海外ドラマ

Lupin/ルパン シーズン1/2

ルパン三世も今は昔!フランスでルパンの正しい後継者は、セネガル移民なのだ!

Lupin Season1/2
2021/2022年 フランス カラー4K 42~52分 全5話×2 Gaumont Television/Netflix Netflixで視聴可能
クリエイター:ジョージ・ケイ、フランソワ・ウザン 監督:ルイ・レテリエ、マルセラ・サイド、ルドヴィク・ベルナール(S2)、ユーゴ・ジェラン(S2)
出演:オマール・シー、リュディヴィーヌ・サニエ、クロティルド・エスム、アントワーヌ・グイ、ヴァンサン・ロンデ、スフィアン・ゲラブ、エタン・シモン、エルヴェ・ピエール ほか

 フランスの老舗映画会社、ゴーモンが製作しているのだが、実に今時のネットフリックス・オリジナル作品。カット割にも、脚本にも、フランス映画的な冗漫かつ叙情的なニュアンスは微塵もなく、舞台はパリで、登場人物はフランス語を話すが、近年の米英作品と区別がつかない。ジャンリュック・ゴダールも「勝手に逝きやがった」今日この頃・・・おかげで、安心して見られるのだが、一抹の寂しさも漂う・・。
 そりゃ、そうだな。クリエイターのうち、キリング・イブにも参加していたジェージ・ケイの方は、当然フランス人じゃないし、監督のうちマルセラ・サイドはチリ人の映画監督だ。

 物語の方は、出だしからルーブルで展示されてそのあとオークションかけられた、マリー・アントワネットが作らせたという豪華なネックレスが盗まれる!誰も予想しなかったような劇場型の泥棒。まさに「アルセーヌ・ルパン」調だ。
 しかし、そのあとは怪盗ぶりが続くというより、親子2代に渡る(そして3代目も巻き込まれてゆく)復讐の話だということが判明してくる。
 「親子の情」「叶わぬ恋愛」「恨み」「大逆転」。定番の感動要素を持ってくることが、結局のところ、現代の視聴者相手でもヒットの法則であるのは間違いないようだ。それは、最近の韓国ドラマの躍進を見れば明らか。しかし、欧米や日本の映像製作者を悩ませるのは、このような要素をある程度のリアリティのあるドラマに仕立て上げられる社会的な背景があるか?ということだろう。
 韓国ドラマでなら「そうだろう・・」と誰もが簡単に納得できる「社会の不条理」「貧富の極端な差」「親子の情の深さ」も、日本やヨーロッパなどに置き換えたら、ちょっとお笑いになってしまったり、「今時、いないよな」と思われてしまうことも多い。
 だから今の欧米ドラマは、この葛藤を乗り越えるために、やたらに舞台を少し昔に設定したり、主人公がもはや白人ではなく、差別を受けながらも家族の絆が強い移民2世が主人公になったりするのだ。
 もちろんフランスという先進国で、親に無実の罪を着せた悪徳富豪(こっちは、今時のフランス人でも珍しくないようだ:笑)に、人生をかけた復讐をしてくれるのも、今時「アルセーヌ・ルパン」の熱心な信奉者なのも、もはや純フランス人ではなくて、移民2世たちだ!(笑)

 セネガルから移民だった運転手のババカール・ディオプ(ファルガス・アサンデ)。富豪のユベール・ペレグリニ(エルヴェ・ピエール)にはめられ、獄中で非業の死を遂げた。(本当は、自殺に見せかけて殺されたらしい)父の無実を信じる息子、アサン(オマール・シー)はフランスで高等教育を受けて大人になる。子供の頃からの親友バンジャマン・フェレル(アントワーヌ・グイ)や恋人のクレール(リュディヴィーヌ・サニエ)と共に、パリで青春を送ったアサン。クレールとは別れたが、彼女との間には息子のラウール(エタン・シモン)がいて、何より大事にしている。しかし、彼は、これまで父の汚名を晴らすという大きな目的を抱いて生きてきた。その方法を彼にひらめかせてくれるのは、子どもの頃父親がプレゼントしてくれたモーリス・ルブランの小説「アルセーヌ・ルパン」だ。
 フランスの現場の刑事が、ほとんど移民ばかりなのはドラマではお馴染みの光景。しかしルーブルの首飾り事件を追う部署で、唯一「アルセーヌ・ルパン」の読者で、犯人が使った偽名がルセーヌ・ルパンのアナグラムであることを見抜く刑事ユセフ・ゲディラ(スフィアン・ゲラブ)も、北アフリカの出身者。まさにサッカーのフランスチームの活躍を見るようだ。

 随所にルパン・シリーズからの引用がある。「女王の首飾り」「ルパンの脱獄」「金髪の美女」「ユダヤのランプ」「813」「奇岩城」などはルブランのルパン・シリーズの短編か長編のタイトルだ。ちなみに、ラウールというのも、ルパンの幼名である。しかし、そんなことは知らなくても十分楽しめる。(ポプラ社の『怪盗ルパン』シリーズを読破したのは、小学校4年生の時で、今や何一つ覚えていないが、全然問題ない。)
 とにかく、毎回窮地に陥るが、最後は鮮やかな仕掛けで切り抜けるアサンのルパンぶりがかっこいいし、器の大きいキャラクターが魅力的だ。
 『最強のふたり』(2011)の演技で頭角を現した、コメディアンでもあるオマール・シーは、人間味のあるキャラクーでありながら、超人的な次の手を繰り出す現代のルパンをうまく表現している。

 しかし、なんといっても一番の主役は、ドローンを多用して十二分に描かれるパリの夜景の美しさ。パリの美しさを、今頃強調する必要もないだろうが、空中からこれほど美しい全体像を存分に楽しめるようになったのは、まさにドローン撮影の技術が進化した、ごく最近のことだろう。

 ドラマは、シーズン2のラストでは、不可能と思われるどんでん返しで、ペレグリーニと警視でペレグリーニに協力してきたデュモン(ヴァンサン・ガランジェ)の犯罪を世に知らしめることには成功するが・・アサンも警察に追われクレールとラウールに別れを告げて闇に消える。

 まあ、政治家にも警察にもズブズブで影響力がある、ペレグリーニがこれで葬られるとは思えないし、当然話は続く。早くもNeflixではシーズン3が近々公開とアナウンスしている。
 ルブランが書いたルパン・シリーズでは、ルパンは怪盗として活躍するだけでなく、その後の人生では変名で探偵業をやったり、外人部隊に入隊してモーリタニア帝国を征服してスルタンに即位したり、第一次世界大戦でフランスの危機を防いだりと、めちゃくちゃな活躍を繰り広げるのだが・・・、アサンのその後は、一体どーするつもりなのだ!
 
By 寅松

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