海外ドラマ

警部補アーノルド〜チェルシー捜査ファイル

ロンドン、高級住宅地チェルシーの地元生まれ偏屈刑事が、複雑な犯罪の細かいひだを解きほぐす!

The Chelsea Detective
2022年 イギリス/アメリカ カラーHD 60分 全8話 Expectation BBC Studio/Acorn TV AXNミステリーで放映
クリエイター:ピーター・フィンチャム 監督:ダルシア・マーティン、リチャード・シニー
出演:エイドリアン・スカーボロー、ソニータ・ヘンリー、ピーター・バンコール、ルーシー・フェルプス、フランシス・バーバー ほか

 チェルシーという名前は、サッカーチームの方が有名だろうが、ロンドンの超高級住宅街である。ものすごく高級な地域だが、実際に住宅も多くて、東京で言えば青山みたいな静かな場所だが、有名人も多く居住している。
 そのいけ好かない高級住宅地で起きる事件を、地元警察署の頑固な警部補マックス・アーノルド(エイドリアン・スカーボロー)と、よくできた相棒のプリア・シャムジー(ソニータ・ヘンリー)が解決してゆくというドラマ。
 これは自社制作ではないようだが、「港町のシェフ探偵パール」を制作/配信したAcorn TVらしい、高齢視聴者向けの安心ご当地ミステリー・シリーズだ。なので、「港町のシェフ探偵パール」同様話自体も緩く、当たり障りがない。

 事件の方はどれも、チェルシーならではという話にしたいという努力は感じられる。
 最初の話は、チェルシーにある広大な墓地、ブロンプトンの石材加工人が絡む犯罪。次の話は由緒あるチェルシーのイタリアン・レストランをめぐる殺人。そして3つ目は、今ではそれぞれの人生を歩んでいる、チェルシーFCファンの元フーリガンたちの積年の恨みが関わる犯罪。そして最後はチェルシーにあるインターナショナル・スクールの学部長が殺される、学園をめぐる犯罪(全話とも2話完結)・・ということで、確かにそれっぽい。(いや、日本人には正直あまりピンとこないだろうが)たぶん、英国人にはよくわかる感じなのだろう。
 チェルシーのブロンプトン墓地は、青山墓地みたいな大規模な墓地だし、老舗のレストランもありそうだ。サッカーの話は日本人でもわかるだろうし、チェルシーの学校に通うのはさぞかし大変なのだろう。殺された学部長オリバー・カウイー(クラレンス・スミス)が日本のインター・ナショナルスクールへの赴任が決まっていて、娘が嫌がっていたあたりは笑える。

 主役2人のキャラクターの方は、ひねりはあるのだがさほどよく説明されているわけでもない。見た目だけで、それらしい雰囲気のある役者頼みというところか。
 ローレンス・オリビエ賞を2度も受賞している、エイドリアン・スコーボローが演じるアノールド警部補は、チェルシーに代々住んでいる地元民。性格は、頑固で、今では画廊を経営する妻とは別居中。そう簡単に、部屋が借りられるような場所ではないチェルシーで住むために、今はテムズに係留されているボートを仮の住居としている。
 父親は、地元で古くからの古書店を営んでいたようだ。(まあ、もともとチェルシーに家があるというのは、外から入ってきた大金持ちではないにしろ、実家が神田須田町にある江戸っ子みたいなものであろう・・)
 本人には学習障害のひとつである失読症(ディスレクシア)があり、知的能力は十分なのに、文字読み書きに困難がある。そのため、捜査現場でもメモは取らず、やたらに写真を撮る。印刷した写真を壁に並べて、画像からストーリーを読み取るのがアーノルドの捜査法だ。
 ドラマでは説明されないが、立派そうなこのおじさん刑事が、未だに現場の警部補止まりまりなのも、家の家業である古書店を継がなかったのも、この障害のせいなのかもしれない。
 しかし、このこのキャラクターは、正直ドラマの中では全然生かされない。写真を眺めるシーンが多いだけだ。

 そして、このおじさん刑事をサポートするのが、優秀でクールな女性刑事プリア。オープニングから、アーノルドを心配して産休を早めに切り上げて現場に復帰する。事件現場では実に冷静でクールで有能だが、私生活では生まれたばかりの子供に愛情を注げるか悩んでいる・・・とはいうものの、実際の子育ては優しそうな夫に丸投げ中。どうやら、母親との関係に問題があったらしいが、それもこのシーズンでは詳しく語られない。

 クリエイターとしては、シリーズ化するつもりでキャラクターの過去については隠し球を温存しているようだが、正直シーズン1、8話で十分お腹いっぱい(日本では8回にわけで放映されたが、どうやらオリジナルは2時間ドラマ4本として放送したようだ)。ロンドンに深い思入れがない人には、少し辛いだろう。

By 寅松

ソニータ・ヘンリー、インタビューなど BTS