海外ドラマ

埋もれる殺意〜18年後の慟哭〜 (吹き替え版)

おばさん警部とインド系警部補が、ついに超ダークな殺人を掘り当てる!

Unforgotten Series 3
2018年 イギリス カラーHD 45分 全6話 ITV WOWOWで放映 Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:クリス・ラング 監督:アンディ・ウィルソン
出演:ニコラ・ウォーカー、サンジーヴ・バスカー、ジェームズ・フリート、アレックス・ジェニングス、ケヴィン・マクナリー、ニール・モリッシー、ピーター・イーガン、キャロライナ・メイン ほか

 脚本家、クリス・ラングが主導する英国ITVの人気刑事ドラマシリーズ第3弾。ロンドン、ビショップ署のキャシー・スチュワート警部(ウォーカー)が率いるチームが、かなり時間が経った犯罪を掘り返して立件してゆくというトーリーである。シリーズ1は39年前、シリーズ2は26年前、そして今回が18年と、それでも少しづつ最近(?)の事件に近づいてはいるようだ。
 今回は、ロンドンの高速道路の改修工事現場から白骨遺体が掘り出されたことから事件がスタート。当初、発見現場から、骨は相当昔のものであると思われたが、腕の骨折治療にチタン・プレートがつかわれており、そのプレートのロゴマークからキプロスのメーカーが突き止められたことで事件は大きく動き出す。
 プレートがつくられた期間は、90年代の後半の数年間のみであり、しかも詳細な検証から遺体が13歳から15歳の女性のものであることが分かったのだ。キャシーと相棒のサニー警部補、そして部下たちは2000年前後の少女失踪事件のリストから、海外で骨折の手術を受けた可能性のある被害者を探す捜査を始める。
 ラングの脚本の特徴は、捜査の過程とともに、事件に関わる人々の現在の日常が描き出されることだろう。今回も捜査の進展とは関係なく、のちに事件との関わりが判明してゆく4人の男たちの日常が描かれてゆく。
 ジェームズ・ホリス(マクナリー)は、TVのクイズ番組の人気司会者でジャーナリスト。雰囲気的には、イギリスの「みのさん」風だ。鋭い司会で人気だが、私生活では離婚した妻と間の息子がしばしば薬がらみの問題を起こし、毎回振り回されている。
 ティム・フィンチ(ジェニングス)は、表面上人当たりの良い精神科医だが、患者である老女を虐待/恫喝したとして訴えられている。
 どうも精神の状態が不安定そうなクリス・ロウ(プリート)は、犬とバンで生活しており、浮浪者にも見えるが、芸術家で画廊で自作の絵を販売している。今は、外国難民の援助施設で知り合った、ジャミーラに思いを伝えようと準備していた。
 妻子のいるピート・カー(モリッシー)は、成績も悪く追い詰められた証券セールスマン。ぼけた老人を説得して、なんとか無理やり小切手を書かせるが、最初から怪しげな雰囲気が漂っている。
 彼ら4人は、同じ学校の出身者で今も連絡を取り合う仲だが、事件の核心に関わってくるという構成だ。
 先の2作品同様に、過去の事件とその事件に関わる人間がそれぞれの抱えてきた現実、さらに今回は娘が行方不明になった家族の悲劇を含めてしっとりと描写してゆく。細部にまでリアリティがあり、相変わらず、クリス・ラングの脚本の完成度は素晴らしい。捜査の展開に関しては、キャシーの直感に頼る部分が確かに大きいが、直感力のない刑事物では何も解決しないので致し方ない部分はあるだろう。
 事件関係者だけでなく、程よいバランスで主人公のキャシーや、相棒のサニーの家庭の事情も描写される。息子はニューヨークに渡り、一緒に暮らしていた父親(認知症の兆候がある)は恋人ができて、同僚で話し相手だったサニーにも、実は最近再婚候補の相手ができて忙しそうだ。キャシーには更年期障害だけでなく、孤独の影が忍び寄る。しかし、昔の事件の担当だった退官した元刑事がいい感じで登場するのでご心配なく。
 サニーの方にもかつて自分と娘たちを捨てて出て行った前妻が現れて心を乱される。
 今回もイギリスご当地ものの要素はあり、ロンドンのほか容疑者となる3人が住む、ブリストルやノーフォーク州、元々の事件が発生したハンプシャー州などの美しい景色も取り入れられている。いずれも、ロンドンから車で行ける範囲なのがリアリティーがある。
 最近は、BBCの「ザ・スプリット 離婚弁護士」でも主演で大忙しのニコラ・ウォーカー、映画『イエスタディ』でも主人公の父親を演じていた、サンジーヴ・バスカー、主演の2人は安定の演技力。
 映画『フォー・ウェディング』などで知られるベテラン、ジェームズ・フリートやロイヤル・シャークスピア・シアター出身のアレックス・ジェニングス、『007 私を愛したスパイ』でデビューし、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョシャミー・ギブス役でよく知られるケヴィン・マクナリー、役者だけでなくパブ・チェーンなどのビジネス(実際に失敗もしている)でも実績のある、ニール・モリッシーなど、容疑者側の配役も素晴らしい。

 今回の、事件は現代のSNS事情を背景に、捜査は思わぬ障害に出くわすし、さらに最後で浮かび上がる犯人は想像を超えた人物で、事件そものもが思わぬ大事件に展開してゆく。犯人を逮捕しただけでは、その処理は終わらないほど大きなものになるが、疲れ果てたキャシーはしばらくの休みを取ることに・・。
 彼女自身は、このままの引退も悪くないとほのめかしてはいるが、シリーズ4も決定しているので必ず帰ってくることになるだろう。スリーズ4の撮影スケジュール自体は、コロナウィルスの問題で少々伸びているようだ。

※(本サイトでは通常、全て字幕版を紹介しているが、本作に限っては日本で初放映したWOWOW以来字幕版が製作された痕跡がなく、Amazonでも字幕版が供給されていないため、吹き替え版視聴による感想であることをお断りしておきます)

by 寅松

埋もれる殺意〜30年目の贖罪〜(シリーズ4)の評はこちら>>
埋もれる殺意〜26年の沈黙〜(シリーズ2)の評はこちら>>
埋もれる殺意〜39年目の真実〜(シリーズ1)の評はこちら>>

出演者のインタビューを含むトレイラー(ロケーションについて)