海外ドラマ

クイーンズ・ギャンビット

ルールを知らなくても楽しめる某国営放送の朝ドラみたいな、スポコン青春ドラマ。ただしドラッグ&アルコール中毒などあり。

The Queen’s Gambit
2020年 アメリカ カラーHD 46–67分 全7話 Flitcraft Ltd/Netflix Netflixで配信
クリエイター:スコット・フランク、アラン・スコット 原作:ウォルター・テヴィス 監督:スコット・フランク
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、トーマス・ブロディ=サングスター、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー、クロエ・ピリー

 コロナ禍でネトフリなどのオンライン需要が高まった中、韓国ドラマと並んで話題に上がっていたアメリカ製配信ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」遅ればせながら見てみた。ストーリーは想像以上にベタでストレートなスポコン・ドラマなのだが、某公共放送名物の朝の連続ドラマみたいで楽しめる。それでも、遠慮のない描写はネトフリ印だ。人気が出るのもわかる気がした。

 交通事故で親を亡くし、施設で育ったベス(アニャ・テイラー=ジョイ/子供時代:イスラ・ジョンストン/幼児期:アナベス・ケリー)は、用務員(掃除夫?)のおじさんからチェスの手ほどきを受け、才能を知る。養女として引き取られた先の新しい母親は夫と不仲で精神的に不安定(毎日ピアノでエリック・サティを弾いてる)。精神安定剤を彼女の代わりに受け取りに行くドラッグストアで、チェス雑誌を万引きしていたベスは、地域のチェス大会に出場して優勝し、頭角を現す。いろいろあって全米選手権を制したベスはついに世界最強のチェス国家・ソ連へ乗り込む。チームワークで戦うソ連選手に対し、ベスはたったひとりだった・・・・。

 1960年代初めまで、アメリカの福祉施設では精神安定剤を子供に与えるのが普通のことだったらしい。おかげですっかり“ドラッグ中毒”になったベスは、その後も酒、タバコ、マリファナと“精神を安定させるなにか”には目がない。施設で育った生活からか、「物おじしない&なんでも言ってみる」がモットーらしく、生理が始まるとそばにいた女の子に生理用品をねだり、男の子には自分から「初体験」をお願いする。援助を口実に広告塔にしようとしてくる宗教団体とか、気に入らないことは、はっきり拒否する。
 こうした、育った環境ゆえか、当時一般的に(特に女性には)禁じられていた事柄をことごとくぶち壊していくベスに、女性視聴者は拍手したくなるのだろう。ベスを演じるちょっとボーイッシュで可愛いアニャ・テイラー=ジョイ(意外に巨乳だけど)は、日本でいえば「のん」みたいな感じ。まあ、日本のテレビドラマならタイトルは「ベスちゃん」か「チェス、とー!」か……ま、ドラッグ&アルコール中毒のヒロインはNGだろうけど。

 原作があって、書いたのは『ハスラー』『地球に落ちてきた男』で知られるウォルター・テヴィスが1983年に出した本、シリーズ・クリエイターとして脚色・監督したスコット・フランクは『アウト・オブ・サイト(1998)、『LOGAN/ローガン』(2017)でアカデミー脚色賞ノミネートさてた実力派だ。監督としてもリーアム・ニーソンの『誘拐の掟』[2014]、Netflix配信の『ゴッドレス-神の消えた町-』(2017)はのネオ・マカロニ西部劇とも呼ぶべき意欲作だったが、そこで若造保安官助手ホワイティを演じたトーマス・ブロディ=サングスターが、ここでは全米一のチェス・プレイヤーとしてベスの前に立ちはだかるベニーを演じている。
 ちなみにタイトルの「クイーンズ・ギャンビット」は、チェスのゲーム初期の差し手パターンのひとつ。劇中には「シシリアン・ディフェンス」とか「カロカン・ディフェンス」とかなんだかおもしろそうな戦法(?)が出てくるが、まあチェスのルールは知らなくても楽しめる。

 登場する60年代のアメリカ、メキシコ、ソ連のインテリアや風景(の一部)は、ほとんどがドイツの撮影所のセットで撮られたという。ダグラス・サークの50年代ハリウッド映画を思わせる素敵なプロダクションデザインは、『パフューム ある人殺しの物語』(2006)や『クラウド アトラス』(2012)のウリ・ハニッシュ。パステルっぽい色使いに、どこかドイツ的な暗さが加わってすごく魅力的だ。時代の雰囲気を盛り上げるのが選曲。ベニー・ワッツ、ペギー・リー、ハーマンズ・ハーミッツ、モンキーズ、キンクスと、慎重に有名曲を排したリストはセンスがいい。ただし、1967年にミニスカートで踊り狂う場面にショッキング・ブルーがかかるのは、時間軸があってないけど(「ビーナス」はオランダでのリリースが69年発売で、アメリカで大ヒットしたのは70年だ)、ま、いっか。

by 無用ノ介

日本語トレーラー

撮影裏話