海外ドラマ

寄生獣 ーザ・グレイー

ヨン・サンホにこのクオリティでリメイクしてもらい、初めて原作も浮かばれたことだろう

기생수: 더 그레이/Parasyte: The Grey
2024年 韓国 43~61分 全6話 Climax Studio, Wow Point/Netflix Netflixで配信
監督:ヨン・サンホ 脚本:ヨン・サンホ、リュ・ヨンジェ 原作:岩明均(『寄生獣』講談社)
出演:チョン・ソニ、ク・ギョファン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・イングォン、キム・イングォン、ユン・ヒョンギル ほか

 特に、ヨン・サンホ推しのつもりもないのだが、見るべきレベルの新規配信作品がやたらにヨン・サンホ関連が続いてしまっている。それだけ、たくさん仕事をしているし、レベルも高いので、仕方がないといえば仕方がないのだが・・。

 本作は、説明するまでもなく90年代末に発表された、岩明均による漫画であり、これまでにも日本国内では、アニメ化や映画化がされて来た「寄生獣」を、その漫画ファンでもあったヨン・サンホ監督が、韓国を舞台に脚本を製作しドラマ化した。いわば「寄生獣」の韓国版スピンオフ作である。
 もともとアニメ監督であったヨン・サンホは、オリジナル漫画の理解者でもあり、岩明均も、寄生獣ファンのヨン・サンホならば自由に撮って欲しいと、映像化を快諾したとも言われている。
 実際、展開の早い全く違うドラマでありばがら、根底を流れる「人間という種」に関する哲学的な視点も明確だし、最後にはわざわざ日本から菅田将暉を招いて「泉新一」を名乗らせ、オリジナルファンへの敬意も払うなど、そつのない演出ぶりで、公開されるや、すぐさまNeflixの非英語圏作品でトップに上り詰めた。
 これで、今後何十年かこの作品が思い出される時、世界の人々が思い出すのが、この作品であることは確実だろう。
 山崎なんとかいう、人間の演出がまるでできないVFX出身のヘボ監督が撮った2本の邦画でなく、この作品が世に残ることほ、原作にとっても幸せにちがいない。

 本作も、そのオープニングは原作とほぼ同じで、人間という種の歯止めなき増殖が引き起こす地球そのものの危機を危惧した何者かが、人間を半減させる目的で「寄生獣」の幼虫を地球に送り込んだことが示唆されている。
 韓国で発芽したその幼虫は、イベント会場でドラッグでハイになっている若者に侵入し、そのまま姿を現して人間たちを襲ったことから、映像が拡散され、韓国警察内にはすぐにも「グレイ対策班」が設立された。
 その舵取りを任されるチーム長、チェ・ジュンギョン(イ・ジョンヒョン)がまた強烈だ。ナチの女拷問人をモデルにしたとしか思えない恐ろしい人物で、主人公であるチョン・スイン(チョン・ソニ)殺害に執念を燃やす。
 彼女の過去も当然のように説明される。スーパーの駐車場で寄生獣に憑依された夫を、なんとか化学薬品で生け捕りにしてたが、寄生獣の刃物のような触手で耳を切り落とされ、今はつけ耳をつけている。
 夫は、拒否すれば否応無く化学薬品を噴出する恐怖のヘルメットを被せられ、近くに寄生獣を発見したら感じたら通報する猟犬として、ジュンギョンに使われることになる。
 一方、このドラマでは「寄生獣」たちの方も、早めに組織化を果たしている。それが、やはり韓国お得意の怪しげなカルト教会であるところも笑える。
 クォン・ヒョクジュ(イ・ヒョンギュン)という、もともとの「セジン教会」というカルトの牧師は、今では寄生獣の宿主となり、そこには人間に寄生を果たした同士が集まっている。クォン・ヒョクジュの話に、どれほど寄生獣たちが共鳴しているのか不明だが、「組織を作ることで、他の種を寄せ付けない力を持っている人類に対抗するためには、自分たちも組織が必要だ」と論理は明快で、その意味で漫画の方でも論理を優先する寄生獣にも説得力があるようだ。

 一方で、主人公となる2人のユニークさは、原作とちがった本作特有のテーマを持たせるのに役立っている。
 原作の主人公が、高校生の泉新一で、寄生獣が右手までにしか寄生できなかったのは、明らかに作者が主人公と寄生生物とともに対話することで成長してゆく姿を志向したからに違いない。
 一方、本作で寄生される主人公チョン・スイン(チョン・ソニ)は、29歳で大人である。大人ではあるが、家族との繋がりもなく、孤独のなかで閉ざされた人生を送って来た。夫から暴力を受けていたスインの母親は、逃げ出して他の男と新しい家庭を持ち、その一方で暴力の矛先が自分に向けられた彼女は、生きるために警察に通報する。その時、彼女に手をさあ忍べてくれた唯一の刑事が、グレイチームが派遣されるナミル署に勤務するチーム長キム・チョルミン(クォン・ヘヒョ)だ。
 父親に殴られた時、感じた「ああ、また不幸になる・・」という感覚を意欲覚えているほど、不遇の人生を送って来たスイン。いまは、慎ましくスーパーで働いているのだが・・・、運悪く些細なことで激昂した統合失調症のストーカーに襲われ、危うく殺されそうになってしまうのだ。
 よりによって、寄生獣が入り込んだのは、異常者に刺されて倒れたスインの体であった。通常の工程なら、まずは人間の脳の到達して頭脳を食べた後、その体を乗り物として乗っ取る順序だが、宿主が死んでは元も子もない寄生獣は、まずはストーカー男を殺すと、その後はスインの生命を回復させるために全力を尽くさざるを得なかったため、脳を支配できなかったのだ。
 のちにハイジと名付けられる寄生獣がスインの体を支配できるのは15分が限界で、また同時には意識を持てないので直接対話するのは難しい。(のちに、スインが昏睡状態にある間に、ハイジと対話して、生きていても仕方がないと絶望する彼女を説得する。)
 スインとハイジは、直接対話できないために置き手紙や、スインにハイジが寄生した時の目撃者で、のちにスインとともに逃げ回ることになるヤクザ、ソル・カンウ(ク・ギョファン)を通じて意思を伝えることになる。
 ハイジも最初のうちだけ、書き文字はぎこちないが、当初からほぼ完成した大人の人格で、自分が生き残るためにスインを説得する行動も一貫している。
 そこで描かれるのは、スインとっては、ハイジと共生することにより、絶望と孤独から抜け出す過程であり、一方ハイジにとっては、本来自分だけで生き残る使命を受けた寄生体であるにもかかわらず、別人格のスインとともに生きなくてはならない状況下で、他者を信頼し協力するという人間の考え方を受け入れる過程である。
 
 スインの人生に絡むもう一人の人間ソル・カンウも、ある意味、あらゆる関係を次々失う凶運の人生を歩む男である。小さなヤクザ組織の鉄砲玉で、相手組織のボスを殺し損ねて、自分の故郷のナミルに帰って来たのだが、脳腫瘍で静養してたはずの姉は、実は寄生獣に食われセジン教会のメンバーになっている。可愛がっていた妹も、すでに殺されて寄生獣たちの食料にされていた。
 相手組織から狙われ、自分の組織にも裏切られ、さらにはスインが奇生された場面にも居合わせて、ハイジからも脅される。
 ダメヤクザらしく、強いのからは逃げて自分だけの身を守るのが、この男の本来の行動原理だが、キム・チョルミンからも「お前は、いつも逃げ続けてばかりで、全てをダメにして来たろう」と説教されるダメさ加減が、スイン/ハイジと関わることで徐々に変わってくるところが印象的だ。
 最後には、なんとグレイチームに加わる決心をしたらしい。

 あまり表情のないスインとハイジを演じたチョン・ソニは、2018年の「ボーイフレンド」、キム・ダミ主年映画『ソウル・メイト』などで知られるチョン・ソニ。
 徐々に心境の変化を見せる、おどけたヤクザ、ソル・カンウを演じたのは、『キル・ボクスン』や「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」、そして何よりも「D.P. -脱走兵追跡官-」のアン・ホヨルとして、近年ノリに乗っているク・ギョファンである。
 また、地元ナミル署に勤務する刑事で、家庭内暴力から保護したスインを、その後も見守っていたキム・チョルミンを演じていたのは、クォン・ヘヒョ。『呪呪呪/死者をあやつるもの』でもスンイル製薬のイ・サンイン専務を演じていた。そのチョルミンの部下で、寄生獣グレイ側に寝返っている刑事カン・ウォンソクを演じるのは、『呪呪呪/死者をあやつるもの』「謗法〜運命を変える方法〜」のキム・ピルソン役、キム・イングォンである。

 演技者はどれも素晴らしく、アクション/VFXは高度、撮影/編集も見応えがある。本数は6本なので、登場人物の心境変化や成長を示すにはややハンデがあるが、それでも、納得できる程度には物語が練ってあるので、寸足らずには感じない。
 
 本作の舞台は、架空の街ナミル市となっているが、ヨン・サンホが脚本を担当した最近のNetflixドラマ「ソンサン -弔いの丘-」も、田舎の警察署がナミル署である。ストーリーに関連性はないので、ひょっとして、セットなどを使いまわしたのだろうか?(笑)

By 寅松