海外ドラマ

ナチ・ハンターズ  シーズン1

アメリカに蔓延るナチの残党を追え!シリアスなユダヤ人のナチス・リベンジと見せかけて実はタランティーノ印の「ミッション・インポッシブル」×「七人の侍」な超娯楽アクション・ミニ・シリーズ!

Hunters
2020年 アメリカ カラーHD 57~90分 全10話 Monkeypaw Productions/Amazon Studios Amazonプライムで配信中
クリエイター:デヴィッド・ヴェイル 監督:アルフォンソ・ゴメス=レホン、ネルソン・マコーミック、ウェイン・イップ、デニー・ゴードン、ミリセント・シェルトン
出演:アル・パチーノ、レナ・オリン、ディラン・ベイカー、ローガン・ラーマン、ジェリカ・ヒントン、キャロル・ケイン、ルイ・オザワ、ジョシュ・ラドナー

 アメリカの若者たちが『スター・ウォーズ』(第1作)に熱狂し、子供たちはテレビ『600万ドルの男』を楽しみにしていた1977年夏、フロリダでNASAの科学者が、ニューヨーク・ブルックリンでユダヤ人老女が謎の死を遂げた。老女の孫ジョナ(ローガン・ラーマン)は、葬式でユダヤ人の富豪オファーマン(アル・パチーノ)に会う。彼は、アメリカ社会に潜むナチスの残党を狩る“ナチ・ハンターズ”を率いていた・・。

 劇場映画なみに1時間半もある第1話の少々シュールでシリアスな展開におじけづく人も多いかもしれないが(それ以外は各エピソード約1時間)、第2話から徐々に本性を表すのは、なんだかクエンティン・タランティーノが『ミュンヘン』を撮ったみたいな奇想天外なリベンジ・アクションの部分だ。スピルバーグが『グラインドハウス』に参加して『イングロリアス・バスターズ』を作ったら・・あるいはユダヤ版『スパイ大作戦(ミッション・インポッシブル)』または『必殺仕置き人in USA』かも。突然『サタデー・ナイト・フィーバー』になっちゃうミュージカル場面やおとぎ話のアニメーションまである。
 それでも、ナチによる収容所での蛮行を暴き、サイモン・ウィーゼンタール本人も登場する(オファーマンは友人なのだ)真面目なユダヤ人リベンジ・ドラマなわけで、シリアスすぎるテーマにタランティーノ印の超娯楽アクションを合体させた大胆極まりない10時間超のミニ・シリーズともいえる。ま、そのあたりのサジ加減が微妙なところもあるが、あまり深く考えないで楽しむのが一番だろう(失敗すると、オリンピック開会式演出の仕事があっても解任されるかもだけど)。

 オファーマン率いる「ハンターズ」の面々は、作戦担当のシスター・ハリエット、変装の名人の俳優ロニー・フラッシュ、偽造の達人ロクシー・ジョーンズ(黒人娘)、ベトナム帰りの人間兵器ジョー水島(日系)、何でも作れる技術屋ミンディとマレー夫婦(収容所帰り)・・と、タランティーノ&ロドリゲスの『グラインドハウス』顔負けの特製予告編付きで紹介される。ここに暗号解読が得意な少年ジョナが加わって、オファーマンと「七人の侍」なわけだ(でないと、なぜ日系人が加わっているのかわからない)。対する、「ナチス」側もなかなかの布陣。国務次官としてカーター大統領の側近にまで出世している男、謎の女ボス(レナ・オリン)、『パルプ・フィクション』の“掃除屋”みたいな謎の殺し屋などなど、相手にとって不足はない。
 「ハンターズ」は、連絡係の有名音楽プロデューサー、ナチ・プロパガンダ映画を作っていたが現在はアメリカで政治顧問になっている女、かの有名なロケット科学者フォン・ブラウン博士、ユダヤ人から奪った財宝を秘匿しているチューリッヒ銀行などをつぎつぎに処分・制圧していくが、ナチは南米から輸入した生物兵器をシドラー社(!)のコーンシロップに混ぜて全米にばらまこうとしていた・・。

 シリーズ・クリエイターは俳優出身のデヴィッド・ヴェイル。実際に祖父母がナチ・ユダヤ人収容所の生き残りなんだそうだ。主人公ジョナは、普段はヴェルヴェット・アンダーグランドを聴いてパティ・スミスのポスターを部屋に飾っていて、コミックブック書店でバイトしながらマリファナを売っているユダヤ人青年という設定。そんな彼が、鯨の腹の中で3日間暮したことで神の教えに従うと改心した旧約聖書の「ジョナ(ヨナ)」の話を引用しつつ、立派な「ナチ・ハンター」に成長していく物語でもある。
 一方、全米で頻発する謎の殺人事件を捜査するのが黒人のFBI女性捜査官の(実際に黒人捜査官は70年代後半に初登場したらしい)で、さらに彼女がレズという設定はいかにもLGBTQで現代的なチョイス。70年代特有のニューヨーク地下鉄(落書きだらけ)、ゴージャスなアメリカ車、さらにはナチスの人間チェスと『クイーンズ・ギャンビット』の関係をにおわせるセリフ(同じような時期に制作されていたのかな)なども楽しい。おまけとして、なぜか70年代へタイムスリップする名作シリーズ『時空刑事1973 LIFE ON MARS』へのオマージュ演出まで出てきたぞ。
 
 個人的には、実際に70年代に髭面でニューヨークの警察官『セルピコ』を演じていたアル・パチーノが、50年後にも髭面で元気で活躍しているのが一番うれしい。もちろん抜群の存在感で作品のグレードを引き上げている(演技的には『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の俳優エージェントと同じ)。次いで、『蜘蛛女』の悪女が復活したかのようなレナ・オリン(旦那はラッセ・ハルストレム)の怪演、さらには元ナチ専属女映画監督(もちろんモデルはレニ・リーフェンシュタール)役で、なんとウンチを食わされる“いじめ”(拷問)を受けるのがファスビンダー作品や『ローザ・ルクセンブルグ』で知られるドイツの名女優バルバラ・スコヴァだったのにはビックリ。

 シリーズ最終話には(ちょっと予想通りながら)ドンデン返しな展開が待っていて、さらには「ハンターズ」の次回の活動の場まではっきり示され、セカンドシーズンへの期待がいやがおうでも高まる・・・のだけど、なんでもユダヤ人関係からいろいろ文句を言われてるのか、製作が遅れているらしい。はたしてシーズン2は無事に配信されるのだろうか。よろしく頼むよ、サイモン。

By 無用ノ介

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