海外ドラマ

人形は指をさす

王道ミステリーとしては穴があるが、現代的で一気に見てしまう面白さ!

Ragdoll
2021年 イギリス/アメリカ カラーHD 44~46分 全6話 AMC studio Alibi/AMC+ BBC Studio AXNミステリーで放映
原作:ダニエル・コール クリエイター:フレディ・シボーン 監督:ニール・マコーミック、トビー・マクドナルド
出演:ヘンリー・ロイド=ヒューズ、タリッサ・テイシェイラ、ルーシー・ヘイル、マイケル・スマイリー、アリ・クック、ナターシャ・リトル、サム・トルートン

 原作は、日本でも2017年に刊行されている、ダニエル・コールの『人形は指をさす』田口 俊樹訳/集英社文庫で、「キリンング・イブ」の制作陣が手がけたと宣伝しているが、詳しく言えば「キリング・イブ」をプロデュースしたことで知られる、イギリスの<Sid Gentle Films>がこの作品も手がけているということらしい。なので、ラウドなサウンドとプロジェクションを多用して結構、攻めている、オープニングのグラフィックスなどは、「キリング・イブ」と同じペンタグラム・スタジオのNYのデザイナー、マット・ウィリーが手がけたようだ。

オープニング

 制作/配給のスキームも面白い。ブレイキング・バッド」「ウォーキング・デッド 」AMCとBBCが手を組んだ形。アメリカではAMC+で、イギリスではBBC StudioのAlibiで最初に放映された。
 そのためドラマ自体はロンドンを舞台にしているのだが、テンポもギミックも大変アメリカ的。ドメスティックな英国ドラマでは、もっと阿吽の呼吸になってしまう議論をあえてアメリカ人的常識をもち込んで理解しやすくするために、わざわざレズビアンで学生気分のアメリカから来た美人女子刑事レイク・エドマンズとして「プリティ・リトル・ライアーズ」のルーシー・ヘイルを割り込ませたようにも思える。
 何れにしても、ユニークでテンポの速いスリラーになった。現代的で、一気に見られる。

 ドラマのスタートが衝撃的なのは、宣伝されている通りだが、最初に発見される6人分の遺体のパーツを縫い合わせて、向かいのアパートの1室を指差すように置かれていたラグドール(ボロ人形)については、意外なほどあっさり流される。
 もっと、驚かんか!
 指差していた先には、刑事のネイサン・ローズ(ヘンリー・ロイド=ヒューズ)が住んでいる。そして、次に送られた殺人予告の6人目には、ローズの名前が書かれてあった!

 超猟奇的な事件そのものよりも、最近のドラマらしいのが主人公のローズの立ち位置だ。自分の捜査過程のささいなミスを指摘され、被害者を丸焼きにして「火葬キラー」と呼ばれた連続殺人犯マーク・フーパーを無罪にした法廷で、怒りのあまり犯人を襲って、精神病院に収監されていた過去があるのだ。(まるで「刑事ファルチャーのような判決だ」)そのせいで、今は治療を終え、現場に復帰してはいるが、そもそも司法制度への信頼度は高くない。何が何でも、目的を遂げようとする殺人鬼は、法だけでは止められないことをよくわかっている。
 しかし、実は縫い合わされたラグドールの頭の部分は、一部の罪で収監されているはずのフーパーのものに見える。確認すると、フーパーは刑務所内で死亡していた。

 他のキャラクターも、かなり極端で面白い。
 新たに捜査チームに配属されたエドマンズは、アメリカ人でイギリス警察での女性の処遇に最初から不満を抱いているばかりでなく、学生気分で警察の仲間内に甘い道徳基準にいちいち意義を申し立てるうるさい美少女キャラである。ローズの行動に不審を抱き、挙句、発信機をつけてローズを尾行し始める。
 正直、アメリカンというのを通り越して、のはやアニメキャラのような人格だ。ただし、後から過去に公にできない秘密を抱えていることがわかってくる。

 チームを率いるエミリー・バクスター(タリッサ・テイシェイラ)は、アフリカ系の女性警部補で、ローズが停職になるまでは相棒だった。いつも沈着冷静だが、ローズにはどうしても甘いところがあり、エドマンズはそれが気に入らない。
 しかし、次第にローズの行動を過去に告発したのが彼女自身であり、また2人はもともと恋人同士で、今もその気持ちを引きずっていることなども描かれる。

 さらに飄々と官僚的ながら身内をなんとか守りきる、バクスターの上司で部署を統括する主任警部のシモンズ(アリ・クック)。バクスターやローズの良き理解者である技術関連担当の刑事フィンレイ(「弔い写真家の事件アルバム」のマイケル・スマイリー)。ジャーナリストで、警察批判の記事を書きたてるが、ローズと肉体関係があるアンドレア(ナターシャ・リトル)(原作では、アンドレアはTVリポーターで、実は主人公ウルフ<ドラマではローズに変更された>の元妻である)など、キャラクターの配置は絶妙である。
 また、それぞれの行動が、こういうキャラだから納得できるという点ではうまく構成されていると思う。

 犯人像も、最後まで出てこないのかと思ったら、4話あたりから犯人側の事情も描かれる。それなりに、医療知識があったり、刑務所や被害者近づける位置にあることは説明されるのだが、ここまで異常な犯行をやりきるモーティベーションの説明や、あまりに周到で知性の高い犯行を可能にした裏付けの説明は乏しいように思う。ま、全6話なので限界もあるだろうが、サム・トルートン演じる犯人がさほど利口に見えないのが、そもそも少し残念だ。
 それぞれの殺人方法も残酷極まりなく、こだわってやっている感じは出るのだが、理由の説明は割と簡単で、その必然性も見る側にはあまり伝わらない。異常性も、さほど深いとは思えない。
 実は、犯人の妻ジョイ(サマンサ・シャピロ)がコントロールしていたというオチなのかもしれないが、どうもすんなり受け止められない終わり方だである。

 最後、窮地に陥って殺されそうになるローズとバクスターが、最後にタッグでなんとか切り抜けるところは、割と二人の絆の話でほっこりした。

By 寅松