海外ドラマ

埋もれる殺意〜26年の沈黙〜 (吹き替え版)

おばんさとインド系コンビは、ついに時効警察?的境地に到達するのか!

Unforgotten Series 2
2017年 イギリス カラーHD 45分 全6話 ITV WOWOW/AXNミステリーで放映 (Amazonでは現在有料)
クリエイター:クリス・ラング 監督:アンディ・ウィルソン
出演:ニコラ・ウォーカー、サンジーヴ・バスカー、ロレイン・アッシュボーン、マーク・ボナー、バドリア・ティミミ、ロージー・キャバリエロ、ピーター・イーガンアディール・アカタ−ル ほか

 超大金持ちとか、超下層階級とかではなくて、残りの8割くらいのイギリス人を描くのがITVドラマの真骨頂だろう。今回も、ほとんどの登場人物が実に普通の生活を営む中産階級的イギリス人。それぞれの境遇の中でそれなりに大変な時期を迎え奮闘していたりする。それだけ見ると、ごくごく心温まる話なのだが、そんな普通の人たちの過去に潜むどす黒い過去の亡霊を呼び覚ますのが、クリエイター、クリス・ラングのこのドラマである。
 南イングランドのリー川で引き上げられたスーツケースの中から刺殺体が発見される。現場に呼ばれたキャシー・スチュアワート警部(ニコラ・ウォーカー)と、相棒のサニー・カーン警部補(サンジーヴ・バスカー)は、90年代の頭の殺人事件の真相を探り始める。
 殺された男は、最初の時点では「レジャー産業に従事していて、保守党のために資金調達していた」という曖昧なイメージの人間。彼女の妻だったテッサ(ロレイン・アッシュボーン)は、今は刑事になって別の男性と結婚している。夫の遺体が発見されたとは驚きながら、何かを隠しているようだ。しかし、刑事なので取り調べはなかなか進まない。
 このドラマの特徴だが、今回も事件とは全く無関係と思われるような人々の日常が事件と同時に描かれ、やがてそれらが接点を結ぶ。
 結婚でイスラム教に改宗したしたらしい国語教師の女性(「カーニバル・ロウ」で妖精の女王を演じた、バドリア・ティミミが演じる)は、問題のある学校の校長の面接に向かい、ゲイの事件弁護士(マーク・ボナー)は、パートナーと共に養子縁組の試験期間を乗り切ろうとしている。自分では子供のいない中年看護師(ロージー・キャバリエロ)は、苦しい抗がん治療に抵抗しようとする10代の娘の唯一の理解者で話し相手でもある。
 みなちょっとだけ性格的に歪みはあるが、悪人には見えない普通の人々。なんのつながりもなさそうな彼らが、遺体から発見されたポケベルのシリコンデータが復旧したことで、つながり始める。
 一方、キャシーの父親の行動にも不審な影が。どうやら、前回のシリーズで亡くなった妻(キャシーの母)が生前浮気をしていたことを知ったことと関係があるらしい。
 ぼんやりしていた被害者の輪郭も、次第に見えて来る。80年代にクラブを複数経営していらしい男には、自らも幼少時に性的虐待を受けた過去があったが、80年代には同好の有力者をあつめて、弱い立場の少年少女を性的に弄んでいた疑いも持ち上がる。
 キャシーは父親の心配をしながら、サニーはあいかわらず娘たち(今回は登場する)の心配と、マッチングアプリでのデートをこなしながらも捜査は進む。相変わらず鋭い、キャシーの推測で事件は驚くべき展開を迎えるのが・・。
 今回は、人物描写と共に登場人物が住む地域がみなイングランドの観光地であり、ご当地もの的に美しい風景も楽しめる。
 日本で言えば湘南的南部の海岸都市ブライトン、大聖堂が有名なソールズベリー、イギリスの「美しい村」としてつとに名高いコッツウォルズなど、それぞれ特徴のある風景が素晴らしい。手持ちで、狭いドアや通路から被写体を追いかけておくなど、カメラも今回は工夫があって面白い。
 オープニングもITVにしては十分洗練されてきた。ロンドンで活動する、オルタナポップ・デュオ<Oh Wonder>が歌う、オープニングテーマ曲<All We Do>のしっとりした雰囲気もドラマに似合っている。

 前シーズンにはないが今回は上からの圧力もあり、最終的に2人は難しい判断を迫られることになるのだが・・。
 多くの要素をすべて検討して、自分たちの責任として判断を下した、キャシーとサニーの話し合いには、イギリスの高度な市民社会を垣間見た気がした。(末端の警察官はおろか、官僚、政治家、裁判官までが自分の責任範囲をできる限り狭めて、自分では何一つ判断しないように立ち回ることが美徳である、日本のような脳の小さなアリさん国家では到底、成り立たない話だろう。)

by 寅松

埋もれる殺意〜30年目の贖罪〜(シリーズ4)の評はこちら>>
埋もれる殺意〜18年後の慟哭〜(シリーズ3)の評はこちら>>
埋もれる殺意〜39年目の真実〜(シリーズ1)の評はこちら>>

※(本サイトでは通常、全て字幕版を紹介しているが、本作に限っては日本で初放映したWOWOW以来字幕版が製作された痕跡がなく、字幕版が供給されていないため、吹き替え版視聴による感想であることをお断りしておきます)

出演者のインタビューを含むトレイラー