オンランシネマ

この茫漠たる荒野で

現代アメリカが抱える問題を、150年前に予見する西部劇ロードムービー

News of the World
2020年 アメリカ 118分  Perfect World Pictures、Playtone、Pretty Pictures /ユニバーサル Neflixで視聴可能
監督:ポール・グリーングラス 脚本:ポール・グリーングラス、ルーク・デイヴィス 原作:ポーレット・ジルズ(『News of the World』) 撮影:ダリウス・ウォルスキー 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:トム・ハンクス、ヘレナ・ゼンゲル、エリザベス・マーヴェル、トーマス・フランシス・マーフィ

 トム・ハンクス演じる退役南軍大尉ジェファーソン・キッドがアメリカ南部各地を巡って10セントで新聞を読んで聴かせるロードムービー西部劇。アメリカでは劇場公開されたが(コロナ禍もあって)あまりヒットせず、アメリカ・カナダ・オーストラリア以外ではネットフリックスで配信された。
 ある日、キッド大尉は馬車が襲われ御者が木に吊るされている現場に遭遇し、先住民の服を着た金髪のドイツ少女ジョハンナをみつける。通りかかった騎兵隊の依頼でキッドはインディアンにさらわれていた彼女を親戚の家へ送り届けることになる。途中、金髪娘を奪って売り飛ばそうとする男たちに追われて荒野で銃撃戦になるが、ジョハンナの知恵を借りて撃退。最初は言葉もわからず反抗的だった少女も、次第に心を開き、言葉を学びながら、キッドの新聞読みの仕事を手伝うまでになる。600キロの旅の末、叔母夫婦にジョハンナを預けたキッドは、数年ぶりにサンアントニオの自分の家へ戻るが、妻は出征中にコレラに感染して死んでいた・・・。

 監督は「ジェイソン・ボーン」シリーズのポール・グリーングラスだが、お得意の手持ちカメラ&素早いカッティングは封印し、落ち着いた演出でゆったり安心して見られる。目がチカチカしないグリーングラスとは!
 砂嵐の中でインディアンに馬を譲ってもらうセリフがほとんどない場面などは見事な演出だ。カメラはリドリー・スコット組の撮影監督ダリウス・ウォルスキーで、この作品で初めてアカデミー賞にノミネートされた。アクション場面は岩山での銃撃戦ぐらいだが、一点突破のリアルな銃撃戦で見ごたえがある。馬車が転倒し横転した馬が斜面を落ちる場面は、動物愛護優先の今では珍しい本物感(マカロニ・ウエスタンでは当たり前だったけど)。さすが、ドキュメンタリー的リアリズム描写で売ってきたグリーングラスだ。重厚なオーケストラにピアノやバンジョーを織り交ぜたジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽もたいへんよろしい。

 この映画、邦題は妙に文学的だし、一見オーソドックスな西部劇、父娘のファミリー物かと思わせて、実は現代アメリカが抱える問題との共通点をさりげなく盛り込んでいる。黒人を縛り首にし、メキシコ人やインディアンを排除しようとするテキサスの白人たち。ある町の有力者は、キッドに、自分が発行している新聞を読ませようとする。親戚なのに、野性的に育った少女を受け入れず犬のようにロープにつないでおく開拓者。疫病(旧型コレラ)で死んでしまった大切な家族、そして、「ニュース」を読まない(読めない)大衆・・・。物語の設定は1870年ごろだが、まるで150年後のアメリカとほとんど同じではないか。アメリカは、内戦や世界大戦、ヴェトナムや中東での敗戦を経て、はたして進化したのだろか・・・。

 ところで、カイオワ族インディアンに育てられていた少女といえば、・クリントイーストウッド作品じゃないほうの『許されざる者』[1960年 ジョン・ヒューストン監督]でオードリー・ヘップバーンが演じた役と同じだ。そのことが何か意味あるのかどうかはわからないが、そういえば1年後に同じニューメキシコで撮影されたイーストウッドの主演・監督作『クライ・マッチョ』(2021)も、老人が少年をテキサスへ連れていくロードムービーだった。

By 無用ノ介

日本語トレーラー