海外ドラマ

IQ160清掃員モルガンは捜査コンサルタント

このひどい邦題から期待できる内容よりは、10倍くらい面白い!

HPI: Haut Potentiel Intellectuel (H.I.P. High Intellectual Potential)
2020年 フランス カラーHD 52分 全8話 TF1 AXNミステリーで放映
クリエイター:ステファーヌ・カリー、ニコラス・ジャン、アリス・チェガレイ=ブルーグノ 監督:ヴィンセント・ジャーメイン、ローラン・トゥエル、ジャン=クリストフ・デルピアスほか
出演:オドレイ・フルーロ、マリー・ドナルノー、メーディ・ネブー、スプリアン・ガーデン ほか

 この内容は説明しているものの、ベタすぎるやる気のない邦題と、どう見てもダサさ爆発の画像サムネイルを見て、このドラマを見る気になる人がどのくらいいるかは実に疑問。だが、内容は予想を10倍以上超える面白さである!
 実際、本国フランスでも絶賛されて歴代視聴率で3位につけたというから、結構すごい。
 フランス語原題は<HPI: Haut Potentiel Intellectuel>で、英語で言い換えれば<H.I.P. High Intellectual Potential>ということになるらしい。これを知能指数が高い「メンサ」のことと理解している人もいるようだが、「非常に高度な知能を備えるポテンシャルがある」という意味で、高知能なのにうまくいっていない人のことだろう。英語の<Gifted>は、こういう意味を含むが、定義が曖昧で的確とは言い難い。
 IQが高すぎるけど、社会適応はできない障害ということにになるのではないかと思う。
 日本の学校では、この種の学習障害への配慮が欠けていることはしばしば問題になっている。IQはものすごく高いのに、いじめられたり、学校に馴染めず不登校になったりする。IQが高く、授業内容が退屈で他のことをしていると、教師に睨まれる。
 学校教員というのは、十中八九、凡庸を絵に描いたような人間がなるものなので、学校自体がこういう子どもを排除する方向性はなかなか解消しないのだろう。

 そんなわけで主人公のモルガン・アルヴァロは38歳バツ2で、子供が3人のぶっ飛んだ女。最初の夫が自分と当時生まれたばかりだったテオ(スプリアン・ガーデン)を残して失踪したことには、今も深く傷ついているが、とにかく性格もハチャメチャですぐ切れるので、つい最近一緒に暮らしてた2人目の夫も出て行ったばかりだ。
 会社に入ってっすぐに上司と喧嘩になる彼女は、今は派遣で清掃婦の仕事をしている。なのに、IQが160以上もあるという天才なのだ。
 たまたまリール警察署の掃除をしていた彼女は、DIPJ(重大犯罪班:a police division that investigates serious crime)のオフィスで、机から落としてしまた捜査書類を見てしまう。内容からすぐに矛盾を見つけた彼女は、親切心のつもりで捜査会議用のボードの間違いを修正しておいた。
 翌日、これが大問題となり、重大犯罪班では防犯カメラのチェックをする事態に。警察に呼び出されたモルガンだが、資料の矛盾から、警察の読みの間違いを堂々と指摘しだすので、担当刑事のカラデック(メーディ・ネブー)もタジタジに。
 成績を上げなければならない警視正のセリーヌ(マリー・ドナルノー)は、モルガンの驚異の洞察力とIQの高さに惚れ込んで、無茶を承知の上で彼女に捜査に協力を依頼する。
 堅物で、どちらかというと神経症的な刑事のカラデックは当然大反発!しかし、言動や行動、全てがハチャメチャなのに、捜査に同行させると、現場での些細な事柄を目に留めて、驚くほどて的確に真相をあばきだすモルガンには感心せざるを得ない。
 コンサルタントとして迎えたいというセリーヌの提案に、15年前に警察が十分捜査してくれなかった、最初の夫の消息調査をしてくれるのを条件に、モルガンは重大犯罪斑の仕事を引きうけることになる。
 
 最近、実際にH.I.P.と言われる人々も、ASD(自閉症スペクトラム)傾向やADHD(注意欠如多動性障害)の傾向を同時に備えているケースがあることが、研究されているようだが、モルガンも数字が色と結びついてイメージとして現れるサヴァン症候群的傾向と、一度見たことを忘れないフォトグラフィック・メモリー(カメラアイ)などの天才的な能力とともに、どう見てもADHD傾向があるように思える。
 しかも中学生、小学生、赤ん坊という3人の子供を抱えている日常は、まさにとっちらかっている。ドラマはその日常も、割愛しないで描いていて好感が持てる。
 思春期で、携帯ばかりいじっているが、実は母親や弟のような特殊能力がないことをコンプレックスに思っている長女テオ。モルガンのように数字が色と結びついて見えるが、何かに夢中になると周りが見えなくなるASD的な長男エリオット(ネオ・ヴァンデボーテ)。今はエジプトのミイラに夢中!次女のクロエは赤ん坊。
 モルガンが仕事のたびに、彼らの子守を頼むのは、向かいに住む70代の人の良い老人アンリ(ルーファス)か、人の良いタクシー運転手の元夫ルド(セドリック・シェヴァルメ)だ。
 余談だが、最近どーも、この障害はTVドラマにされがちだ。日本ではコミックを原作に、発達障害を題材にした「僕の大好きな妻」(東海テレビ)でモモクロ百田夏菜子が発達障害をもった可愛い妻を演じ、Netflixで配信中の最新・韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」ではパク・ウンビンが、IQ164で読んだ書物を全て記憶してしまう能力を持つADSの弁護士を演じている。最近は、実際の障害に詳しい原作や専門家の意見を取り込んで、昔のドラマとは一段違う詳しい描写が見られるが、ADSの資料係が警察に協力するコメディー「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」で、この手のドラマに実績のあるフランスものは、その生活の描写も細やかに思える。

 ハチャメチャなモルガンと、几帳面を通り越して神経症的なカラディック。反対すぎるほど反対な2人だが、互いの私生活を覗くまで親しくなり、なんとなく惹かれあってしまうのは、定番のコメディー要素。
 舞台が、華やかなパリや観光地ではなく、フランスとはいえ北のはずれのリールというのもなかなかいい。ベルギーと国境を接する工業都市として発展してきた街並みは、地味だが味わいがある。
 8話のエンディングは、ちょっとこのままかいな?と思わせる終わりだが、予想通り本国ではすでにシーズン2が決まっているようだ。

By 寅松

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