海外ドラマ

リディア・ポエットの法律

主演のデ・アンジェリスは、もはやイタリアの広瀬すずにしか見えない!

La legge di Lidia Poët The Law According to Lidia Poët
2023年 イタリア カラー 42分 全6話 Groenlandia
/Netflix Neflixで視聴可能
リエイター:グイド・イウクラノ、ダヴィデ・オルシニ 脚本:エリサ・ドンディダニエラ・ガンバーロ、パオロ・ピッチリロ 監督:マッテオ・ロヴェーレ、レティジア・ラマルティーレ
出演:マティルダ・デ・アンジェリス、エドゥアルド・スカルペッタ、ピエル・ルイジ・パジーノ、シネイド・トルンヒル、ダリオ・アイタ、サラ・ラッツァーロ ほか

 スタイリッシュで、カメラやプロダクションデザイン、衣装まで十分お金がかけられていて、まさに最近のイタリアドラマの質の高さを物語る出来だ。
 予備知識なしで見たら、美人の上に超絶気の強いリディアが、探偵顔負けの活躍で、次々超逆転で人々の冤罪を晴らすサスペンスドラマということで・・・、歴史的リアリティを無視したエンタメにしか見えない。が、驚いたことに主人公のリディア・ポエットは実在の歴史上の人物らしい。

 舞台は、イタリアの中でもフランスやスイスにも近いピエモンテの州都、トリノ。フィアットなど自動車工業の中心地としても知られている。リディア・ポエットは、19世紀末の1883年に弁護士資格を受けたが、検事総長が「気に入らない」と言い出したために、1985年に弁護士資格を剥奪された。「女性が裁判所に入ることは、公序良俗に反する」などという噴飯ものの主張(タリバン顔負け)も、実際に当時の検事総長が主張したもののようだ。
 さらに、弁護士資格を剥奪されたリディアが、弁護士である兄の助手としてその後も弁護活動を行なったというのも史実である。
 ドラマでは、あまり説明されないが、実際にはこの資格剥奪をきっかけにイタリアにおける女性と法曹界に関する討論が巻き起こり、イタリア中の25の新聞が女性の公的役割に賛成し、反対派3紙のみだった。ただし、その後リディアが正式に弁護士資格を得たのは1919年に法改正されたのち、65歳を過ぎてからだ。

 事実はともかく、ドラマの中のリディアは超美人さんで奔放。こんな美少女が・・と思いきやのっけからベッドシーンもドーンと出てくる。監督のマッテオ・ロヴェーレの方は、『少女たちの棘』『妹の誘惑』というややロリ・エロ系映画で知られているし、レティジア・ラマルティーレの方はも、「Baby/ベイビー」というイタリアの未成年パパ活ドラマで知られている人だから当然といえば当然だろう。
 リディアは、実に理不尽な理由で弁護士資格を停止され、剥奪される。その後は、消極的なダメ弁護士である兄エンリコ(ピエル・ルイジ・パジーノ)の家に居候して、その助手という形をとって次々事件を解決してゆくのだ。
 リディアは、当初から法廷への出入りを禁止され弁護士資格も停止されるので、物語の方はリーガルものというより、探偵ドラマである。

 物語は、劇場のプリマドンナを殺害した嫌疑をかけられた若者の弁護。
 チョコレート会社で労働運動をしていた女性労働者が、オーナーの妻を殺害したとして逮捕された事件。
 父の友人ムラーノが、その息子に殺された事件。実はリディアは家を出る前に、容疑者となったヴィットリオ(ルッカ・フィリッピ)の兄、アルベルト(アレッシオ・デル・マストロ)と結婚するように迫られていた。(この物語では、ドラマの縦糸でもある、リディアと父親の確執の真相も暴かれる)
 さらには、女性研究者が、恩師である大学教授を薬物で殺したと疑われた事件。
 事業家を殺害したと訴えられた、売春婦の事件。
 そして最後は、アナーキストで新聞記者でもある、義理の兄(エンリコの妻、テレサ(サラ・ラッツァーロ)の実の兄)ジャヤコポ(エドゥアルド・スカルペッタ)がかけられた過去のある売春婦を殺した容疑を晴らす事件である。兄の家で一時的に同居することになった、ジャヤコポとリディアは、お互いに意識し、協力関係とともに体の関係も結んでいた。
 毎回どのケースも絶体絶命的な窮地だが、リディアは毎回真相をみつけだし、大逆転を図る。そして最後には、兄が進めていた裁判所のリディアの資格剥奪決定への上訴の結果が出るのだが・・・。
 
 正直、事件の方はどのくらいリアリティがあるのかは計りかねる。それでも、中世から続く階級や社会体制を守ろうとする保守的な社会で、産業革命以降の社会的ほころびが深刻さを増して、アヘンや売春が横行。共産革命やアナーキストが出現し、社会運動が力を持ちはじめていた・・そんな混乱の世紀末の雰囲気は、うまく出しているようだ。この時代に、まだ常識ではなかった、指紋採取や嘘発見機の一種であるボリュウムグローブの使用などの最新科学技術と、世紀末に流行った降霊術が並列で出てくるあたりも面白い。

 ドラマとしては、なんといってもデヴィッド・E・ケリーが手がけた、HBOのサスペンス「THE UNDOING 〜フレイザー家の秘密〜」で、のっけから殺されてしまう謎の美女を演じて世界的に知名度を得た、主演のマティルダ・デ・アンジェリスの存在感が圧倒的だ。
 弁護士らしく、髪の毛をまとめて結い上げたデ・アンジェリスは、フェミニンというよりやや幼さの残る顔立ち(現時点2023.03で、27歳)で、その娘が、とてつもなく強い意志と持ち前の知能で無鉄砲に事件に挑む姿は、なんだかもうイタリア版の広瀬すずにしか見えないのだ!
 ボローニャ生まれ、13歳でギターとヴァイオリンを始めたデ・アンジェリスは、まずバンドのボーカルとしてキャリアをスタートした。役者としては、本作の監督マッテオ・ロヴェーレに見出されて、「ゴッド・スピード・ユー!」<Italian Race>(2016)でデビューした。シンガー・ソングライターとしても活動している。

 ぜひ、シーズン2が見たい!

By 寅松