海外ドラマ

退職教授ハリーの名推理

神秘的で美しかったボンドガールが、今は毒舌の肉食系、退職教授に!

Harry Wild
2022年 アイルランド カラーHD 55分 全8話 Metropolitan Pictures/Acron TV AXNミステリーで放映
クリエイター:デビット・ローガン 監督:ボブ・バーク、ローナン・バーク
出演:ジェーン・シーモア、ローハン・ネッド、スチュアート・グラハム、ケヴィン・ライアン、ローズ・オニール ほか

 アイルランドの名門大学で英文学の教授を務めていたハリー・ワイルド(ジェーン・シーモア)は、早めの引退を決めた。アイルランドでも、おそらく大学教授は終身雇用の権利があると思われるので、引退を決めるのはあくまで本人なのだ。
 「引退しても、何もやることがないぞ〜」周りの忠告をよそに、引退して長年の夢であった自分の小説を書きはじめるハリーだが、最初の1行すら書き出せない。アイルランド人らしく、毎日ワインを飲んで、ろくでなしの友人グレン(ポール・タイラック)とパブで時間を潰す日々を送ることになるはずだったが・・・、家から出がけに子供の強盗に会い、財布を取られたことから意外な展開に・・・。

 英国のケーブルTV局AcornTVが手がけた、近年おなじみの高齢者をターゲットに絞ったのんびりサスペンス・コメディの最近作である。
 舞台はアイルランドで、撮影自体はダブリン郊外のキルディア周辺で行われたらしい。年中出てくるパブも、実在するイン(パブ兼旅籠)の看板を掛け替えたものだとか。しかし、風景はともかく、アイルランド色は乏しい。何と言っても、主演のジェーン・シーモアさん自身、ポーランドとオランダの血を引くイギリス生まれ(アメリカに帰化)で、アイルランド風でもなんでもない。
 だから、訛りが全然ない高等教育を受けた大学教授にしたのだろうか?

 引退大学教授の設定だが、ストーリーが「ハリーの強みである“文学の知識”を駆使して捜査していく・・」というのは少々掛け声倒れ。知識の利用も深い部分ではなくて、ごくごく上っ面の話だ。これならせいぜい小説好きのおばちゃんくらいで、十分だったろう。
 ハリーの得意技は、正直、文学の知識ではなくて、酒の強さと毒舌とハッタリで、ある。このハリーの豪快さに対して、登場する男たちのなんとも情け得ないこと。
 ハリーの息子のチャーリー(ケヴィン・ライアン)は、警部のくせに融通が利かないばかりか、捜査のカンもからっきし。その上、美人で厳しい妻オーラ(エイミー・ヒューバーマン)の尻に敷かれっぱなしで、ハリーの意見に耳を貸さない。
 チャーリーの上司で、警視正のレイ(スチュアート・グラハム)は、ハリーとは不倫関係になってしまうが・・こいつもからっきし役に立たない。
 多少なりとも頼りになるのは、ハリーの財布をかっぱらった縁で、心を入れ替えて助手として働くことになった元不良少年のファーガスくらいのものだ。
 さすが美人の家系と思わせる、美人すぎるハリーの孫娘ローラ(ローズ・オニール)とファーガスが付き合ってしまうのは、シーズン2に向けての、おまけみたいなものであろう。
 
 1話解決で、次つぎ起こる事件は、バリエーションだけには富んでいて、毎回予想はつきにくい。だからと言って、緊張するような話は一つもないが。

(この美しい占い師がシーモアさん!:笑)

 ま、70年代、ロジェー・ムーア版ジェームズ・ボンドを覚えていらっしゃる方にとってドラマの最大の見せ場は、あの『007 死ぬのは奴らだ』(1973)で、神秘的なタロットカード占いをする美女、ソリテアを演じたシーモアさんが、今や毒舌の婆さんに変身したことの方だろうけどなあ・・。

By 寅松