オンランシネマ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

笑えるぶっ飛びSFなのは確かだが、これでオスカー総ナメって??

Everything Everywhere All at Once
2022年 アメリカ 140分 IAC、AGBO、A24 Netflixで視聴可能
脚本:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート 監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート 
出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェニー・スレイト、ハリー・シャム・ジュニア、ジェームズ・ホン、ジェイミー・リー・カーティス ほか

 エマーソン大学在学中に出会った監督のコンビ「ダニエルズ」(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)の2人は、仲が良さそうでゲイ・カップルなのかと思ったら、ダニエル・クワンは、ストップモーション・アニメーターのクリステン・レポールと結婚したのでゲイじゃなかったですね〜。失礼。
 日本でも「エブエブ」なんて、愛称を流行らせようとプロモーションしましたがヒットしたのか?ヒットはともかく、この映画は何と言っても第95回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、そしてアジア人女優初の主演女優賞を獲得してしまったことだけで、語り継がれるのは間違いなしの映画になりました!
 ま、A24の配給作だし、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭なんかで絶賛されそうなのはわかる、新感覚の攻めてる映画ではありますが、何と言ってもオスカーですからねえ・・・。

 もちろん、十分楽しめるぶっ飛んだ映画ではあります。
 内容は説明しようがないストーリーですが、出だしはアメリカに移住して、娘はアメリカで生まれた移民夫婦の危機からスタート。
 潰れそうなコインランドリーを経営する中国系(広東語で会話しているので、香港系ですね)のエヴリン・ワン・クワン(ミシェル・ヨー)とウェイモンド・ワン(キー・ホイ・クァン)は、春節を翌日に控えた明日、税務署に出向かなければならないことで絶体絶命に陥っています。
 映画内では特段説明されませんが、エヴリンはADHD気味で、領収書の整理などは苦手中の苦手なのでしょう。もちろん、大人になってから移民した2人には、英語自体の理解力会話力に限界があり、本来は娘であるジョイ(ステファニー・スー)が通訳のためについてゆく手筈でしたが、香港から認知症を発症したエヴリンの父親、ゴンゴン(ジェームズ・ホン)を引き取ることになり、その父親がやってきてしまったために危機は加速します。
 娘のジョイは、レズビアンを公言し、恋人のベッキー(タリー・メデル)を連れてきますが、エヴリンは保守的な父、ゴンゴンにそれを伝えられるわけもなく、二人が話しをしないように、娘と恋人は店に残し、エヴリンとウェイモンドが、車椅子にゴンゴンを乗せて税務署に行くことに・・。そこで待ち受けていたのが、厳しいことで有名なIRS監察官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)。
 しかし、その危機の最中、エヴリンに囁かれたのは、この世界とは異なる同士並行宇宙空間(マルチバース)に存在している、別のウェイモンドからの助けを求める呼びかけだった!
 エヴリンは、マルチバースと時間を、「バース・ジャンプ」することにより行き来して戦闘スキルを高め、別次元のディアドラをはじめ、襲いかかってくる様々な敵と戦うことになるが、最終的な敵の親玉〜ラスボスは、娘のジョイが別次元で怪物化した、ジョブ・トゥパキであったというようなお話。

 異次元が入り乱れるSFで、かつカンフー自体のパロディでもある。
 監督であるダニエルズは、日本のアニメーションからの影響にも言及しているようですが、アニメよりはむしろダグラス・アダムスによる狂気のバカSFの金字塔「銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズの影響が感じられるでしょう。(次元を行き来するバース・ジャンプのトリガーとなるために「できるだけ馬鹿げたことをする」なんてアイディアは、まるでイタリアン・レストランでの不条理な時間や会計を不可能性ドライブに変換して推進力とする宇宙船・・みたいなふざけた話ですな・・・)

 映画としてのもう一つの要素は、アメリカに移民した中国系家族の物語ですが、その辺はもはやさほど目新しさはない気が・・。むしろ、映画ファンには、カンフー女優としてボンドガールにまで上り詰めた、大女優ミシェル・ヨー(中国系だが、出身はマレーシア)が、くたびれた中国系おばさんとして登場し、自らのキャリアのパロディーのような異次元を横断して輝きを取り戻す姿が、印象的な映画と言えるでしょうね。
 最後の最後まで、家族の亀裂がそれぞれの宇宙の命運を左右するという展開も、最近では想定の範囲でしかないでしょう。
 バカらしいのはいいですが、逆に、これでアカデミー賞まで取ってしまうとなると、映画界のこれからの方が心配になる映画でもありますな。

By 寅松