オンランシネマ

前科者

「ゆりぎないリアリティ」という大看板を久々に感じさせる映画!

Zenkamono
2022年 日本 133分 WOWOW テレビマンユニオン/日活 Amazon Primeで視聴可能
監督:岸善幸 脚本:岸善幸 原作:香川まさひと、月島冬二「前科者」(小学館) 撮影:夏海光造
出演:有村架純、磯村勇斗、森田剛、若葉竜也、石橋静河、北村有起哉、リリー・フランキー、木村多江 ほか

 ビックコミック・オリジナル連載のコミック「前科者」作:香川まさひと/画:月島冬二を原作に、2021年に、WOWOWで放映されたドラマ「前科者 -新米保護司・阿川佳代-」が、6話まで進んだところで、なぜか尻切れとんぼで終了した!?・・と思ったら、有村架純、石橋静河、北村有起哉などのメインキャストと設定もそのままに岸善幸監督作品として映画化され、2022年公開となった。公開と同時に、Amazon Primeでもリリースしている。
 ある理由から保護司となった若い女性、阿川佳代(有村架純)が、刑務所を出所した前科ものたちと向き合い、その更生を助ける物語がテレビドラマ版だが、映画はドラマの設定のまま数年が経過して、殺人の刑期を終えた工藤誠(森田剛)の保護観察の過程で発生した事件と、佳代が保護司となるきっかけの事件の真相も描かれる。
 映画ということもあるのは、TVドラマ版よりストーリーはサスペンス要素も含み、最後にはけっこうハラハラする場面もある。
 もう一つの見せ場は、若いのにそういう部分は全く見せなかった佳代の中学時代の初恋のボーイフレンドが登場すること。実は、佳代の保護司になった背景にはこのボーイフレンド滝本真司の父親の死が関係しているのだが、その本人は今は刑事となっており、工藤誠の事件にからんで登場する。意図していなかった再会と、二人の微妙な関係にも、なかなか惹かれる。カンヌ受賞作『PLAN75』の主演で、今、大変注目されている、磯村勇斗が滝本真司を演じている。
 
 ストーリー自体は、いたってありきたりの話と言えなくはないが、最初に感じるのはロケーションやプロダクションデザインの丁寧さ。そして脚本の細部の丁寧さである。韓国映画なら、この程度の細部詰め方をしているものは今も多いが、現代の日本映画やドラマからは見事に失われてしまっている大事なもの。「揺るぎないリアリティ」という大看板を、久々に日本の映画の中で感じた。
 ストーリーが現実的かどうかとか、そういう話ではない。
 たとえSFだろが、ファンタジーだろうが、コメディだろうが、細部の説明がテキトーで、撮影場所は住宅展示場か、作りが緩いセットだったり、ロケハンも適当で、街の作りがファンタジーになってしまったりでは、ドラマというのもは感情移入ができない。
 そもそも、この映画のストーリーだって十分ファンタジーにちがいない。無給公務員である実際の保護司を若い女性が担うケースはきわめて少ない。概ね、保護司になるのは、人生終盤に差し掛かった、元校長や教員など、長年多くの人相手に訓示をたれてきたような人々だ。もちろんボランティアで社会に貢献する意図がある人たちなのは間違いないが、定期的な対象者との面談は、相手に寄り添うというより、得意の説教の場になるのが普通だろう。
 それでも、この作品は、阿川佳代に本物のリアリティをまとわせ、絵空事ではなく、実在する人間の痛みが感じられる映画に仕上がっている。
 映画監督としては、この作品が3作目でしかないが、長年ドキュメンタリー畑を歩んできたベテランで、テレビマンユニオンの代表取締役でもある岸善幸ならではの、こだわりが出ている作品と言えるだろう。

 だからと言って、特に全体が重々しい映画ではない。有村架純の飄々とした演技も、佳代の上司にあたる監察官高松直治を演じる北村有起哉や、滝本の先輩刑事鈴木を演じるマキタスポーツも、どこか社会の現実の壁を熟知している者の、「諦め」を醸し出していた。ここぞという役で顔を出す、リリーフランキーの気が抜けた悪党ぶりも、意外にリアリティがある。
 傷害罪で服役した不良で、今は佳代の友達的な存在となっている斉藤みどりの石橋静河は、キャラ的にうまくハマるのか心配になったが、演技力を見せつけた。
 滝本実役の若葉竜也も、また弱さと気持ち悪さをうまく表現している。

 しかし、演技的になんといってもすごいのは、森田剛だ!工藤誠が森田だとは、最初は気づかなかった。ジャニーズ事務所退所で、イメージを気にせず全力の演技ができることになったのだろうか?元アイドルで宮沢りえの夫ではなく、本物の役者である。

By 寅松