海外ドラマ

アントワーヌとマリーヌ〜プロヴァンスの事件簿

あくまでイギリス人によるイギリス人のためのフロヴァンスの風景付きコージー・ミステリー

Murder In Provence
2022年 イギリス カラーHD 88分 全3話 Monumental Pictures ITV Studio/BritBox AXNミステリーで放映
原作:M・L・ロングワース クリエイター:シェラ・スティーヴンソン 監督:クロエ・トーマス、スティーブ・バロン
出演:ロジャー・アラム、ナンシー・キャロル、パトリシア・ホッジ、カースティ・ブッシェル、キアラ・セトル、ジェフ・フランシス ほか

 カナダ生まれでエクサン・プロヴァンスに住んでいた作家、メアリ-ルー・ロングワースのコージー・ミステリー・シリーズを原作に、英国のITVスタジオが製作し、BritBoxで配信された英国2時間ドラマ。配信されたばかりの新作だが、呆れるほど古めかしい2時間ドラマ体質のシリーズだ。
 英国の配信会社はAcornTVにしてもBritBoxにしてももはや視聴者は超高齢者しかいないのかもしれない。(若者はいずれにせよTVは見ないのだろう。)

 ピーター・メイルのエッセイ『南仏プロヴァンスの12ヶ月』が90年代に大ヒットして、世界的にこの土地は有名になったが、フランスの中心的文化には反発心があるイギリス人にとっても、もともと人種も言語もフランスとはちがうこの地は、特にエキセントリックに映るのだろう。
 その素晴らしい風景を、短期間だけロケし、セカンドユニットがたくさんドローン撮影した風景をイギリスに持ち帰り、残りは全部イギリスの撮影スタジオで仕上げた感じがにじみ出ている。アントワーヌ(アラム)やマリーヌ(キャロル)が食事をしたり、他の登場人物と待ち合わせするレストランは決まって同じ店だし、車のシーンのほとんどは、窓の背景抜きの合成だ。
 ストーリーも、そもそもアガサクリスティが大好きだというロングワースの原作自体、イギリス風のお話。それを、米英のキャストが全て英語で会話するのだから、フランス感は絶無と言って良い。アントワーヌとマリーヌのカップルの会話が、お互いに歯に衣着せぬ皮肉の応酬であることが、イギリス人からみたフランスっぽさなのだろうか。

 日本人には位置関係もよくわからなだろうが、プロヴァンスは海沿い以外は山がちな地域に村が点在しているような地形で、そこを結ぶ道も細いので移動には時間がかかる。3話で出てくる、エギュは確かにエクサンのすぐ隣の集落だが、マルセイユ郊外のカシスへ行くのも1時間ぐらい。ニームならもっとかかるだろう。
 マルセイユは大都会だが、そのほかではアヴィニヨンとアルルが比較的大きな街なだけでそのほかは非常に小さな集落だ。
 エクサンプロヴァンスは、現在はエクス・マルセイユ大学の一部となっているエクサン・プロヴァンス大学が古くからあった大学街。小京都のような趣があるが、旧市街自体はけっこう小さな街だ。(もちろん、観光地なので店は無数にあるので、レストランが1軒などということはありえない。)
 ドローン撮影の美しい景色がオープニングで使われている、リュベロン山のゴルドの丘の遺跡などは、(少なくともこのシーズンでは)事件には全く関係ない。

 しかし風景はともかく、スートーリー自体、非常にイギリス的な日常の中で起こるので、観光/文化ガイド的な面白みもない。
 キャラクターは、原作があるのではっきりはしているが、いちいち二人の結婚をせかせようと口を挟むマリーヌの母親フローレンス(パトリシア・ホッジ)と、ロジャー・アラムの演じるアントワーヌの年の差がどのくらいあるのか?と疑問に思える設定もある。
 年の割に情熱的なカップルに見える、アントワーヌとマリーヌだが、オリジナルの小説ではもっと若い2人の設定だったようだ。BritBoxの高齢視聴者が感情移入しやすいように、ドラマ化の時点で設定を動かしたらしい。

 風景を楽しむドラマとしても、物足りないのは残念だ。熟年カップルの微笑ましい(?)アツアツぶりを楽しむ以外は、見るべきものがない。

By 寅松