海外ドラマ

テンペスト教授の犯罪分析ノート

強迫神経症の犯罪学教授が、ケンブリッジで起きる事件に挑む!

Professor T Series 1
2021年 イギリス カラーHD 60分 全6話 Eagle Eye Drama Britbox/ITV AXNミオステリーで放映
クリエイター:マット・ベーカー、マリン=サラ・ゴジン 監督:ドゥリス・ヴォス 原作:ポール・ピエドフォート(オリジナル版クリエーター)
出演:ベン・ミラー、エマ・ナオミ、バーニー・ホワイト、ジュリエット・オーブリー、フランシス・ド・ラ・トゥール、サラ・ウッドワード ほか

 もともとは、ベルギーで2015年から2018年にかけて、3シーズン放映された同名人気ドラマを、舞台をイギリスのケンブリッジに移してリメイクしたもの。(BBCワールドワイドのアメリカ法人とITVの映像ストリーミング配信子会社の合弁で設立された映像ストリーミング配信サービスである)BritBoxを皮切りに、英国のITVとアメリカの公共放送PBSでも、2021年に放映された。
 設定は、同類のものが多いのでインパクトに欠ける。「名探偵モンク」から「心配性刑事ワーグナーの捜査」にいたる主人公が強迫性障害という系譜に、「インスティンクト」の大学教授ものの掛け合わせである。

 舞台となっているのが、日本で言えば京都のようなケンブリッジの街。いうまでもなくあのケンブリッジ大学のお膝元であるが、ここの素晴らしい景色が大いにドラマを救っているというべきだろう。ただキャラクターには、少々工夫があり面白い。
 もちろん主人公は、ケンブリッジ大学の犯罪学専任教授、ジャズパー・テンペスト(ベン・ミラー)だが、もう一人のメインが、博士の元教え子でケンブリッジ署の刑事になっているリサ・ドンカーズ(エマ・ナオミ)。

 テンペスト教授は、単に強迫神経症でアスペな言動をするだけではなく、人間洞察は非常に鋭く、比類なき論理性で断言するために、ときどき教授に対する様々な苦言を呈しに来る学長(ダグラス・レイス)も、いつもそそくさと退散せざるを得ない。
 表現の仕方は遠回しではあるが、被害者/加害者への同情や共感の感情も持ち合わせている。
 そして、これはドラマの進行とともに明らかになるが、テンペスト教授には自分を虐待していた父親が、目の前で自殺を遂げた・・(それ以上の秘密もあるのか?)過去があり、それが大きなトラウマとなっているようなのだ。自らも犯罪に置けるトラウマの専門家であるが、このトラウマのため日常的に幻覚にとらわれ、強迫性障害から逃れることができない。
 リサの方は、テンペストが認めている数少ない優秀な教え子であるが、今は刑事になっている。ケンブリッジ学内で発生した新たな事件と、自分の友人が被害者になった過去のレイプ事件との繋がりを見つけたリサは、強引にテンペスト教授に協力を求めるのだ。
 一方、私生活では同僚のダンの猛烈プッシュを受けて、ちょっとその気になっていながらも、認知症を患う父の介護もあり、その付き合いたいという申し出は素直に受ける気にはならない。

 そのほかの登場人物も個性がはっきりしている。
 テンペスト教授の捜査への参加を許可する、ケンブリッジ署の責任者であるクリスティナ・ブランド警視(ジュリエット・オーブリー)は、どうやらテンペスト教授の元婚約者であったらしい。
 リサとダンの上司にあたる警部のポール・ラビット(アンディ・ガザグッド)は、昨年娘を事件で亡くし、今も立ち直れない状態で、いつもキレやすい。
 ダンは、登場人物でひとり、特に秘密もなさそうな純粋な若者だが、リサに生殺しにされていじけ気味。
 さらにテンペスト教授には、画家で強烈な母親アデレード(フランシス・ド・ラ・トゥール)と、何食わぬ顔で教授をコントロールしようとする秘書、イングリッド(サラ・ウッドワード)が、いつも立ちはだかるという構成だ。

 テンペストを演じているのは、「ミステリー in パラダイス」の・・と紹介されることが多いが、もともとコメディアンで「ジョニー・イングリッシュ」シリーズや、「ドクター・フー」などにも出演しているベン・ミラー。実は、ミラーはケンブリッジ大学のセント・カサリンズ・カレッジで自然科学を専攻していた経歴の持ち主で、偏屈な教授役にも十分フィットしている。
 テンペスト教授の元婚約者で、どうやら結婚式ですっぽかされるという屈辱を味話わったらしいブランド警視を演じるジュリエット・オーブリーは、英国の時間の亀裂をめぐるSFドラマ「プライミーバル」シリーズでミラーとも共演していた女優さんだ。
 
 ドラマは、軽いコージー・ミステリーでコメディ調に展開するのかと思えば、そうでもなく、なんとなく仄暗いテンペストの過去に繋がるダークなイメージで6話を締めくくる。そのへんの感覚は、アメリカンでもブリティシュでもなく、ベルギードラマの特殊性なのだろうか?
 オリジナルの方に関わっているわけではないが、なぜかこのドラマでもわざわざベルギー人監督のドゥリス・ヴォスが担当しているので、そのへんの特殊なこだわりがあるのかもしれない。
 いずれにせよ、めでたくシーズン2が決定しているらしい。

By 寅松

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