海外ドラマ

ザ・キャプチャー 歪められた真実 シリーズ1

ディープ・フェイクの脅威!映像監視社会の行き着く先は、嘘が真実を握りつぶす!

THE CAPTURE Series 1
2019年 イギリス カラーHD 56~60分 全6話 Heyday Television/BBC One スター・チャンネルEXで放映 Neflixで視聴可能
クリエイター:ベン・チャナン 監督:ベン・チャナン
出演:ホリデイ・グレインジャー、カラム・ターナー、ローラ・ハドック、バリー・ウォード、ベン・マイルズ、リア・ウィリアムズ、ロン・パールマン ほか

 映像監視社会において、ディープ・フェイク技術がもたらす未曾有の危険性をストレートに指摘した驚愕のドラマである。シリーズ1の制作は2019年とやや古いが、2022年制作のシリーズ2とともについ最近スターチャンネルで放映開始され、Netflixでもシリーズ1の配信が始まった。2023年の現実は、まさにこのドラマに追いついて追いついたと言えるし、良いタイミングだ。
 なにしろ2019年BBC Oneで放映/配信された当初、再生回数最高記録を樹立したという話題作だ。オープニングから、実に恐ろしいし、まったく先が読めない展開で、やられます。

 人の顔の映像が、別の人間の顔に変形してしまう、CGの一種モーフィング技術が出てきたのは1980年代。91年、マイケル・ジャクソンのPV「ブラック・オア・ホワイト」で世界的に知られるようになったが、すでにゴドレイ&クレームの「クライ」のPV(85年)でこの技術が使われている。
 当時は、このモーフィング・ポイントを全て手作業で設定したために、短いシーンに天文学的な時間がかかった。今や、この技術はAI技術(詳しく言えば、GANというディープ・ラーニングを映像フェイクに特化した自己進化システム)と結びついて、ブスのSEX動画が、美人女優やタレントさんの顔にそのまますり替わってほぼわからないディープ・フェイク・ポルノなどに活用されることとになってしまっている。
 今では、この技術だけではなく、写真から精密な3Dモデルを製作する技術や、AIアバターの技術が総合されて、映像のディープ・フェイク技術は、笑い事ではないレベルに達していると言っても過言ではない。

ディープフェイクに使用されるモーション・キャプチャー技術の解説

 実際、今も終息の見通しの立たない(2023年1月時点)ロシアによるウクライナ侵攻では、ロシア軍の行った虐殺行為を隠すために、ロシア政府はフェイク映像/画像を大量に投じて自己弁明に勤めており、さらに世界中のボランティア・ハッカー/リサーチャーが、その動画の矛盾や嘘を指摘するという泥仕合いが繰り広げられ散るのだ。
 このドラマで描かれる物語は、いまや本当に笑い事ではない!ほぼほぼ現実なのである。

 物語は、ロンドンの南サットンの監視カメラセンターで、オペレーターが、キスをしていた女性を、バスが通り過ぎた後、男が突然追いかけて引きずり倒す光景を目にするところから始まる。女性が拉致されたようだ。すぐに事件は通報され、この日テロ対策チームであるSo15からキャリアを積むために刑事課に出向になったレイチェル・ケアリー警部補(ホリデイ・グレインジャー)が担当することになった。
 いかにも意志の強そうな美人のレイチェルは、So15での出世が約束されたエリート。しかも、So15の司令官(字幕では部長と翻訳しているが、役職的には警視監で、So15の総司令官)である、ダニー・ハート(ベン・マイルズ)と不倫中で、怖いもの知らず。警察の仕事ながら、So15のコネを活用して、暴行を働いて女性を拉致したと思われる男をさっさと割り出した。
 男は、アフガニスタンでのオペレーション中に、無抵抗のタリバン兵を殺害した容疑で裁判中だった兵士のショーン・エメリー(カラム・ターナー)で、この日の裁判で無罪を勝ち取り釈放されたばかり。拉致された女性は、彼を無罪にした美人の担当弁護士であるハンナ・ロバーツ(ローラ・ハドック)だった。
 しかし、連行されて、証拠として防犯カメラを見せられたエメリーは激怒する!「ふざけるな!事実と違う!ハンナはどうしたんだ!!」
 エメリーの記憶にあるのは、ちょっといい雰囲気になってキスをした後、バスに乗って帰って行ったハンナの姿だったからだ。
 芝居とは思えないエメリーの反応に、一抹の不信を抱くレイチェルだが、エメリーの車を押さえて、DNAの捜索を命じる。
 しかし、突然刑事課の上司から「この監視カメラの映像は、証拠として使用できないことになった」と告げられる。MI5の横槍が入ったと理解したレイチェルは、警察の監視カメラから横槍を入れた謎の女、ジェマ・ガーランド(リア・ウィリアムズ)を見つけ出した。
 一方、カメラ映像を証拠から除外されたために、エメリーは釈放される。レイチェルは、So15の監視システムを使用してエメリーの行き先を監視しているが、ハンナのアパートに入った後、街頭で謎の集団に拉致されて、イートン・スクウェアの高級住宅に連れ込まれる姿が見える。
 レイチェルは、部下であるパトリック(キャバン・クラーキン)とナディア(ジニー・ホルダー)にその住所をすぐに見張らせるが、2人は何も目撃しなかったと言い張り、さらにスワットチームを送り込んで家宅捜索するが、何一つ不信なものは出てこない。
 しかし、エメリーはその住宅の地下室で監禁され、そこを仕切る謎の男(CIAの現場指揮官)フランク・ネイパー(ロン・パールマン)から、隣の部屋で親友のマット(トミー・マクダネル)がエメリーのために拷問に合う姿を見せられ、ハンナをどこへ隠した?と執拗に尋問されていた。

撮影風景

 少なくとも前半は、全く辻褄が合わない不思議な展開の連続で、一体どう辻褄を合わせるつもりなのだろう・・と心配になる程だ。
 後半は、予想のつかない種明かしで、全てのトリックを過不足なく説明してゆく。この辺は、大きな落としもなく、なかなかよくできた脚本である。
 人物設定もよくできている。主人公の野心満々の美女レイチェル・ケアリーは、テロ対策の仕事に疑問も持っていなかったが、自分が偽映像を見つける「トリュフ豚」役をさせられていたことを知り、上層部の腐り具合に目を覚ます。
 無実の罪を着せられるショーン・エメリーが、自分の娘の安全と引き換えに最後に黙る背景には、実は裁判で罪を逃れた正当防衛が嘘であり、良心の呵責が最後まで拭えなかった心の闇がある。
 フェイク監視映像により、都合よく証拠を捏造してテロ対策を実行してきたコレクション(修正の意)プロジェクトを動かす、So15のダニー・ハート、MI5らしきジェマ・ガーランド、CIAのフランク・ネイパーの3人も、それぞれに英国的な官僚主義者のハート、野心のためには冷酷そのもののガーランド、(アメリカ人らしく)テロとためなら何やってもいいと物事を単純化しているネイパーと性格が振り分けられている。
 また、レイチェルの下につく2人お刑事も、いざとなるとレイチェルを裏切って、所轄に出向してきたガーランドに気に入られようろするレイチェルと、レイチェルに協力的だが、あまり役に立たないパトリックと、丁寧に描写されている。

 脚本と監督を一人でこなしているベン・チャナンは、この作品以前には、ウィリアムズ兄弟の<The Missing>のシーズン2「ザ・ミッシング 〜囚われた少女〜」8話の監督を務めた人物。これまで脚本/監督でいくつかTVムービーは製作してきたが、この作品で知られるようになった。
 「探偵ストライク」シリーズで、ストライクの相棒ロビン・エラコットを演じていたホリデイ・グレインジャーがレイチェルを。もともとモデルで、俳優としては『ファンタスティック・ビースト』シリーズでテセウス・スキャマンダー演じているカラム・ターナーが、ショーン・エメリーを演じている。なぜか2人とも、JK.ローリングさんにお世話になった俳優だ。
 
 ドラマとしては、いろいろな背景がわかってはきたが、何一つ真実も正義も果たされないエンディングで、どよ〜んとした気持ちにさせられる。
 確かに、これじゃあシリーズ2を作ってもらわないことには始まらない。スターチャンネルでは、始まったが、できれば早めにNetflixでも配信していただきたい!

By 寅松

(シリーズ2予告)シリーズ2は、政治を巻き込んでいよいよヤバい展開ですな!