海外ドラマ

還魂 パート1

韓国版ハリー・ポッター的世界で、命をかけた究極のツンデレ応酬も、最後はひどい御都合主義低俗ドラマに!

환혼/Alchemy of Souls Part 1
2022年 韓国 カラー2:1 60分 全20話  Studio Dragon/tvN Netflixで配信
脚本:ホン・ジョンウン、ホン・ミラン 監督:パク・ジュンファ
出演:イ・ジェウク、チョン・ソミン、ファン・ミンヒョン、ユ・ジュンサン、シン・スンホ、オ・ナラ、コ・ユンジョン、チュ・サンウク、イ・ドギョン、チョ・ジェユン、パク・ウネ、ユ・インス、アリン(OH MY GIRL) ほか

 なんだこりゃあ〜!このエンディング!しょーもないなあ・・。

 ホン姉妹(「ホン姉妹」と呼ばれる作家が複数いるが、ここではジョンウン/ミランのホン姉妹)は、初期韓流ドラマブームが起こった、地上波濃厚メロドラマ時代から生き残る脚本家だ。日本で有名になったのは「美男ですね」「僕の彼女は九尾狐」あたり。「主君の太陽」からは、特にファンタジー・ロマンスにターゲットを絞り、「西遊記」を土台に、女の三蔵法師(ソミン)をめぐるロマンスものに書き換えた2017年の「花遊記」以降、tvNのミニシリーズに参入する。ヨ・ジングとIUを主演に迎えた2019年の「ホテルデルーナ」では、大ヒットを飛ばした。その姉妹作家の満を辞しての新作が「還魂」だ。
 まさかのこの人たちのドラマを見るとは思わなかった。が、監督がパク・ジュンファで主演女優にチョン・ソミンというのであれば見ないわけにはいかない!
 しかし、もともとは、このドラマの主演女優に決定していたのは、パク・ヘウンという新人。2020年にNeflixオリジナルとして製作された、チョン・ユミ主演の超オフビート・除霊コメディ「保健教師アン・ウニョン」のなかで、「クラゲ」というあだ名の女子高生ソン・アラを演じたのがデビューだ。
 ちなみに、パート1では「還魂」する前のナクスとして登場し、パート2の主演と言われているコ・ユンジョンも、この「保健教師アン・ウニョン」に出演している。「還魂」のプロデュースサイドはこのドラマで2人を調達したのだろうか?
 当初の事情は知る由も無いが、ホン姉妹の脚本は、基本的にヒロインが大事というより、言い寄る男たちを魅力的に描くのがテーマなので、イ・ジェウク、ファン・ミンヒョン、シン・スンホらをキャスティングした時点で、あまり邪魔にならない同年代の女優と考えたのかもしれない。

 パク・ヘウンを蒼井優似という向きもあるが、それはちょっと褒めすぎだろう。少々デコッパチのユニークな風貌で、アンニュイな女子高生を演じた演技はハマっていたが・・結果論から言えば、ナクス=ムドク=ブヨンという、(実際には)3人もの人格が交差する役どころを、かなりの短期間で撮影することに不安が残る。
 公式発表では「作品を引っ張っていくことに大きなプレッシャーを感じて」降板とされているが、一部では「演技力不足」でも報じられていた。

 最近韓国ドラマも、予算の高騰が話題になるが、完全な歴史ファンタジーであるこのドラマの予算は、桁違いである。40億円(500億ウォン以上)という話なので、たとえパート1/2の30話で計算しても驚きの予算だ。膨大なオープンセットを構築し、3Dパークティルを中心としたハリウッド・レベルのCGやアクションのVFXも手抜きがない。先行したCGやプロダクションデザインですでに1年以上をかけて進行しているプロジェクトだ。
 真相はどうあれ、女優の演技に多少なりとも不安が残れば、大コケすらありうるTV業界。パク・ジュンファが、途中で信頼を寄せるチョン・ソミンをオファーしたのもうなづける。
 パク・ジュンファ監督はソミンと相性が良い。もちろん彼は、何と言ってもヒット作「キム秘書はいったい、なぜ?」で知られているが、彼の最高傑作は、ソミンとイ・ミンギを主演に迎えた「この恋は初めてだから」というべきだからだ。
 主演した、チョン・ソミンにとっても、それまでの求められてきた地上波ラブコメ専門コメディエンヌから等身大の女性を演じるきっかけになった作品と言える。

 経緯としては、かなりドタバタだったのだと思われるが、チョン・ソミンを主演に据えてスタートした「還魂」は、完全に彼女を中心にしたドラマになってしまった。女優の存在感というのは、そういうことなんだろうと納得させられる。
 役柄とすれば、ナクス(少女時代:ク・ユジョン)は少女時代の回想からも見て取れるように、ソ・ユル(ファン・ミンヒョン)とほぼ同世代に見えるし、ムドクにしてもチン・チョヨン(アリン)の姉である可能性があるとしたら、20代であるのは間違いない。しかし、役柄としては可愛い外見とは裏腹に、チャン・ウク(イ・ジェウク)に対して、過酷な命令もきっぱり言い渡す「師匠」としての貫禄は、実年齢ではだいぶお姉さん(2022年現在33歳)のチョン・ソミンならではないだろうか。

 物語の方は、当初「歴史にも地図にも存在しない大湖(テホ)国を舞台に、気候を操る術師たちが繰り広げるドラマ」などという、意味不明のアナウンスがされていたが、要するに時代考証完全無視で好きなように設定できる、韓国フュージョン時代劇ファンタジーだ。

 この国には、普通の人間と、魔法使いのような術師が共存しており、国王は普通の人間。宮廷を警護し、天体の動きを監視/未来の予測をする役所である「天附官」は術師が管理している。さらに術師の養成機関と研究機関を合わせたような自治組織「松林」(ソンリム)があり、大学のような養成機関「精進閣」や医療機関の「セジュク院」、旅商人団などを擁する。
 術師を排出する名門がチェン家、パク家、ソ家、チン家の4家であり、天附官の官主チャン・ガン(チュ・サンウク)とその息子チャン・ウク(イ・ジェウク)がチャン家、松林の総師パク・ジン(ユ・ジュンサン)、その後継者である甥のパク・ダング(ユ・インス)がパク家、遠方の大将軍の家系ソ家の後継がソ・ユルで、さらに王妃であるソ・ハソン(カン・ギョンホン)はソ・ユルの叔母にあたる。
 チン家は、妖力の宿る妖器の保管管理を職務とする「鎮妖院」を司る女系。院長チン・ホギョン(パク・ウネ)、次女チン・チョヨン、嫡出子で今は天附官副官主であるチン・ム(チョ・ジェユン)、邪術を行うチェ氏の家計を隠して、ホギョンと結婚し婿入りしたチン・ウタク(チュ・ソクテ)そして行方不明の長女ブヨンが所属する。
 この他にセジュク院の院長である術師(ホ・ヨムイ・ドギョン)、その孫娘 ホ・ユノク(ホン・ソヒ)らがメインの術師家系である。

 チャン・ウク、ソ・ユル、パク・ダングは幼い頃から、精進閣で共同生活した親友で、そこに紅一点のチン・チョヨンを加えた4人の関係は、おそらくハリー・ポッターのようなイメージで描かれているのだろう。ここにいじめっ子のような役割で自ら術師でもある世子(王家の世継ぎのこと)コ・ウォン(シン・スンホ)も絡んで、ほのぼのとした術師2世の世界に、突然、影の刺客として恐れられた美少女暗殺者ナクスが還魂したムドクが入り込んで、混乱が巻き起こるというもの。
 父チャン・ガンの亡き後は、天附官の管主となる血筋だが、チャン・ウクの出生には秘密があった。病床にあった先代の王、コ・ソンに最後の頼みとして、7日間、還魂術で体を交換するように頼まれたチャン・ガンが、その頼みを聞き入れた間に、チャン・ガンの体を得た王が、チャン・ガンの妻で大湖国一の美女トファを犯して、子種を授けたのだ。トファは子供を産み落として、すぐに他界するが、子供が生まれたのは、大きな混乱と変革をもたらす、帝王星が登った日であった。
 副官のチン・ムに還魂術を教え、なんとか元の体に戻ったチャン・ガンは、トファの産んだチャン・ウクが王家を脅かす存在になることを恐れ、術を使えないように気門(なんのことかはわからんが気門を塞がれたものは、気が体を巡らず、術を使えない)を塞ぎ、全ての術師に術を授けることが無いように言い渡して、失踪した。
 チャン家のおぼっちゃまとして、執事のキム・ドジュ(オ・ナラ)に、なに不自由なく育てられたウクだが、これまで12人もの術師の弟子となったが、だれも自分の気門を開けて術を授けてくれないことに苛立ち、ひねくれていた。
 そのウクが妓楼で見つけたのが、売られてきた目の見えない女、ムドクだ。
 ムドクの体には、国を騒がせ、松林のパク・ジンによって成敗されて逃げていた、影の刺客ナクスの魂が還魂していた。そのことを素早く見抜いた、ウクはムドクを妓楼から身請けして、自分の師匠となって術を体得させてくれと申し出るのだ。

 ホン姉妹の定番ストーリー通り、本作もヒロインは、女らしくもない乱暴な性格だが、一方でこれまでたった一人で何かと戦ってきた女性である。ナクスは、子供の頃に家族と父親を4名家の術師たちに殺され、タンジュと名乗る男の元で術の修行をし、命じられるままに刺客となる。しかし、還魂したのちに、暗殺団首領タンジュは、天附官副管主チン・ムであり、その陰謀のために利用されてきたことを知る。
 孤独な戦士であった彼女の前に現れるのは、とぼけた態度だが意外にも深い懐で彼女を癒してくれる男たち。もともと遊び人でわがままなお坊ちゃんと言われていたウクの、意外なほど真剣な態度。タニャン谷で暮らした少女時代の初恋の相手であるソ・ユルの控えめな優しさ。そして、ムドクの自分を恐れぬ毅然とした態度に惹かれ、懐の深さを見せる世子。
 ストーリーは意外なほど一直線でテンポもいい。職人として大変腕のある、パク・ジュンファ監督は、軽快なタッチで過不足なく物語を説明し、感情を入れるシーンも引っ張り過ぎることなく、リズムを維持していて気持ちが良い。20話の物語であるが、最後まであっという間に見終わるのは確かだ。

 しかしホン姉妹の脚本は、最後にはがっくり来るほど、旧式で地上波くさい恋愛憎悪劇の範疇を出ていない。
 19話でまとめて、様々な謎を総括した後で、最終話の前半は地上波ラブコメのごとく、これまでの緊張感をほぐし、その後無理やりのどんでん返しというのはパターンながら、視聴者を惹きつけるのは確かだろう。

<ここからは最終回を含む大きなネタバレあり>

 しかし、ファンタジーとしてこれほど詳細な設定を、何かから流用するのでもなくゼロから作っているにも関わらず、話の筋には全く必然性がない。
 (脚本家)自分たちだけがご満悦な、男女恋愛の障害やどんでん返しを作るために、説明のあやふやまファンタジー要素は、テキトーに変更されている。前半は、ともかく、話が進むに連れて、話はボロボロになってしまうのだ。

 まず、スタート時点で話が矛盾している。
 最後の方でわかって来るのは、「還魂術」を行うために必須である「追魂香」という物質は、チン・ムと共謀する王妃に還魂した巫女のチェ氏が「氷の石」を用いて作り出したものであった。最終回のどんでん返しで、ムドク=ナクスを暴走させるために、実はチェ氏自分でつくった全ての「追魂香」にあらかじめ呪いをかけていて、鈴の音で、それを使用した還魂人をいつでも暴走させることができるという設定が登場する。
 物語のスタートは、追い詰められたナクスが還魂術でムドクに還魂するところから始まるが、そのためには当然「追魂香」を使って行なっている。この「追魂香」には、チェ氏の呪いもかかっているし、他の入手ルートもないので、タンジュ=チン・ムが与えておいたことは間違いない。
 しかし、チン・ムは最初からナクスを生き延びさせるつもりはなく、利用するだけ利用したら殺させるつもりであったはずだ。還魂術をつかってナクスが生き延びれば、いろいろ都合の悪いことがバレる可能性もあるし、そもそも最後の最後まで、ナクスがムドクに還魂していたことさえチン・ムは見抜けない。

 18話、19話でムドクとウク、ユ・ノク、世子、その他の精進閣の弟子たちは「氷の石」が拡張した結界の中に閉じ込められる。「氷の石」がやたらにオールマイティーなのは、「賢者の石」や「力の指輪」のようなファンタジー要素としてギリギリ理解できなくもない。しかし、この結界の中でムドク=ナクスが本来の力を取り戻すと、そこの全員の命が奪われるという設定は、後からテキトーにでっちあげたものとしか思えない。第一、その原理は全く説明されない。
 一方で、ウクが弾水法で氷の石の結界を破れば、己の全て術の力は天に放たれ、以降二度と術を使えなくなる・・などという設定も、ウクと世子が当然のことのように話し合うが、意味不明だ。
 このおばさん脚本家は、単純にこの後一度ハッピーエンドに見せかけて、急転回させて読者を惹きつける目的だけで、ムドクには、ウクたちの命のために術力を取り戻す野望を放棄させ、ウクの方にも命をかけて積み上げてきた術力を放棄させた。そこまでしてようやく2人が普通の幸せを勝ち取るシーンを作りたかっただけである。

 しかも、最後20ほどになってから、取ってつけたように次シーズンにつなげるバッド・エンドが暴走する。
 チェ氏が残した薬液と鈴でチン・ムに暴走させられた、ムドク=ナクスは石化しながら刺客にもどり、チン・ムに命じられた通り秘密を知るチン・ウタクを襲う。止めようとしたウクをも刺して殺してしまう。
 都合よく体の中に「氷の石」を取り込んでいるウクは、たとえ殺され、焼かれても全然平気で復活してしまう。
 逃げおおせたものの、石化したムドクは、還魂人の墓と呼ばれる「敬天大湖」に身を投げるが、2人のどう見ても天女のような女たちに引き上げられてゆく・・。
 最後の最後に、チョン・ソミンのアクションシーンがあったのはいいが、取ってつけたような展開で、話としては、まったくとほほだ。

 ということで、話はこのままパート2へ。
パート2には、チョン・ソミンだけが契約しておらず出演もなしという情報が優勢である。(カメオや回想シーンはあるだろうけど)
 代わりに、ナクスを演じたモデルのような美女、コ・ユンジョンがメイン・キャストに浮上すると伝えられている。当サイトでも、デビュー作の「彼はサイコメトラー」から今後が楽しみな女優さんとしてマークしていた有望株で、最近はJTBCのドラマ「ロースクール」の学生役でも注目されている。
 彼女は、見た目はモデルさんのようなすらりとした美人さんだが、声はチョン・ソミンに少し似ていて、オープニングのナクスのナレはソミンが吹き替えたのものと思っていた・・・。が、本人の声らしい。
 余談だが、「還魂」1話目を自宅で家族と見たチョン・ソミンは、お父さんがソミンとコ・ユンジョンを取り違えて、わからなかったことに「実の娘の顔もわからん!」と呆れていた。
 
 当初からホン姉妹は、ヒロインを途中でチェンジしようというアイディアを持っていたのだろう。そのアイディアがあってこその、魂の入れ替え=還魂というわけだ。だから逆に、当初の入れ物としての体の女優は、美女のコ・ユンジョンとギャップのあるルックスにしたかったのかもしれない。
 その企画自体の面白みはともかく、最終的に御都合主義で程度の低い物語にしてしまうなら、ここまで可愛い女優や、将来のある俳優たちを無駄遣いする意味があるのか?大いに疑問である!

パート2は2022年の12月に放送開始が予告されている。

Part2 評はこちら>>

By 寅松
 

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