オンランシネマ

声もなく

セリフでなく、美しすぎる田舎の風景で悲しみを語る!

소리도없이/Voice of Silence
2020年 韓国 99分 Lewis Pictures、Broedmachine、Broccoli Pictures Netflixで視聴可能
脚本:ホン・ウィジョン 監督:ホン・ウィジョン 
出演:ユ・アイン、ユ・ジェミョン、ムン・スンア、イ・ガウン、イム・ガンソン、ユ・ソンジュ ほか

 「地獄が呼んでいる」『ソウル・バイブス』『バーニング 劇場版』などで大変人気の高い(ま、今は薬物疑惑でお騒がせですが・・)ユ・アイン、「秘密の森〜深い闇の向こうに〜」「ライフ」「梨泰院クラス」で知られる名優ユ・ジェミョンが出演しているが、無名の女性新人監督ホン・ウィジョンが監督した低予算の映画が、2021年度の龍映画賞・百想芸術大賞で各賞を総なめにして、驚かれた作品だ。
 ようやく、Netflixで視聴可能になった。
 あまり多くを説明しないドラマである。その意味では、ちょっと日本人っぽい感覚だろう。
 
 場所は特定されない。なにもない田舎の農村からトラックで近くの街に出て、卵の販売をしてるチャンボク(ユ・ジェミョン)とその助手テイン(ユ・アイン)は、もう一つ裏の商売をしている。
 犯罪組織が、持ち込んだ死体を養鶏場で処理して、始末する処理係だ。
 寒村で、ほかにはまともな産業もないようなところらしい。
 足が悪いため、人並みには歩けないチャンボクは、声を出せないやや知恵遅気味のテインに、「欲を出すな。こうして暮らせるだけでも十分だろ。買ってやった、説教のテープを聞けよ!」と毎日言って聞かせる。
 死体処理をしているくせに、妙に熱心なキリスト教信者なのだ。テインのことは、子供の頃から面倒を見ているらしい。
 ある日、死体処理の準備をしている2人のものとに、地元の犯罪組織を仕切っている若いボス、ヨンソク(イム・ガンソン)がきて、「一つ頼みごとを聞いてくれ」と凄む。「死体処理が専門ですから・・」といいよどむチャンボクに、「2〜3日ものを預かるだけだから」と仕事を押し付けたのだ。
 しかし、指定された住所に着くと、そこにはお面をつけた少女が一人残されていた。驚いてヨンソクに電話をかけるチャンボクだが、預かりものは誘拐した少女で、数日間、面倒を見ろという。
 雇われた誘拐犯たちが、男の子と間違えて長女の方を誘拐してしまい、父親は女の子だということで、身代金を渋っているらしい。
 仕方なく2人は、チョヒ(ムン・スンア)という少女を連れ帰るものの、家族がいるチャンボクは無理だということで、少女はテインが自転車に乗せて自分の家に運ぶことに。
 美しいが、何もない村のはずれに建つ掘っ建て小屋の家には、驚いたことにチョヒより幼い少女がテインの帰りを待っていた。チョヒは、その娘ムンジュ(イ・ガウン)も誘拐されたのだと思い込むが、ムンジュは、テインをお兄ちゃんと呼ぶ。
 本当の兄妹かどうかについては説明されないが、少なくとも家族として暮らしているようだ。チョヒは、持ち前の賢さでムンジュを手懐け、3人の新しい生活が始まった。
 数日で片がつくはずだった誘拐計画は、チャンボクとテインにチョヒを押し付けた張本人のヨンソク自身が、組織のさらに上層部の逆鱗に触れ、粛清されてしまったことで暗礁に乗り上げる。この件は、ヨンソクが独断で手がけていたらしいのだ。
 慌てたチャンボクは、誘拐業者に掛け合うが、面倒なので少女を売り飛ばすと言われて、仕方なく自分たちで身代金を回収する羽目になってしまう。
 チャンボクとテインは、組織の持ち込む死体の処理は請け負うが、少女を売り飛ばすことには二の足を踏むのだ。
 チョヒに協力してもらい、なんとか脅迫状やポラロイドを送り、街の市場街で金を受け取ったチャンボク。しかし、あまりに気の小さいこの男は、勝手に逃げ回り共同ビルの階段で足を滑らせて、運悪く死んでしまった。
 連絡がなかったら、チョヒを村はずれの養鶏場の夫婦に預けるように指示されていたテインは、少女を養鶏場に置いて帰るのだが・・・次第に自分が何をしたかを理解しはじめる。夫婦は、他にもたくさんの子供をあつめている、小児人身売買業者なのだ。
 いてもたってもいられなくなるテインは、驚きの行動に出るのだが・・・・。

 サスペンスと言っても、誘拐される過程は一切描かれない。全編を通して描かれるのは、誘拐した後に被害者を押し付けられて混乱を極める下請けの2人の混乱ぶりと、結局共同生活をすることになる、唖の男とその妹と被害者少女の、田園での日々の暮らしである。
 時代も場所もちがうが、2018年の「TRUST」を思い出した。ゲティ家の歴史的誘拐事件をダニー・ボイルがドラマに仕立てた作品で、同じ題材をリドリー・スコットが映画にした「ゲティ家の身代金」(2017)とちがい、ゲティ家の孫を棚ぼたで誘拐することになった、カラブリアの田舎マフィアの迷走ぶりがよく描かれていた。
 田舎での監禁生活は、のんびりしているが、だからと言って逃げ出すのは難しい。都会育ちのジョン・ポール・ゲティ3世も、チョヒも、脱走を企てるが、何もない田舎の村の恐ろしさを体験することになる。
 
 唖であり知能も低いテイン、脚が悪くまともに働けないチャンボク、2人とも田舎でも最下層の暮らしをする男たちだ。チョヒの方は、11歳という年齢にしては十分聡明で美しい少女だが、(跡取りになる)弟に夢中な父親が身代金を出し渋るような家庭に置かれていて、そのことで傷ついている。
 奇妙な巡り合わせで、運命共同体となる彼らには、様々な感情が交差するが、設定上、台詞で語られることは殆どない。
 精悍な体つきをホン・ウィジョン監督にダメ出しされて、15キロだらしなく太って、テインの雰囲気を全身で表現したユ・アインの演技はいうまでもなく素晴らしいが、それ以上に登場人物の感情を雄弁に語っていたのは、美しすぎる田園の風景だろう。
 撮影のパク・ジョンフンのカメラは、美しくも物悲しい田園地帯の夕暮れから夕闇を見事に捉えていて、「マジックアワー」という言葉を広めた『天国の日々』(テレンス・マリック監督:1978)の撮影監督、ネストール・アルメンドロスを想起させるほどの素晴らしさである。

By 寅松
 

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