海外ドラマ

アリーチェの物語

イタリアのTVドラマとは思えない!さすがアマゾン・オリジナルのぶっ飛んだ出来!

Bang Bang Baby Season1
2022年 イタリア カラーHD 50分 全10話 Enormous Films/Amazon Studios Amazon Primeで視聴可能
原作:マリサ・メリコ クリエイター:アンドリア・ディ・ステファーノ 監督:ミケーレ・アルハイク、ジュゼッペ・ボニート、マルゲリータ・フェッリ
出演:アリアンナ・ベケローニ、アドリアーノ・ジャンニーニ、アントニオ・ジェラルディ、ドーラ・ロマーノ、ジョールジャ・アレーナ、ニコラ・リナネーゼ、ジュゼッペ・デ・ドミニコ、ルチア・マシーノ ほか

 原題は<Bang Bang Baby>。2014年カナダのSFコメディ映画があるが無関係。2022年、イタリア発のアマゾン・オリジナル・ドラマである。イタリアのドラマとは思えないほどスタイリッシュで、ぶっ飛んだ話だが、実は原作は自伝で、もとの実話がある。実際に22歳の若さで、ミラノ・ンドランゲタのトップに就任し、80年代後半から90年代にかけて獄中にいる父親の指示を仰いでギャングを動かしたマリサ・メリコが、書いた自叙伝『マフィア・プリンセス(原題)』を元に、アマゾンス・タジオが製作した。さすが、イタリア!おっそろし!
 
 物語は、北イタリアのベネト州の町で工場に勤める母親と暮らす16歳のアリーチェ(綴りは英語のAlice/アリスと同じ:アリアンナ・ベケローニ)の日常から始まる。アリーチェは美人なのに、クラスでは独自路線の負け組。親友は、性同一性障害のジンボ(ピエトロ・パスキニ)だけ。しかし、ある日、高校の実技の時間に目をとめた新聞の切れ端に、死んだことになっていた父親の写真があるのに気づく。「マフィアの男、公然猥褻でミラノの路上で逮捕!」母の話によれば、父親は、アリーチェを連れて行った遊園地で撃たれて死んだことになっていたのだ。
 意を決して、長距離バスでジンボと一緒にミラノへ向かうアリーチェ。
 刑務所で、弁護士なしで面会できないと断られたアリーチェは、父方の祖母の家、つまりマフィア組織、ンドランゲタのミラノ支部に向かう。そこには、折しもンドランゲタの本家の大ボス、ドン・フェラ(エルネスト・マレクス)が、彼らの悲願である空港拡張整備事業発表を祝うために上京していた。
 ヘロインばあやと呼ばれる、ミラノ・ンドランゲタのボスである祖母のノンナ(ドーラ・ロマーノ)に面会したアリーチェは、コネで父親に面会させてもらう。父親のサント(アドリアーノ・ジャンニーニ)は、アリーチェとの面会を喜ぶが、声を潜め、真顔で高級アパートにある死体を始末してほしいと頼む。やってくれないと、俺は終わりだと・・。
 同じ頃、ミラ氏の支部では航空整備事業が、議会で否決されたニュースが流れ大騒ぎになっていた。緑の党を買収するはずだった、議員をやっている一族のウ・デメリーノ:色男(ジョゼッペ・カトルーラ)が行方不明になったのだ。
 ここから、アリーチェのありえないような、冒険が始まる・・・。

 こう書くと、順序だった話のようだが、16歳の目から見た幻想やイメージとごっちゃになった、不思議な世界観で描かれるドラマは、新鮮でとてもシャープだ。
 風船ガムを破裂させて、銃の代わりに人を撃つ80年代イタリアのCM。(80年代にイタリアでも放映されたのだろう)バイオニック・ジェミーやら、イタリアのファミリーコメディーのイメージ。(同じ頃輸入された)テーブルゲーム機の「パックマン」のゲーム画面。その上、ミラノのショーパブと一体になったような売春クラブやら、カラブリアから出てきた、ちょいと頭の足りないウ・デメリーノの弟といとこネレオ・フェラウ(アントニオ・ジェラルディ)が尋ねる、魔境のようなミラノのTV局。
 80年代の雰囲気を醸し出す、選曲もなかなかかっこいい!ドラマの頭や5話の最後に流れる、エコー&バニーメンの<The Killing Moon>。トーキング・ヘッズの名曲<Road To Nowhere>は、アリーチェが工場労働者の絶望的な未来をイメージするタイミングで。スイス・テクノのイエローの<Desire>やら、ファルコの「秘密警察」<Der Kommissar>のイタリア語盤、ジミー・フォンタナの<Bambola Bambina>など、イタリアらしいヒットも。そして、ジョージ・マイケルもたっぷりかかる。

 当初は、5話までしかリリースされていなかったが、2022年6月1日に10話までリリースされたようである。続けてみると、後半はさらにぶっ飛んでいて、こりゃ大傑作と言ってもいいだろう。

 カメラやプロダクションデザイン、色調の使い方も、後半ますます凝りまくっている。
 アリーチェが夢想する、当時のポップ・カルチャーも6話では「超人ハルク」が、7話では「ザ・デイ・アフター」(83年の米テレビ映画)が、8話では「チャーリーズ・エンジェル」が登場。
 最終回には、なんと当時ヨーロッパに輸入されていて子供に人気だったジャパニメーションを全面フィーチャー。アニメ化したアリーチェが登場し、タイトルまで、日本語のアニメロゴになる。
 アリーチェとジンボは、「ベルばら」さえ知っているのだ!
(ここで、日本語の「バンバンベイビー!」というタイトルまで出るのに、このドラマをわざわざ「アリーチェの物語」と改題した担当者は、果たして最後までドラマを見て、このタイトルを決めたのだろうか??疑問が残る。)
 音楽も80年代物から70年まで広がり、ワイルド・チェリーの<Play That Funky Music>やビージーズの「ラム・サムバディ」、ロキシーミュージックの名曲「ラブ・イズ・ドラッグ」と絶好調。
 そして何より衝撃なのは、アニメーションになるエンディングにかかる曲なのだが・・・これは是非実際に見て驚いていただきたい。
 
 ドラマは先に書いた通り、マリサ・メリコが書いた『マフィア・プリンセス』という自叙伝の原作がある。ストーリーは、設定を元にしているだけでだいぶオリジナルだろうが、登場するマフィアのンドランゲタは、実在する組織だ。70年代のンドランゲタについては、ダニー・ボイルが監督したFOXのドラマ「TRUST」やリドリー・スコット監督の映画『ゲティ家の身代金』で描かれている。
 もともと、カラブリア地方の山の上でヤギを飼っていたような、貧乏ヤクザだった一族だが、イギリスの富豪、ゲティ家の孫を誘拐して多額の身代金をせしめ、その金で地元カラブリアに港を整備して、そこからヨーロッパ中にヘロインを撒き散らしてのし上がってゆく。80年代には、このドラマのようにミラノのような北部の都会でも、組織を増やして活動していたのだ。
 ドラマに出てくる、空港を解説する話も、カラブリアからのヘロインをミラノで売り捌くのを容易にするためのプロジェクトだったのだろうと思われる。
 実際のマリサ・メリコの自伝では、改心したためにンドランゲタを裏切って証言した父親は、証人保護プログラムで英国で身を隠しており、80過ぎまで健在だったようだ。
 
 最後の曲は是非、びっくりしていただきたいが、もし視聴された後で何の曲なのか知りたい方がいらっしゃれば、下のクリックしてください。

最後の曲
ジャズピアニストで作曲家の佐藤允彦と、妻の中山千夏が夫婦でリリースした73年のアルバムに収録されている「鳩」という曲。70年代日本映画のサントラを彷彿とさせる、昭和ジャパニーズ・ロックですね。(日本では、有名な曲ではありません!)


By 寅松