海外ドラマ

埋もれる殺意〜39年目の真実〜 (吹き替え版)

おばさんデカドラマの最高峰。人物描写の深みにおどろく、イギリス版コールドケース+ボーンズ+信念の女警部?

Unforgotten Series 1
2015年 イギリス カラーHD 45分 全6話 ITV Amazon Primeで視聴可能 WOWOW/AXNミステリーで放映
クリエイター: クリス・ラング
出演:ニコラ・ウォーカー、サンジーヴ・バスカー、ピーター・イーガン、トム・コートネイ、トレヴァー・イヴ、バーナード・ヒル、ジェマ・ジョーンズ、ルース・シーン ほか

 イギリスITVが製作した、おばさん刑事ドラマの傑作である。(BBCのlogoも出るが、インターナショナル・ディストビューションをしているだけだ)2015年に製作されたシリーズ1(これが本作)から、2017年にシリーズ2(〜26年の沈黙〜 全6話)、2018年のシリーズ3(〜18年後の慟哭〜 全6話)までが本国で放映されており(日本のWOWOWでは2019年10月にシリーズ3を放送予定)、さらにシリーズ4がアナウンスされているらしい。
 主人公の中年女性、キャシーは家のキッチンでクロスワードパズルを繰り返す所在さげな父親に言葉をかけて出て行く。父親を引き取って同居している働く中年女性。ありがちな風景。息子は独立して家にはいないようだが、夫は同居していない。
 彼女が呼び出されて、駆けつけたのは北ロンドンの古い建築物が取り壊された跡地。そこにはかなり以前に埋められたにちがいない人骨が発見されていた。大昔のものかもしれないし、捜査する価値はないのでか?と相棒は不満げだが、詳しい検視をすすめると車のキーがあり、遺体は39年前(ドラマのなかで1976年)に失踪した若者のものであることがわかってくる・・。
 暇な部署ではたらくおばさんの刑事ドラマかとおもいきや、この人が実は警部で一つの部署を率いている偉い人だ!
 ありがちだが、部下ながら相棒としてマメに焼いてくれるのは、常に娘の心配で振り回されているインド系の警部補。2人が率いて、結構な人数のチームが全面的に捜査に当たる。
 このチームがコールドケース専門部署なのかどうかはわからないが、「コールドケース 迷宮事件簿」、「BONES」などの要素と「Life on Mars」的な70年代のロンドン(しかもちょうどパンク創世記)へ時間旅行する面白さを計算しての企画であったろう。しかし、結果的には、企画的アイディアをはるかに超えて、個々の登場人物の描写に深みのあるドラマに仕上がっている。
 クリエイターのクリス・ラングは、ITVの長寿ポリスドラマ<The BILL>でキャリアをスタートし、「華麗なるペテン師たち」、「プライミーバル」、<The Tunnel>(「ブリッジ」の英仏リメイク版)などの脚本を経て、この作品で高い評価を得た。
 貧しい地域で、黒人の若者に更生を助ける夫婦。貴族院議員に推挙されることが決まった大企業のトップ。娘の結婚を控えて、妻といさかいを起こす頑迷な牧師。引退した車椅子のもと会計士とその妻。名前だけで、なかなか人物が特定できない被害者の恋人だったらしき人物・・・。事件に関わった人々の現在は、境遇は違えどまさに昔のことなど全く忘れてそれぞれの老境を生きている。しかし、主人公キャシーの執念がその事実を掘り起こすと、彼らも忘れることのでき無い生々しい過去に引き戻され、それぞれが苦悩を抱え始める。そのへんの描写は秀逸だ。
 人物も実に深く作りこまれている。日本人から見たらそれこそ地味な画面としか言いようの無い年寄りやおばさんばかりの登場人物(若者も登場するが総じて脇役だ)だが、すごい役者揃いなので、この演技の重みにも納得だ。
 主演のニコラ・ウォーカーは、「MI-5 英国機密諜報部」やステラン・スカルスガルドの「刑事リバー 死者と共に生きる」でおなじみ。美人とは言えないが印象的な顔立ちで、意志の強い女性役が多い。彼女を助ける、インド系の親父、サンジーヴ・バスカーはよく見かける顔だと思ったら、イギリスでは非常に有名なコメディアン/俳優で、現在はサセックス大学の学長(おそらく名誉学長)を兼務しているという偉い人らしい。
 「ハリー・ポッター」シリーズや「ブリジットジョーンズの日記」(シリーズ)でも知られるジェマ・ジョーンズ、「ロード・オブ・ザ・リング」(シリーズ)や「タイタニック」の船長役などで知られるバーナード・ヒルなど大物が多数出ているが、特に驚くのはイギリスを代表する名舞台俳優で、「長距離ランナーの孤独」、「ドクトル・ジバゴ」、「魚が出てきた日」、「将軍たちの夜」、「イワン・デニーソヴィチの一日」名だたる名作映画に名を連ねるトム・コートネイが、もと会計士のスレーターを演じたこと。(正しくはサー・トム・コートネイ。この人は、ナイトの称号を授与されていらっしゃいます。)何気無い人物だとおもわせておきながら、最後の方の演技はすごい。そんな裏があったのか!?このくらいの役者じゃなきゃ、とてもリアリティー出せ無いぞー!
 というわけで、トム・コートネイは、この作品で<BAFTA TV Award>(いわゆる英国アカデミー賞)で助演男優賞に輝いている。
 17歳で死んだ被害者のカリブ系とイギリス人の混血の若者は、イメージ的にか出てこないが、写真なんかはいかにも70年代にいた感じの間抜けな顔で、リアリティーがある。だが、実際にはイギリスで人気があるいまどきのヒップホップ・デュオ<Rizzle Kicks>の片割れ。最近は俳優も始めたハーレイ・アレクサンダー・スールくんらしい。
 シリーズは現在まで続いているそうで何よりだ。しかし、なんで吹き替え?字幕版が作れ無い理由でもあるのか!?

by 寅松

埋もれる殺意〜30年目の贖罪〜(シリーズ4)の評はこちら>>
埋もれる殺意〜18年後の慟哭〜(シリーズ3)の評はこちら>>
埋もれる殺意〜26年の沈黙〜(シリーズ2)の評はこちら>>

※(本サイトでは通常、全て字幕版を紹介しているが、本作に限っては日本で初放映したWOWOW以来字幕版が製作された痕跡がなく、Amazonでも字幕版が供給されていないため、吹き替え版視聴による感想であることをお断りしておきます)