オンランシネマ

サイドマン スターを輝かせた男たち

シカゴブルースの日の当たらないおじいちゃんたちの、驚くべき昔話

Sidemen: Long Road to Glory
2016年 イギリス 116分 Working Title Films/ユニバーサル Amazon Primeで視聴可能
監督:スコット・ローゼンバウム 脚本:ジャシーン・キャディック、スコット・ローゼンバウム
出演:パイントップ・パーキンス、ウィリー・“ビック・アイズ”・スミス、ヒューバート・サムリン、グレッグ・オールマン、ジョー・ボナマッサ、ロビー・クリーガー、ジョー・ペリー、ケニー・ウェイン・シェファード、スーザン・テデスキ、デレク・トラックス、ジョニー・ウィンター、ボニー・レイット、エリック・クラプトン、キース・リチャーズ ほか

 シカゴ・ブルースの巨人といえば、マディ・ウォーターズとハウリンウルフ。50年代60年代にチェスレコードからリリースしたかれらのエレクトリック・ブルースは、英国のロックの誕生に大きく影響した。というより、アメリカでは黒人以外だれも着目しなかった彼らの音楽に、彼らを見たこともなかったイギリスの若者がどっぷりはまって、そのコピーを始めたのだ。ブリティッシュ・ロックは正直そうやって始まった。
 今日では日本でも、マディ・ウォーターズやハウリンウルフの名前は誰でも知っているだろう。しかし、彼らのバックバンドの要であった、重要なミュージシャンたち、ウォーターズバンドのピアニスト、パイントップトップ・パーキンス、同じく、ウォーターズのドラマー、ウィリー・“ビック・アイズ”・スミス、そして、ハウリンウルフのサウンドを支えたギタリスト、ヒューバート・サムリンの3人の名前を知っている人がいたら、おそらく音楽関係者ではないかと思う。それくらい、彼らのことは知られていない。彼らの本国、アメリカですらそうなのだ。
 これは、長い間忘れられてきた彼らだが、パイントップとウィリー(ただし、このアルバムではドラムは叩かずハープとボーカル)が2010年に出したアルバム<Joined at the Hip>で2011年にグラミーを受賞したあと、相次いで3人とも亡くなってしまったので、そのへんの追悼の意味も含めて作られた映画なのではないかと思う。ちなみに、パイントップは、享年97歳の超おじいちゃん。“ビック・アイズ”・スミスの方は、75歳。サムリンは、80歳だった。(他意はないのだが)黒人の歳は、我々には見た目では全然わからない。
 彼らの影響を語ってくれる出演者がすごい。クラプトン、グレッグ・オールマン、キース・リチャーズ、ジョニー・ウィンターなんかも出てくるが、ボニー・レイット、(エアロスミスの)ジョー・ペリー、エルビン・ビショップ、(ドアーズの)ロビー・クルーガー、現代ブルース・ギタリストの最高峰、ジョー・ボナマッサや、ロベン・フォード、テデキス・トラックス・バンドのスーザン・テデキスとデレク・トラックス夫妻などなど。ブルースを継承した全てのミュージシャンたちにとって、彼ら3人が如何に重要なミュージシャンかがわかる。
 彼らが生まれた南部での生活や、ブルースを始めたころの物語は、もはや神話のようにしか聞こえない。当時のアメリカで黒人の置かれた状況の厳しさは、ものすごい昔のことのように聞こえるが、現実問題として未だに白人の側からの差別は無くならないのだから恐ろしい。
 しかし、国内の差別とは無関係に彼らの音楽がヨーロッパ、とくにイギリスで賞賛され、ストーンズやクラプトンなど多くのミュージシャンが敬意を表してくれたことは、彼らにも驚きであったようだ。
 70年代に親代わりのように共に歩んできたハウリンウルフを失うと、その後、ヒューバート・サムリンは、酒に溺れどん底の生活に。マディ・ウォーターズは80年代の初頭までは生きたが、彼の亡き後のパイントップとウィリーも、長いあいだ苦しい生活を強いられた。それでも彼らは、最後まで毎日ブルースを止めなかった。
 最後にパイントップの残した基金が、少年たちのためにブルースのサマースクールを毎年行っている光景で映画は締めくくられる。75年前にパイントップ自身が綿花を積んでいたホプソン・プランテーションの建物を利用して行われる講習。夕暮れの綿花畑の中で、二人の少年がギターの掛け合いをする情景。「この中の誰かは、有名になるだろう・・」というナレーション。
 実はそのギターを弾きまくっていた、デブの黒人少年の方は、今や、まさに超若手の天才ブルースギタリストとして世界中から注目を集めているクリストン・“キングフィッシュ”・イングラム である。

By 寅松