オンランシネマ

イエスタデイ

ダニー・ボイルがこんな映画撮る必要あった?とは思うが・・・たまにはほのぼのしたのも撮りたかったのか・・?

Yesterday
2019年 イギリス 116分 Working Title Films/ユニバーサル Amazon Primeで視聴可能
監督:ダニー・ボイル 脚本:リチャード・カーティス 原案:ジャック・バース、リチャード・カーティス
出演:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン、エド・シーラン、ジョエル・フライ、サンジーヴ・バスカー、ミーラ・サイアル、サラ・ランカシャー、ジャスティン・エドワーズ ほか

 タイトルがなんとも映画の本質を表している。誰でも知っている有名曲がタイトルで、誰でも知っている有名なミュージシャンを取り上げて、実に当たり障りののないコメディーで、たぶん教科書で取り上げても大丈夫な作品だ!ダニーボイル的ではなく、ポール・マッカートニー的!
 話の構造は、パラレル・ワールドものなのだろうが、説明はされずファンタジーというほどの面白みもない。
 ある日、世界中で12秒間の停電が発生し、その前と後では微妙に違う世界になっていた・・。それを知っているのは主人公のジャック(パテル)のみ。そもそも中学時代にオアシスのカヴァーをしていた音楽少年、パテルが愛してやまない究極の存在、ビートルズが歴史から消え去っていたのだ。Googleで検索してビートルズが出てこないだけじゃない。自分が大事にしていたビートルズのレコードも1枚も出てこない。物理的にビートルズは歴史から消えたのに、その音楽はジャックの頭の中に残ってたのだ。ちなみに、案の定、ビートルの影響がでかかったオアシスも存在していない、が、ローリング・ストーンズは存在していた。(笑)後から知るのだが、ペプシはあるが、コカコーラは存在していない!あの有名小説も!
 実は、ジャックは小学校教師の資格を持ちながら、スーパーのバイトでしのいで、シンガー・ソングライターを目指していた。地元サフォークで地道に活動を続いけるも、人気はまったく出ず、幼馴染でずっとマネージャーをしてくれていたエリー(「ダウントン・アビー」のリリー・ジェームズ)にも諦めると通告したばかり。しかし、ビートルズの歌を歌うと、誰もが驚いて才能を認めてくれる。最初は、あまりのことに、なんとか記憶の中のビートルズの歌を残さねばと歌い始めたのだが・・・、地方TVに出演して歌ったのを見ていたらしいエド・シーランが直接自宅に訪ねてきて・・・。

 ビートルズファンからは落胆の反応が多いように、これはビートルズマニアを満足させるビートルズ愛や、トリビアが溢れた映画でもない。タイトルが「イエスタディ」なんだから、推しして知るべしだ。劇中歌は、全て主演のヒメーシュ・パテル自身が歌っているが、すごく上手いわけでも個性的なわけでもない。逆に、ボイルの狙いは、凡庸な歌手にビートルズの歌を与えたらどうなるのか?なのだろうし、その意味では、パテルの歌いっぷりも丁度いい具合なのだろう。(ビートルズ本来のハーモニーを聴かせるレベルでもなく、新しい解釈を加えるでもないし、ビーリズマニアが満足するわけはないがね。)

(ま、名カヴァーも多い名曲なので当然だろうが、この曲辺りが出来がいい方か?)

 じゃあ、この映画はなんなんだということになるが、要するに「ほのぼのラブコメ」でしかないのだろう。元々の発案者であるバースとカーティスの原案では、違った物語だったのかもしれないが、最終的に脚本を手がけたは、「Mr.ビーン」、『ノッティングヒルの恋人』、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズのリチャード・カーティスなんだから、致し方ない。適度に派手で無意味なラブコメという運命からは、逃れられなかった。
 それでも、見て不快になるような映画ではない。
 主人公のジャックは、イギリス生まれのインド系。中学からの付き合いである、イギリス人っぽい優等生美女エリー(リリー・ジェームズ)との、なかなか発展しない恋は奥ゆかしい。また、サフォーク辺りの、のんびりした生活感と、シーランのマネージャー、デブラ・ハマー(マッキノン)が、LAでジャックに見せつける、ワールドレベルの音楽コマーシャリズムの対比も手堅い。
 ジャック役のパテルは、実はアフリカ系だが、「サバイバー: 宿命の大統領」のカル・ペンを若くしたような、マヌケ顔が実にインドっぽく、誠実そうだ。
 ジャックの両親役として「埋もれる殺意」などのサンジーヴ・バスカーと、「ザ・スプリット 離婚弁護士」にも出ていたミーラ・サイアルというイギリスのインド系俳優の大御所を迎えているのも流石である。
 もちろん、今日、大英帝国の最大の文化遺産といえるビートルズが失われた時に、ただ一人その音楽を受け継いだのがインド系というのも、ボイル流の皮肉だろう。
 あとで登場するキーパーソンの一人が、ビートルズの歌詞をどうしても思い出せなくなったジャックが訪れたリヴァプールで、ジャックを監視しているリズ。北西イングランド人ということだろうか?「ハッピ・バレー 復讐の町」のサラ・ランカシャー(マンチェスター郊外出身)を配している。
 コールド・プレイのクリス・マーティンが断ったからということらしいが、エド・シーランは、いい人感がにじみ出ていて好感が持てるだろう。
 ともかく、ポールも映画には満足してくれたようで何よりだ。
 ジョンが生きていたら、当然、落胆したかもしれないが、もしまだジョンが生きていたら・・についてはダニー・ボイルの見解がドラマ中で示されているので、映画でお確かめください。

by 寅松
 
<日本語トレイラー>