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ゲット・デュークト!

要約するとイギリスのバカ高校生たちの悪夢の遠足!?スコットランド過疎地隊で繰り広げられるホラー風味ブラックコメディ!

Get Duked!
2019年 イギリス 87分 アマゾン・スタジオ Amazon Primeで視聴可能
監督/脚本:ニニアン・ドフ
出演:ケイト・ディッキー、ジェームズ・コスモ、エディ・イザード、ケヴィン・ガスリー、サミュエル・ボトムリー、ビラジ・ジェネイヤ(Viraj Juneja)、リアン・ゴードン、ルイス・グリッベン、ジョナサン・アリス ほか

 イギリス人は異常に「徒歩旅行」と呼ばれるジャンルが好きだと思う。日本人にはちょっとピンとこないほど、彼らは休日に歩いたりする。ウォーキングとか、トレッキングとか、 徒歩オリエンテーリングとか、多少の違いでいろいろ呼び方があるが、要するに歩くのが大好きなのだ。
 この映画の中でも、農夫のおじさんに場所を聞くと「俺の土地だ!」と答える場面があって、他人の土地に侵入したら怒られそうに思うが、イギリスには1923年に制定された「歩く権利法」があり、私有地の通り抜けもルールを守れば咎められないらしい。
 ま、そういうわけで、「自然の中で歩くことこそ健全な精神を育むもとである・・・」みたいなことになるのだろう。映画の冒頭で説明されるのは、エリザベス女王の夫、エディンバラ公(Duke Of Edinburgh)フィリップ王配の名前が冠された、歴史あるスコットランドでの若者の徒歩オリエンテーリングアワードについて。
 しかし、場面が変わるとバンに乗せられて、いかにもダメそうなイギリスの高校生3人が揺られている。ディーン(ゴードン)、ダンカン(グリッベン)、DJビートルート(ジェネイヤ)の3人は、糞を爆発させるというくだらないいたずらを思いついたおがげで、公衆トイレを全焼させてしまい、更生プログラムの一環として、この徒歩オリエンテーリングに参加させられているらしい。
 一行がたどり着いたのは、スコットランドのハイランド地方。バンが止まると、3人の他にもう一人の優等生風の高校生イアンも登場。「どこにいたんだよ?」と3人が驚くと、「声もかけたよ?何回も?」と・・。よほど影絵が薄いやつだ。
 生徒は4人一組で、チームワークを作り、オリエンテーリング技術を駆使し、野外で食料の調達などを行いながら目標を目指すことになっているらしい。しかし、4人を引率してきた臨時教員のカーライルは、ろくな説明もせずに4人を放り出して、キャンプ地を探してくるように命じたまま車でさってしまう。
 一帯は本当に何もない延々と丘陵がつづく寒々しい土地だ。しかも、これまでも多くの旅行者が行方不明になっている場所らしい。しかし、遠足気分のバカ3人組は、イアンの心配をよそに早くもマリファナを取り出して手近な紙で巻いて吸い始める。ところが、その紙はイアンが用意してきた唯一の地図の重要部分だったので、すぐにも路頭に迷うことに・・。
 しかも、幻想か誠か、4人が歩き出してから、狩猟のファッションで猟銃を持って狙っている男がいるではないか?都会からきた4人は、疑いもせずに方角を聞こうと男に声かけるが、その男は4人に発砲してきた。この土地に侵入する「あまりに無礼で恩知らずな、今時の若者たちは、間引いておかなければならんからな」と言いながらハンティングの標的にされたのだ。
 ダンカンたちは、「奴はデューク(エディンバラ公)に違いない!最初から、俺たちをハンティングするために、こんな賞を作ったんだろう!」という考えに思い当たる。そして話はどんどんおかしな方向へ転がり始める・・。

 構成としては、平和すぎるはずのど田舎には、とんでもない住民がいたりするという、サイモン・ペグの『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』タイプの構造。都会から来たしょうもない高校生が、話の通じない過疎地のハイランドで恐怖体験をするブラック・コメディである。
 日本人には、ウィスキーの産地名としてしか馴染みがないスコットランド北半分くらいにあたるハイランドと呼ばれる土地は、人口密度がスウェーデン、ノルウェー、パプアニューギニア、アルゼンチンよりも低くくて、ヨーロッパ1の過疎地帯なのだ。そもそもこの地域はゲール文化圏であり、言葉も違えば宗教も違うのでイングランドから見たら、とんでもない田舎で、ある意味異質な感じだろう。都会から来た風な警察の本部長が、「ここでは何もおこならないの!」と断言するのも無理からぬ土地だ。
 そこで事件は起こる。実はずーっと起こって来たのだが、誰も気づいていないというのも、ありそうで恐ろしい。
 高校生たちは、優等生風のイアンを除いて一見すごく悪そうだが、そんなに大したことはない。「一生父親の工場で、缶に魚を入れるだけだから」大学へ行くわけないと労働者階級を丸出しにするディーンは、要するに親は工場主なのだろう。ウィルアムという本名を絶対知られたくないDJビートルートは、インド系らしく、やたらに「ストリート流だ!」と連呼するが、ディーンに「お前の家は蔦が絡まっていて、場末ではビビってバスから絶対降りない」と暴露される。ちょっと足りないダンカンは、見た目が完全にパンクかネオナチだが、いつも損な役を押し付けられるくらい人が好い。逆に優等生すぎる言動でクラスから浮いているに違いないイアンとも、最後には仲良くなって心を通わせる感じは、微笑ましい。

 監督したのは、PVなどを監督して来たニニアン・ドフ。映画ではこの作品が初監督作となる。デュークを演じたコメディアンのエディー・イザード、教師のカーライルを演じたジョナサン・アリス(『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』)などを除いて、主演の若い4人も無名の他の役者も有名な人はいない。コメディ自体は、驚くようなできではないが、そのぶん新鮮な芝居で楽しめる。
 当初は、<The Boyz in the Wood>というタイトルで、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭でプレミア上映されたが、その後アマゾン・スタジオに購入され題名が『ゲット・デュークト!』に変更された。
 ま、若者用語的に動詞になったんだろうけど、「公爵っちまもうぜ!」って訳すのか??
 当然のことながら、この映画と実在のエディンバラ公フィリップ王配はなんら関係がない。しかし、フィリップはその長い人生において、軽口だとしても人種/女性/文化に対して膨大な差別発言を残したことで知られている人物だ。ひどいのになると、「生まれ変わったら、死のウイルスになって人口問題を解決させたい」(自著の序文に書いた1987年)なんものまであるから、イギリス人にとってこの人物が概ね人種差別主義者であることは公然の事実なのだろう。また一方で環境問題、自然保護に対しては非常な熱意がある人物なのも有名だ。
 そんな背景を知った上で、この映画に出てくる狂った田舎のデュークのキャラを重ねると、より笑える映画である。

by 寅松