海外ドラマ

アンスラサイト ーカルトの秘密ー

ウルトラ・ハイテンションの頭おかしい系ミステリー!

Anthracite Season1
2024年 フランス カラー 45~52分 全6話 Mediawan、Anthracite Productions/Netflix Netflixで視聴可能
クリエイター:ファニー・ロバーツ 脚本ファニー・ロバーツ、マキシム・バルテルミーほか 監督:ジュリアス・バーグ
出演:ノエミ・シュミット、カミーユ・ルー、アティック、ジャン=マルク・バール、
ニコラス・ゴダール、レオ・ルグラン、カド・メラッド、ステファノ・カセッティ、ヴァンサン・ロティエ、マリアンヌ・バスレール、ラファエル・フェレ ほか

 フランス制作のぶっ飛んだミステリーで、めちゃくちゃ面白い!題名からすると、なんかカルト教団のドキュメンタリーものみたいだが、そういう話でもない。
 舞台は、フランス・オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方。高級リゾート地だが、地元の人たちから見たら、保守的でなんの未来もない閉鎖的な地域。舞台は、架空の町レヴィオナだが、実際にはイゼール、グルノーブル、サン・マルタン・デール、シャムルーズ、ラ・ミュール、ヴィネ、ポン=アン=ロワイヤン、サントノレ、メンズなどの地域で行われたようだ。
 クリエイターのファニー・ロバーツ(女性)は、グルノーブルの出身で、この地域で90年代に起きた、実際のカルト集団自殺事件(スイス、カナダ、フランスで集団自殺を起こした、太陽寺院(Order of the Solar Temple)事件)に影響を受けて、このドラマを製作したという。

 とにかくその地では、1994年に起きたカルトによる集団自殺があったことはたしかで、年長の村人は多くを語らないが、集団自殺があった別荘は荒れ果てて、今や地元の若者たちのドラック・パーティーのための最適ロケーションになっている。
 しかし、それが全てではない。タイトルが示すように、舞台のレヴィオナには、閉山しているが、かつてアンスラサイト(無煙炭)を採掘していた鉱山と無数の坑道が残っており、天才科学者に率いられた謎のハイテク企業が、その鉱山を買い取って、何やら鉱山から掘り出した細菌を培養して新薬の実験を繰り返している。
 その企業アルカシアがやって来て以来、子供の奇形や女性の流産が起こったと訴える住民もいて、この会社に対する強硬な反対運動も起こっている。
 何から何まで怪しい要素が満点の土地。しかし、ドローンで縦横無尽の撮影が可能になった現在、この地の風景は素晴らしく美しく、山間を通る道路の凄さは必見だ!

 そこを舞台にしたストーリーは、何気ない出だし。パリから訳あってこの地にやって来た若者、ギャロ(アティック)は、スキー貸し出しのバイトをしているが、そこにちょっとおかしなイダ(ノエミ・シュミット)が登場し、ギャロが「自分の父親を知らないか」と尋問するのが始まりだ。イダは、どうも引きこもりだったらしくリアルでの人間関係には、問題があるようだが、自分を「ウェッブ探偵」と称して、世界中に自分の検索に協力してくれるフォロワーを持つサイト<i-Data>の管理者だと説明する。
 この地にやって来たのは、ジャーナリストの父親ソルラ(ジャン=マルク・バール)が、30年前のカルトの事件を再び調べるために出かけたあと行方不明になったとかで・・その捜索らしい。
 ギャロは、何も心当たりもなく戸惑うばかり。しかし、そのすぐ後、別の女性客にスノボを一緒に探すように頼まれ、ゲレンデを登ると、今度は彼女からアプローチされ、キスをせがまれる。その場ですぐにやるたがる彼女に、「幾ら何でも来た早々で、バイトをクビになるわけにはいかないよ」と断ると彼女は怒って帰ってしまった。
 しかし、翌日のその女性の遺体が、30年前のカルト事件関連の行方不明者と同様の姿で発見され、ギャロは超美人の警部補ジョバンナ(カミーユ・ルー)に逮捕されることに。この窮地を救ったのが、先に現れたイダ。ギャロをつけていたおかげで、被害者とは、何事もなく別れたと証言してくれたのだ。
 しかし、その結果ギャロは、イダの父親探しに無理やり協力させられる羽目になるのだ・・・。

 とはいえ、話の内容はあまりに複雑でいちいち説明できない。結構集中を要するドラマではあるが、抜群におかしいし、面白いので自分で見てもらうしかないのだ。展開早くあっという間に見終わるだろう。
 一つ言えるのは、ファニー・ロバーツの脚本が、次々と起こる「どんでん返し」をベースに考えてあることだ。
 まず物語が進行すると、人物のイメージすら、全員最初のイメージとは違う人間であることが判明する。

 主人公のイダは、美人とはいえないが、ハイテンションで憎めない。しかし、実はウィッグを取ると髪の毛は短く、抗がん剤治療の後だとわかる。実は若い頃から白血病で、進学せずに無菌室で成長したのでハイテク技術には精通し、超オタクのネット探偵になったらしい。現在は治療も拒否して、長く生きられないのはわかっているが、今は失踪した父親のことで頭がいっぱいだ。
 ギャロの方は、単なる巻き込まれただけの間抜けなパリ生まれの若者に見えるが、実は色々と面倒な立場であることがわかってくる。娘と元妻のために、パリの犯罪組織を抜けて首謀者を密告した後、母親の出身地であるこの町に逃げて来たのだ。
 今は、母親の兄夫妻が営む農場に世話になり、スキー板貸し出しのバイトを始めたばかり。しかし、パリで自殺したことになっている彼女の母親ジュリエットは、カルト教団の教祖カレブ(ステファノ・カセッティ)の一番のお気に入りで、最初に失踪した高校の同級生ロクサーヌは親友だった・・。
 今は、ギャロを受け入れているクロード(カド・メラッド)とマリーは、温厚で保守的な地元民に見えるが、マリーはイダを排除しようと立ち回り、クロードは最後にとんでもない本性を現す。
 美人警官のジョヴァンナは、子供を流産してから夫の刑事エルワン(ラファエル・フェレ)との間もギクシャクしている。エルワンは、過去の失踪事件もカルト事件とつながりがあると見る、ジョヴァンナの精神状態を心配している。
 ギャロが最初に友達になる、美形すぎるスキー板のバイトの仲間ロメオ(ニコラス・ゴダール)は、軽薄なだけの若者に見えるが、実は、怪我でリタイヤした有名モトクロス選手なだけでなく、ゲイで、その上警官のジョヴァンナの実の弟であることがわかってくる。
 地元の病院で働く医師のアリ(レオ・ルグラン)は、実はロメオの同級生で、一度はカップルになりかけたらしい。実はでもロメオを気にしているが、彼女の母親はあっと驚く人物で、大きすぎる秘密を抱えている。
 ジョヴァンナとロメオの母親で、地元学校の校長であるカルメラは、アルカシアに対する反対運動の首謀者でもある。
 
 登場人物のイメージが変わるだけでなく、イダとギャロ、そして行きがかり上ロメオも加わって真相究明を進めるが・・・、次々現れるいかにも怪しそうな目標は、最後にはもっと意外な真相を導き出す。

 精神病院に収監されている、30年前の事件の教祖カレブは、イダとギャロが訪ねた後、世界の均衡を取り戻すために「闇と光の2人の子供を殺さなくてはなない・・」と謎の言葉をつぶやき、施設を脱走。
 ギャロとロメオが訪ねた、30年前の事件担当刑事ドゥニ・モニエは、認知症がだいぶ進んでいるが、お手伝いさんを(かつて教団エクランも使用していた)牛の骸骨の面をつけた人物に殺されて、覚醒してしまい、自分が過去に起こした過ちを隠すために、村の黒い聖母を祀るお祭りで、多くの人を毒殺するに至る。

 展開はどんどん危ない方向へ!
 教祖以外全員が死んだとされる30年前の事件で、一人子供が生き残ったことから、イダはネットワークを使って、教団には死んだ12人ではなくロシアから加わった13人目がいたことも突き止めるが・・・、実はその男は刑事でありながら教団に入れあげていたドゥニが殺して、別荘の壁に塗り込めていた。
 しかし、死んだことになっていたそのロシア人ヴァシリィ・デルコフの子供マニは、ドゥニが手を貸して死んだ偽装をして、バラシュールと名前を変えて、天才科学者としてアルカシアを率いていたのだ。
 じゃあ、それが・・・・って、思うと・・真相はとんでもない人物が握っていました!(笑)
 しかも、これまで大量殺人を行なってきた人物が捕まってやれやれと思うと、そう簡単には終われません。
 実は、最初のロクサーヌ殺害、ジュリエットの自殺、そしてギャロの伯母マリーの殺害に関わっていたのは、なんと結構ありがちな人物でした!ガーン。

 イダのお気に入りの曲らしく、ドラマの途中、イダが村祭りで歌ったり、車で歌ったり、BGMでもかかったりするのは<What Is Love>という曲。<Baby, Don’t Hurt Me>と繰り返す印象的な歌は、ドイツのシンガー<Haddaway>が1993年にリリースし93年から94年(つまり、ドラマの中のカルト教団エクランの事件、そして実際の大陽寺院の集団自殺が起こった時代)に、ヨーロッパ中で大ヒットしたナンバーだ。狙って使っているのだろう。

 スイス人女優ノエミ・シュミットのぶっ飛び具合と、フランスのラッパーでもあるアティックの情けない演技は面白い!
 子役時代から美少年で知られたアリ役のレオ・ルグランと、ロメオ役のニコラス・ゴダールには、サービスしすぎのベッドシーンもある!
 とにかく、最後の最後まで目が離せないし、最近のドラマではピカイチだと言っても差し支えない。

By 寅松
 

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