オンランシネマ

音楽

今年アマゾンで見られるようになった映画の中で、もっとも見る価値がある映画であろう!

On-Gaku: Our Sound
2019年 日本 71分 Tip Top/ ロックンロール・マウンテン Amazon Prime、Neflix、Huluで視聴可能
監督/脚本:岩井澤健治、原作:大橋裕之(「音楽と漫画」「音楽 完全版」)
音楽:伴瀬朝彦、剣持学人(GRANDFUNK)、澤部渡
出演:坂本慎太郎、駒井蓮、前野朋哉、芹澤興人、平岩紙、竹中直人、岡村靖幸(Vo.) ほか

 2020年公開で、見たいと思っていた同作。先日まで有料であったものが、なぜかAmazon primeで視聴できるようになっている!こ、これは・・・。
 異形のアニメである。そもそもアニメの監督ではなかった岩井澤健治監督が、独学で、ほぼ一人で71分を描き上げたアニメ。そもそもは、日本映画史に残る異形の映画監督、石井輝男に弟子入りしてたくらいだから、そりゃ変な人だ。
 原作の漫画があるのだが、それ自体が、かなり「アレ」だ!大橋 裕之という人が描く、漫画は、そもそもマンガのフレーム自体を壊してくるような代物。前衛という気負いもないのだが、超絶オフビートで異端の漫画である。なにせ最初は、自費出版されたものが、あまりの異様さに徐々に注目されだしたほどの漫画だ。

 話の方は、いたって簡単。どこか地方の都市。(一応、坂本市とかいうらしいことが、後からフェスの名前でわかる)絶望的に退屈な感じの町の、偏差値の低そうな高校に通う研二(坂本慎太郎)は、ものすごーく周囲から恐れられているバカ強いヤンキーらしい。そんなにヤンキーにも見えないが、とにかく完全なスキンヘッドで、存在自体がおじさん風だ。
 あるとき、何かのトラブルに巻き込まれた男から、預かってくれと渡されたベースギターを持ち帰った研二は、いつもつるんでいる、太田と朝倉に「バンドやらないか」とのんびり声をかける。音楽室から、テキトーに楽器を拝借し研二の家に集まる3人。太田がギターとベースで迷った時に、「赤いやつは俺が持ってる」と研二が言ったので、赤いギターでなくベースを選んだ太田だったが、研二が持っていたのは赤いベース。というわけで、ベース2人、ドラム1人のトリオのバンドになってしまう。
 いずれにしろ、音楽なんて知るわけがないので、全員が単音をユニゾンで続ける異様な演奏が始まった!
 朝倉のおじさんがやってるらしい・・「古武術」というのをバンド名にした彼らは、学内に「古美術」という紛らわしい名前のフォーク・バンドがあることを知り、そいつらを「締め」に行くのだが・・古武術の3人は意外にも古美術の演奏に関心する。しかし、逆に古武術の演奏を聴かされた、音楽おたくの古美術のフロントマン、森田(平岩紙)は、ほんものの音楽的衝撃を受けて、このヤンキー3人組を地元で開かれるフェスに誘うのだった・・・。

 絵は、とことん下手くそなのだが、話が進んでゆくと地方都市の寂れた繁華街の描写や、キャラクターの歩き方のリアリティなどがあり、ひょっとして3Dでキャラクター造形したアニメーションをエフェクトでアニメ調にしたのかと疑ったが、逆に、実写映像を撮り、それを元にロトスコーピングしたらしい。(手書きなので7年もかかったのだ!)特にフェスの演奏場面は、元動画の音源とシンクロしているらしく、なかなか表現としても面白い。
 会話は究極まで少なく、省略されている。日本映画の「間」の表現を、(通常は、無音の間を作らない)アニメの世界に強引に持ってきたのは、評価できる。この何とも言い難い味のある絵だからというのもあるし、研二の声を担当した、元ゆらゆら帝国のミュージシャン、坂本慎太郎の存在感も大きいだろう。

 森田が、古美術の演奏にやられて瞑想に入る場面の空想場面は、すべて70年代のロック・アルバム・ジャケットでニヤリとさせられる。(2人とも80年代に産まれた原作者と監督が、本来なら知るはずもないのだが・・)「原子心母」の牛と「サージェント・ペッパーズ」の福助人形が座る「マインドゲーム」の背景に、ツエッツペリン号が飛び、タルカスの戦車が発砲し、(成毛滋の?)フライド・エッグやら、よく見えないが(たぶん)リトル・フィートの「セイリン・シューズ」っぽいブランンコが入り込む。最後、空に向けて発射された森田は、チューブラー・ベルズに吸い込まれて、小川に吐き出される。
 3万枚以上もCDを持つ森田の家に行った、太田が貸してもらうCDは、もちろん変な顔のCD「クリムゾンキングの宮殿」に違いない!(笑)
 
 テーマ曲はドレスコーズ(志磨遼平)の「ピーター・アイヴァース」。劇中音楽は、伴瀬朝彦、澤部渡(スカート)、GRANDFUNKが担当していて、フェスの演奏などを含め意外にしっかりしていた。
 特に、古武術の単音ユニゾンの唯一の曲は、なかなかいいし、その縦笛追加バージョンは秀逸だ。

 このアニメ/映画の面白いところは、表現はオフビートで、話も突拍子も無いように思えるが、実は高校生の頃にバンドを組んだことがあれば、この話のコア部分が驚くほど共感できるということだと思う。ものすごーくよくわかる部分があるのだ。
 日本だけじゃ無い。どこの世界でも、最初の頃のバンド結成物語は、こんなアナーキーな物語を含んでいる。「音楽」そのものの成り立ちに関係した物語ともいえるだろう。
 だからこそ、本作は、カナダのオタワ国際アニメーション映画祭でも(2019年の長編部門)グランプリを獲得できたのだと思う。
 (それって、2017年に同賞を受賞した湯浅政明と同等ってことだからな。「映像研には手を出すな!」のだよ。けっこうすごじゃんなあ。(笑))