オンランシネマ

サスペクト-薄氷の狂気-

おいおい、この日本語タイトルじゃ、クライマックスが想像ついちゃうじゃん!

Nomis/Night Hunter
2018年 カナダ 98分 Arise Pictures、Buffalo Gals/Saban Films Amazon Primeで視聴可能
監督:デヴィッド・レイモンド 脚本:デヴィッド・レイモンド
出演:ヘンリー・カヴィル、ベン・キングズレー、アレクサンドラ・ダダリオ、スタンリー・トゥッチ、ブレンダン・フレッチャー、ミンカ・ケリー、ネイサン・フィリオン ほか

 寒そうな街だなあ・・アメリカのどこ?と思ったら、やっぱカナダ映画でした。しかーし、カナダ映画(舞台はウィニペグ:マニトバ州)でこんなに豪華なキャストなかなか見たことはない。それは確かだ!主人公のマーシャル刑事役には英国ジャージー島出身の元モデルで、ジェームズ・ボンドの候補にも上がったことがある、ヘンリー・カヴィル。
 マーシャル刑事の同僚で、心理カウンセラー/プロファイラーとして所内で取り調べなどにあたるレイチェル役に、アレクサンドラ・ダダリオ(『ベイウォッチ』「TRUE DETECTIVE/二人の刑事」「ホワイトカラー」)。と、このへんはともかく・・。
 犯人サイモン役には、カナダ出身の個性派俳優ブレンダン・フレッチャー(『ローズ・イン・タイドランド』「ザ・パシフィック」『レヴェナント: 蘇えりし者』「刑事カーディナル 〜悲しみの四十語〜」)。
 マーシャルの上司で警察署長のハーパーに、イタリア系の名優スタンリー・トゥッチ(『シェフとギャルソン、リストランテの夜』『プラダを着た悪魔』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』最近は、CNNでイタリアを巡るグルメ番組「スタンリー・トゥッチのイタリア食紀行」などにも)。
 そしてなんとなんと、事件解決に寄与していく、元判事の無法の小児性愛者ハンター、マイケル・クーパー役に、アカデミー男優ベン・キングスレー(『ガンジー』『バグジー』『セクシー・ビースト』『アイアンマン3』)!
 なんじゃこれ!
 だいたいスタンリー・トゥッチとベン・キングズレーじゃ、両方ツルツル頭でキャラ被って見分けがつきにくいわい!しかも、こんな大物が2人も出るような映画でしょうか・・。
 確かにキングスレーの演じたクーパーに関しては、元判事がこのような行動に出ることの重みを表現する必要はあったかもしれないけど、署員が大量に殺されたあと態度が豹変して、怒り爆発する署長の方は、誰でもよかったのかも(笑)。

 物語は、誰かに追われた若い女が、橋の上でついに追い詰められ、下の道路を走る僕材運搬トラックの荷台に落下して死ぬシーンから始まる。
 場面が変わって、未成年風の美少女ララ(エリアナ・ジョーンズ)が、ネットで出会ったキモい男と援交でホテルに入る怪しげな展開。男は嬉しそうに服を脱ぐと、ララは「セクシー」と一言、男は驚いたように「ほんと?」と聞き返すが、ララが「冗談」と笑った途端男は何者かにぶんなくられて気を失う。
 気がつくと、男はホテルのベッドに縛り付けられ、横にはおっさんのクーパーが。「お前のモノは、まだそこにあるが、二度と勃起しないし、タマも取っておいた。あとはこの薬を一生のみ続けろ・・」
 ぞぞぞー!どうやらこの男は未成年を狙う性犯罪者で、クーパーはいくら法で裁いても、未成年をレイプする性犯罪者が釈放されてしまう社会に怒り、自ら釈放された性犯罪者をおびき出し、その場で去勢してあるくボランティア活動に従事しているようだ。で、これがドラマの根幹かと思ったら、全然ちがう。

 ネットで狙いをつけた次の犯罪者とデートを約束していたララが、そのまま拉致されてしまったのだ。驚いてクーパーが車で拉致車両を追いかけるが、途中、老人の運転する車と事故を起こし見失う。
 警察でクーパーは、女のコが拉致されたのだと説明するが、一向に埒があかない。しかし、この取り調べを聞きつけたマーシャルは、迅速の行動を起こす。クーパーは、ララのイヤリングに携帯基地局を介して通信する発信器を仕込んであった。
 マーシャルは基地局の代用となるドローンを、信号消失地点から飛ばして見事に場所を特定した。そこは、森の外れの荒んだ屋敷。地下室には、多くの独房が作られ、何人もの女性が監禁されていた。女性たちとララは救出されて、そこにいた知恵遅れ風の犯人サイモン・ストールズを逮捕するのだが・・・。
 詐病か?解離性障害か?レイチェルが取り調べにあたるが、サイモンの言葉は一向に意味をなさない。その間、事件現場を調べていた警官たちに悲劇が起こる。屋敷の地下室には罠があり、自動的に吹き出した毒ガスで調査してた警官が6人も死亡したのだ。
 署長のハーパーは怒り狂って、こいつをさっさと送検しろと命令するが、警察への攻撃はそれだけではなかった・・。犯人は捕まえたはずなのに、警察のIT担当者が署の外に止めていた車に乗ると、爆発したのだ。
 犯人には協力者がいる・・!

 緊張感のあるサスペンスで、展開は十分楽しめる。警察がダメすぎだ〜、と思いながらも、とりあえず最後までドキドキはさせてくれる。
 女性を収集して拷問する変態犯人像はステレオタイプだが、なくならないレイプ性犯罪の悪循環が、さらに恐ろしいものを作り出す・・・といった警鐘が含まれていることは感じられた。スーパーマン役や、ナポレオン・ソロ役(『コードネーム U.N.C.L.E.』)を演じてきた、ヘンリー・カヴィルも、マーシャル役では、離婚した妻との間の14歳の娘フェイ(エマ・トレンブレイ)が変質者に狙われないか、心配でならないのだ。
 原題は<Nomis>だが意味不明だからだろう、アメリカ公開時には<Night Hunter>と改題された。関係があるかは不明だが、カナダには有名なスノーボードのファッション・ブランドで<Nomis>というのがある。その名前の由来が創立者の双子の弟であるSIMON(フランス系なのかシモンと読ませるが、英語のサイモンと同じ)を逆に綴ったものらしい。カナダでは有名な話なのだろう。映画のタイトルをそこからとったのなら、まるで犯人とトリックを暗示させているかのようだ。
 それにしても、日本でつけた「サスペクト-薄氷の狂気-」の方はひどすぎだ。
 第一、ドラマの中で犯人は早めに捕まり、そいつが容疑者(サスペクト)なのかとか、嫌疑(サスペクト)が正しいのかどうか?などという葛藤は一切ない。犯人がわかってからがひたすら怖いのだ。
 しかも、この副題!
 

最後のクライマックスが、凍った湖の上で対決することになって、この副題だったら・・かなり鈍感な人でも「落ち」が想像ついちゃうじゃんかよ!

 トホホ。

By 寅松