港町のシェフ探偵パール

牡蠣で有名な英国ケントの港町を舞台に、おばちゃん素人探偵とうじうじくんの警部がコンビで活躍！

　今までITVものなどを主に配信してきた、英国のストリーム・チャンネル、Acorn TVが自前で製作したドラマ。まあ、最新作なのはいいのだが、BBCのクオリティや、ITVの深いイギリス風味を期待すると肩透かしであろう。カナダかアメリカのケーブルTVが作りがちな、全体として緩めのドラマ。原作自体がコージー・ミステリーで、作者がクリエイターとしても名を連ねているので、その意向もあるのかもしれないが、全てにおいて中途半端である。
　ドラマの舞台は、またもや観光名所。ウィスタブルは、英国では何と言っても「牡蠣」の養殖地として知られる町だろう。南東部、ケント州にあり、カンタベリーからも大変近いこの港は、ロンドンからのアクセスもいいので、今では絶好の別荘地のようだ。
　ローマ時代から牡蠣を養殖してきた町には、観光客をDFL（ロンドンから来た奴ら）とバカにする地元の漁師文化も残っているが、不動産は高騰し、移住者やセカンドハウスの住人たちから多くの経済的恩恵を受けているにちがいない。

　主人公のパール・ノーラン（ケリー・ゴッドリマン）は、母親のドリー（フランシス・バーバー）と、海辺でシーフード・レストラン（というか、ほぼオイスターバー）「ウィスタブル・パール」を営んでいる。彼女は、料理を作っているようではあるが、シェフというほど立派なプロとは思えない。レストランを始めてから、地元の料理教室に通った程度の腕前だ。
　しかし、若くして子供のチャーリー（ローハン・ネッド）を妊娠したために辞めてしまったが、元は警官で、今では町の人たちが持ち込む厄介ごとを調査する、私立探偵業も営んでいる。
　物語は、そのパールが父親の代から付き合いのある養殖業者、ヴィニーの船で本人の死体を発見するところから始まる。捜査に当たるのは、ロンドンから来た新しい警部マイク・マクワイア（ハワード・チャールズ）。黒人で腕っ節も強そうなのに、どこかうじうじしているこのマイクと、向こう見ずなパールが、徐々にタッグを組んで事件の捜査をすることに。

　事件は1話完結の、ほぼほぼどうでもいい謎ばかり。ただ4話目＜Disappearance at Oare＞だけが緊迫感がありなかなか見せる。脚本に加わったマイアンナ・バーリング（スウェーデン出身の女優でもある）が、優秀だったのだろうか。
　全体を通して縦糸として、続いて来て最後の6話目で解決するのが、母親のドリーが娘のパールにも隠し通して来た秘密と、30年前に船だけが発見されて遺体が見つからなかった父の失踪の真相だ。（まるで、「私は刑事ロボスコ 南イタリアの事件簿」と同じだ）
　そして、おそらくこれが一番の売りなのだろうと思われるのが、6回を通じてじれったく進展して、最後にはまったく消化不良で終わる、パールとマイクの恋の発展。うじうじくんのマイクは、実はものすごく若くて美人の奥さんを亡くしたばかりらしく、その傷心を癒すために港町に出向して来たようなのだ。（しかし、警察内部での移動などは、まったく描かれずに、警部は勝手に移動しても問題ないらしい。リアリティーは無視されている。）
　もともとコメディアンで、愛嬌のある顔ではあるが、ケリー・ゴッドリマンが演じるおばちゃん以外の何者でもないパールと、実年齢は彼女より10歳以上若いと思われる、「ザ・ウィドウ」や「アレックス・ライダー」などに出演していたハワード・チャールズのマイクの恋愛は、正直しっくりこない。しっくりこないばかりか、脚本的にも演出的にも、その辺をフォローする技も何も感じられない。だいたい、あんな美人で若い黒人の奥さんを亡くした男が、白人の年上のおばちゃんに、急に乗り換える理由が見当たらないぞ！
　本当は彼女もマイクに気がありそうなのだが・・・。こいつが、あまりにうじうじくんなので、関係がちょっとヘンテコな感じになっちゃってる、部下のニッキー巡査（ソフィア・デル・ピッゾ）の方も、かわいそうだ！

　ケント州は、イギリスでも最も裕福な土地柄だから当然かもしれないが、深刻な地域の事情や社会問題もなにも登場しない。日本で言えば、鎌倉あたりでしゃれたレストランを持っているおばちゃんが、地元民の謎解きに付き合う、地方局製作のコメディを見ているようだ。主演は山村紅葉なのか？？？。
　とにかくも、お年寄りが安心して見られること以外は、長所が見つからない。

寅松

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