でいつもお金稼ぎに精を出している浜田光夫(吉永小百合とは別れたの?)、理解ある教師に長門裕之と芦川いづみ。人数合わせのベテラン教師に殿山泰司、浜村純、井上昭文。沢村貞子、初井言栄、山岡久乃と名おばさん女優も勢ぞろい。新聞部員の和泉が取材するデパガのひとりで山本陽子も出てくる。

 脚色はさすが池田一朗(後の作家・隆慶一郎)らしく面白いセリフがそこかしこに出てくるし、とにかく秋の信州の風景がいい。巨大な木造校舎のバックにくっきりと浮かぶ山並など、まるで書き割のようだが、まさしくあれが「実景」なんだろうな。

 浜田は小遣い稼ぎに(1回20円!)下校時の生徒たちをオートバイで送っているのだが、憧れの芦川いづみ先生まで乗せてしまう。まだノーヘルだし、美人教師と生徒がバイク2人乗りは大丈夫なのかと心配になるシチュエーションだが、それで問題なかった時代なのだから幸せだ。ちなみに浜田はいづみ先生の写真を部屋に貼っていて、和泉雅子に「この じゃがいも!」と平手打ちを食う。このなんともいえない言語感覚や大胆な行動もうれしくなる。そして「じゃがいも」くんは、洋食屋に弟子入りしてジャガイモを剥くことになるのだ。

 鉄棒、松並木、遠くの山を背景にした奥行きありすぎの横移動ショットなど、どっきりするような素晴らしい撮影がたまにある。カメラは『幕末太陽傳』や斎藤武市の「渡り鳥シリーズ」でおなじみ高村倉太郎でした。
 結局、いろいろあっても、とにかく青春を突っ走ろう! と信州の野原を延々と駈けていくエンディングのノー天気さにも好感が持てる。世の中が騒がしくなる60年代後半には生まれ得なかったど真ん中・中速球の日活青春映画だ。白黒だしね。

 ところで、日活は旧作のデータベースを作っていてロケ地まで調査してWEB配信してくれているのだが、この作品のページにはなぜか長門裕之と芦川いづみの名がない。晩年すっかり男を下げた長門はともかく、今もファンが多い芦川いづみは忘れちゃだめだろう。

By 無用ノ介

予告頭のみ