海外ドラマ

嘘にまみれた大人たち

15歳から16歳になった、ごっつ美人のナポリ少女が大人になりかけて、大人たちの嘘に気づいて処女を捨て去り、レズになるまで!

La vita bugiarda degli adulti (The Lying Life of Adults)
2023年 イタリア カラー 50分 全6話 Fandango/Netflix Neflixで視聴可能
原作:エレナ・フェッランテ クリエイター:エドアルド・デ・アンジェリス 監督:エドアルド・デ・アンジェリス
出演:ジョルダーナ・マレンゴ、ヴァレリア・ゴリノ、アレッサンドロ・プレツィオージ、ピーナ・トゥルコ、ラファエラ・レイ、ジュゼッペ・ブルネッティ ほか

「ナポリの物語」シリーズ、4部作で世界的な名声を確立したイタリアの女性匿名作家、エレナ・フェッランテが、2019年に発表した小説を、ナポリ出身で、『切り離せないふたり』(2016)、『堕ちた希望』(2018)などで知られる監督エドアルド・デ・アンジェリスが、Neflix用にドラマ化した。『堕ちた希望』に主演したピーナ・トゥルコが、主人公ジョヴァンナの母親ネッラを。「失踪者捜索人マサントニオ」のアレッサンドロ・プレツィオージが、父親のアンドレアを演じている。
 話としては、1990年代にナポリで10代の少女期を過ごしたジョヴァンナ(ジョルダーナ・マレンゴ)が、大人への入り口の難しい時期に差し掛かり、親への反発や、これまで当たり前と教えられてきた自分の周りの環境に疑問を抱き、外の世界を覗いて、いろいろ脱皮してゆくという・・ま、実にありがちなジュビリー小説のような話・・ではあるがナポリという土地の独特の風景/文化/状況を背景に、エドアルド・デ・アンジェリスは、詩的な映像や音楽の使い方で独特な作品に仕上げていると言えるだろう。
 ただ、日本人にはナポリという土地の文化的背景がわかりづらいのと、ジョヴァンナの家庭の状況というのも理解しづらいだろうとは思われる。
 南イタリアのナポリという街は、みんな大好きなピザが生まれた陽気な観光都市・・・で片付けられるような場所ではない。ダークで絶望的な一面を抱える土地だ。サルバトーレ兄弟のピザ店の陽気さは営業スマイルでしかない。
 ナポリの歴史は、紀元前6世紀に遡るが、ギリシア、ローマ帝国ののち、ビンザンチン帝国に編入され、中世にはシチリアを攻め落としたノルマン人の支配下になり、その後も神聖ローマ帝国、フランスやスペインの王族の支配となるが、要するにシチリアとナポリは一つのものとして(もちに両シチリア王国)支配されてゆく。なので、ナポリには、シチリアと同様にマフィアが存在している。これが有名なナポリマフィア、カモッラである。
 ナポリは、中心街はともかく、郊外はなかなかすさまじい。特にカモッラが公共のゴミ収集などを牛耳っているために、ゴミが放置されて汚いのは有名だ。このドラマに出てくる、ジョヴァンナの叔母ヴィットリア(ヴァレリア・ゴリノ)が今も住み、父親のアンドレアもそこの出身である工業地帯は、もはや再開発のために取り壊されつつ地域なのだろう。

 ジョヴァンナの父、アンドレアはこの地域を抜け出し、大学教授となった人物で、ジョヴァンナの母は、出版物の校正者。一家は、ブルジョア/インテリ階級に属している。よく食事をともにする親友のマリアーノ(ビアージョ・フォレスティエリ)とコンスタンザ(ラファエラ・レイ)夫妻とに、イタリア共産主義運動に携わる思想家のようである。
 イタリアは、伝統的に共産主義が根強い国であり、確かに90年代初頭には、イタリアの共産党の最左派が分離して「共産主義再建党」として再スタートするなど、活動は健在であったようだが、ドラマのようにナポリで共産党祭りのようなものが行われる状況だったのかはよく分からない。
 ともかくも、ジョヴァンナはインテリ・左派家族の中でそれが常識だと信じて大人になる。しかし、現実の社会においては、彼女の家族は高級住宅街のマンションに住み、高級な食事をし、親たちが「助けなければならない虐げられた人々」と呼んでいたはずの貧困地域の人間と交わることは決してない。

 親の会話で「自分が似ている」と言われたために興味をもった父の妹ヴィットリアは、今もその貧困地区に住み、すさんだ生活をしているが、自分は「自由」であると言い放つ。ヴィットリアと父のアンドレアは、過去の事件で仲違いし、もはや会うこともない仲になっていた。
 反抗期のジョヴァンナは、この叔母のヴィットリアとの交流を通じて、貧困地域の家族や彼らが集うカソリック教会の行事などにふれ、その地域から出てミラノの神学大学の教授になったロベルト(ジョバンニ・ブセリ)に恋心を抱く。

 人々の関係の嘘を暴く、キーになっていくのは、実はもともと叔母ヴィットリアが、子供の頃、ジョヴァンナに贈ったと主張してたのに、実際には親友マリアーノの妻、コンスタンザ嵌めていた高価なブレスレッド。このブレスレッドによって、アンドレアとコンスタンザの浮気があらわになり、ジョヴァンナの家族、そしてジョヴァンナの幼い頃からの親友であるアンジェラ(ロッセーラ・ガンバ)とイダ(アズーラ・メネラ)姉妹の家族(マリアーノ、コンスタンザ夫妻)が崩壊する。

 実はそのブレスレッドは、ヴィットリアが説明したように彼女の母のものでもなく、もともとはヴィットリアの恋人エンツォが彼女に与えたものであったが、エンツォとヴィットリアの恋自体が浮気で、警官のエンツォは同じ集合住宅に家庭を持っていたのだ。ブレスレッドは、エンツォの本妻マルゲリータの母親のもので、それを持ち出して、エンツォがくれたのだった。
 エンツォは若くして亡くなり、今ではヴィットリアは、エンツォの本妻マルゲリータ、その3人の子供たちコラード、トニーノ、ジュリアナと一家のような暮らしを続けていた。ジョヴァンナは、この家族にも紹介され親交を持つ。頭の良くないコラード(ジュゼッペ・ブルネッティ)は、悪い友人に頼まれてジョヴァンナにちょっかいを出そうとするが、手厳しく拒絶される。トニーノ(ジャンルッカ・パニョーリ)は優しいが、ジョヴァンナの紹介で付き合い始めたアンジェラにも、物足りないとバカにされる。ジュリアナ(マリア・ベラ・ラッティ)は、すでにロベルトと婚約していたが、自分とはまったく違う社会階層に属してしまったロベルトに戸惑っている。

 2つの家族の崩壊後、アンドレアと暮らし始めたコンスタンザからブレスレッドを受けとったジョヴァンナは、ヴィットリアの求めに応じそれを叔母に返したが、実はヴィットリアはそれを、ジュリアナに与えていた。
 不吉なブレスレッドだと嫌いながらも、ヴィットリアに逆らえずそれを着用していた彼女だが、ロベルトのリクエストで、ジョヴァンナを伴ってミラノにロベルトを訪ねた彼女は、そのブレスレッドを置き忘れ、それがまたロベルトの本心を暴かせる元になってしまう・・。

 いろいろあるが、自分の両親はもちろん、最初は新鮮だった叔母のヴィットリア、親友の家族、そしてエンツォの家族や、魅力的に見えたロベルトにも、大人にはそれぞれみんな、それぞれの嘘があって、事情があることにジョヴァンナは気づいてゆく。
 最後に彼女は自棄気味に処女を失って、清々した感じでアンジェラの妹イダと連れ立って、どこかへ旅立って行った。ドラマの中では分からないが、小説によれば先に、街を抜け出して一人ヴェネチアに旅立ったトニーノに会いに行ったらしい。

 エドアルド・デ・アンジェリス監督は、映像も凝っているが、音楽やエフェクト、独白の使い方も個性的だ。
 <Massive Attack>や、<Ace of Base>のような90年代の世界的なポップヒットばかりでなく、地元ナポリの<99 Posse>のような政治色の強いアヴァンギャルド・ヒップホップグループをライブシーンで登場させたり、貧困地域の教会が主催するバザーで演奏されるのは、ナポレターナというよりジプシー音楽が混ざったような独特のアレンジだ。
 崩壊前のジョヴァンナの家族と、アンジェラとイダの家族が、カセットテープの曲で盛り上がるのは、地元の80年代テクノ・ヒット<E Mo e Mo>だ。

<E Mo e Mo – Peppino di Capri>

 ナポリ生まれで実年齢20前後のジョルダーナ・マレンゴは、このドラマがデビューだが、とても目力が強い。少女らしいというより、最後にイダの告白を受け入れてレズになったのかあ・・というのも納得してしまう容姿である。
 クライマックスの処女喪失シーンは、ほぼ全身着衣のままだが、バスルームでの後始末は、胸も見せていてなかなかセクシーだ!

By 寅松