海外ドラマ

誘拐の日

低迷ENAが放つ・・、ウヨンウ以来の場外ヒットか!?

유괴의 날/The Kidnapping Day
2023年 韓国 60分 全12話 A story/ENA Amazon Primeで配信
監督:パク・ユヨン 脚本:キム・ジェヨン 原作:チョン・ヘヨン(「誘拐の日」米津 篤八 訳 ハーパーコリンズ・ジャパン)
出演:ユン・ゲサン、パク・ソンフン、ユナ、キム・シンロク、キム・サンホ、ウ・ジヒョン、キム・ドンウォン、クァク・ジャヒョン、パク・ジヌ ほか

 これはやっちまったかも!地味なタイトルと出だしで、あんまり期待はしていなかったのに唖然!今年の韓国ドラマの中では、ぶっちぎりの最高傑作だ!

 実は、2023年に入ってから、これまで韓国ドラマを牽引してきた衛星放送の2大チャンネル、tvNとJTBC、そしてそれぞれのチャンネルで大半のドラマを製作しているスタジオ・ドラゴンと SLL(旧JTBCスタジオ)が不調と言われている。
 もちろん韓国ドラマ全で見れば、今年に入ってからも「ザ・グローリー」「D.P.2」「マスクガール」など驚異的な名作は排出されているが、これらは全てNeflixが直接契約したオリジナル作品ばかり。
 tvNとJTBCでもかろうじて「力の強い女 カン・ナムスン」「キング・ザ・ランド」「医師チャ・ジョンスク」「イルタ・スキャンダル」などは韓国での視聴率を稼いではいるが、内容は保守的で、10年以上前の韓国ドラマに逆戻りしたような内容ばかりだ。

 ところが、NeflixではなくAmazon Primeの独占で始まった、この「誘拐の日」がとんでもなく出来がいい!
 製作したのは、2大スタジオ以外では、寡作ながら「シグナル」「100日の郎君様」「キングダム」「智異山」「ビッグマウス」などのヒットを飛ばしている第3のスタジオ、AStory。2006年に設立されて以来、地道に評価を固めてきたこのスタジオを世界的に有名にしたのは、なんといっても2022年のウルトラ大ヒット作「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」だろう。
 この作品は、当初、skyTVとメディアジニーが合流してスタートした新興ケーブルチャンネルのENAで放送された作品で、当然ハンデがあったのだが、視聴率的にもうなぎ上りで、最終的にNetflixでリリースされると爆発的なヒット作になった。
 実は、ローンチ早々「ウ・ヨンウ」でウハウハになったENAも、その後の1年は嘘のように不調続きで、「グッジョブ」「恋愛なんていらない」「社長をロック解除」「ボラ! デボラ〜恋にはいつでも本気〜」と後続ドラマが視聴率低迷を極めている。結局このチャンネルは、「ウ・ヨンウ」のなにが凄かったのか?もわかっていないようだ。

 しかし、1年ぶりにAStoryがENAでリリースした本作は、視聴率も1.8%からスタートし、最終回には全国でも5%を超える健闘を見せている。他のドラマの視聴率が軒並み1%未満のENAにとっては久々の救いの神だろう。
 もちろん内容的に家族向けというわけではないし、なぜか配信も最初からAmazon Prime独占なので、「ウ・ヨンウ」的な意味でのヒット作にはならないかもしれないが、内容的にはまさに、久々の場外ホームラン的傑作と言っても過言ではない。

 まずミステリー作家チョン・ヘヨンの原作小説があり、複雑な展開の話が破綻なくまとまっている。『消された女』、映画版『チーズ・イン・ザ・トラップ』、『ミス・ワイフ』などを手がけたキム・ジェヨンの脚本も素晴らしく、それぞれのキャラクターがよく練られていて、登場人物の行動に無理がない。
 監督のパク・ユヨンは、奇を衒わずに丁寧に描いていく。キャスティングに非常にセンスが感じられるのも特徴だ。

 物語は、30年前の病院での傷害事件からスタートする。無免許の医者が執刀して、入院していた娘が死んでしまった父親が、その医師を無免許と知りながら雇っていた病院長を、手近にあったメスで刺そうとしたのだ。しかし、男の手は滑り、病院長が抱いていた娘の首を刺していた。
 最初の方では、全く意味がわからないが、のちのちこれが全ての始まりであったことがわかって来る。
 現代に移り、車に乗った男ミョンジュン(ユン・ゲサン)が、大きな病院のオーナーである院長の豪邸の周りを周回している。携帯で、女の指示を受けながら、その家から子供を誘拐しようとしているらしい。
 ミョンジュンには、生体移植手術が必要な重病の幼い娘ヒエ(チェ・ウヌ)がいて、その膨大な手術費用を捻出するためには、「誘拐」しかないと、女に急かされているようだ。
 しかし、ミョンジュンが意を決して家に近づくと、どうやら家には警察が到着して、事件があった様相である。殺人事件が起こったようだ。
 慌てたミョンジュンが、そのまま車で逃げようと裏へまわると、ちょうど家からフラフラと出てきた少女と路上で出くわす。ミョンジュンは、危うくブレーキを踏んで、少女の前で車は止まったが、なぜか少女はそのままその場で倒れてしまった。
 少女が、誘拐のターゲットだと理解したミョンジュンは、少女をそのまま車に乗せて、その場を立ち去った・・・。
 実はその少女ロヒ(ユナ)は、(一時的なものだったが)自分の生い立ちや、その日常に関する全ての記憶を失っていた・・。誘拐犯を、自分の父親かと勘違いしたロヒと、自分のしでかしたことに狼狽した気の弱い誘拐犯の奇妙な共同生活がはじまった。

 大々的なオーディションで選ばれた、チェ・ロヒを演じるユナは、Apple TVのオリジナル作「パチンコ」にも出演しているが、全く未知数だったろう。最初から存在感があるが、特に最後の2話では、驚異的な演技色を見せる!(ゆくゆく大スターになるにちがいない)

 もう一人の主役、キム・ミョンジュンを演じるユン・ゲサンは、もともとラッパー/ミュージシャンで若い頃はシットコムなどで活躍したが、おっさんぽさを前面に出してから、俳優として幅が出た役者。映画では『犯罪都市』『ゴールデンスランバー』『マルモイ ことばあつめ』などで個性的な役を演じてきたが、ドラマでここまで情けない役は初めてだろう。
 ミョンジュンは、柔道の試合で相手を死なせてしまった過去があり、「怪物」と呼ばれるほど腕っ節も強いのだが、気が弱く、実に人が良い。強気のロヒに命令されてばかりだが、さほど軽率なわけでもなく深く考えて行動している人物である。回が進むと、子供の頃のIQテストでも高能力であったことが明かされる。
 ゲサンは、この人物の幅広さをうまく表現した。

 キム・ミョンジュンを操っているように見える、謎の多い元妻、ソ・ヘウンを演じたキム・シンロクは、まさに近年演技派として高く評価されている注目女優だ。「謗法〜運命を変える方法〜」のソジンの母親であった祈祷師のヒソク役、「怪物」のムンジュ署の刑事オ・ジファ役などで注目され、ヨン・サンホ監督のヒット作「地獄が呼んでいる」シリーズでは、パク・ジョンジャ役を勝ち取った。また、ディスニー・プラスの「ムービング」にも出演している。
 圧巻の演技力なので、ラストの大芝居も安心して見ていられるのは言うまでもない。

各キャラクターを演じた8人の俳優さんのコメント

 
 「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」で仕返しされる悪辣ないじめ首謀者の一人を演じていた2枚目パク・ソンウンが、使命感のために地方所轄に転属になった上に、ミョンジュンとロヒに肩入れして振り回されるパク・サンユンを演じるのも楽しいが、実は他の助演者の配役が、ずべて一捻りされていて感心するのだ。
 ロヒの両親が殺された自宅を担当していたセキュリティ会社の職員で、ロヒの父親と母親を殺害した罪を自ら認めるパク・チョルウォンを演じるのが、ベテラン、キム・サンホ。膨大な映画/ドラマのキャリアがあり日本映画にも出演したことがある名優は、不気味な人物から、自らの過去の過ちに苦しめられている悲しみを抱えた人物へと、途中で印象の変わる難しい役を演じる。
 「検事ラプソディ」で幼児語を喋るムーダンを演じていたクァク・ジャヒョンが、パク・サンユンの上司である強力班チーム長だったり、「秘密の森 シーズン1」の賄賂をもらう警官がぴったりだった、悪辣顔のパク・ジヌが病院の医師を演じていて、「なんだ?」と思ったら、あとから無免許医師であることが判明したりというのも楽しめた。
 冷酷でプロフェッショナルな殺し屋ながら、唯一キム・ミョンジュンにだけ犯行を阻止され、「子供は、あんたや俺が守ってやるんだよ」と諭されたせいなのか?任務の最中にロヒの仕掛けた、アナフラキシー自爆に慌てて、彼女を病院に運んでしまったために、最後はジェイデン(カン・ヨンソク)に殺されるホヨンを演じたキム・ドンウォンも印象に残る。演劇出身のようだが、「空から降る一億の星」でも似たような秘書兼殺し屋を演じていた。「キングダム」や「イカゲーム」への出演もチョイ役だったが、このドラマでどうやら注目され始めたらしい。
 (少々ネタバレかもしれないが・・)
 そして、なんと最終回には、ホヨンの弟が登場し、ジェイデンに復讐することに!しかも、その俳優は、超大物、カン・ハヌルだ!ハヌルは、チョン・ソミンと共演したラブコメディ『30日』が、現在韓国でヒット中!
 
 全12話のドラマは、毎回思わぬ方向に話が展開し、目が離せなくなるのは必至。面白さだけなく、特に最後2話のヒロ(ユナ)の思いの表明には、涙してしまうの違いない!

By 寅松

12話、カン・ハヌル、カメオ出演シーン!

撮影風景