海外ドラマ

ユートピア 〜悪のウイルス〜

コミック・オタクの悪夢を描いたのに、コロナ蔓延とワクチンの恐怖を予告してしまった問題作!

Utopia
2020年 アメリカ カラー4K 44~55分 全8話 Endemol Shine North America/Kudos Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:ギリアン・フリン 原作:デニス・ケリー(2013年英国Ch4版) 監督:トビー・ヘインズ、スザンナ・フォーゲル ほか
出演:ジョン・キューザック、サッシャ・レイン、アシュレイ・ラスロップ、ジェシカ・ローテ、ダン・バード、レイン・ウィルソン、デスミン・ボルヘス、ジェフォン・ワナ・ウォルトン、ファラ・マッケンジー ほか

 そもそも、これはこんな運命のドラマだったのか!?英国のチャンネル4が2013年に放映した、オリジナル版の「ユートピア」は若者向けのオフビートなブラック・コメディであった。カルト・コミック(正確に言えば「グラフィック・ノベル」だろうが)の信奉者である若者たちが、そのウルトラ・レアもののコミックの内容とリンクした日常に巻き込めれてゆくストーリーだ。このドラマに目をつけたのが、映画監督のデヴィッド・フィンチャー。HBOと組んでアメリカ版リメイクを作る予定だったらしいが、あまりに金がかかりすぎるということで話は立ち消えに。フィンチャーがこの時点で脚本に指名していたのが、フィンチャー作品の『ゴーン・ガール』の原作者で脚本も手がけたギリアン・フリンである。
 フィンチャー・バージョンが立ち消えになったのち、企画を引き取ったフリン自らがクリエイター/ショーランナーとして、アマゾンと契約して実現したのが、今回のアマゾン・オリジナル「ユートピア 〜悪のウイルス〜」である。
 と、いうことで大変ヤバイ作品になってまずぜ!お客さん。
 そもそも、ギリアン・フリンという女はやばい女である。『ゴーン・ガール』、その前の処女作でHBOでドラマ化された「シャープ・オブジェクト KIZUー傷ー」。この人の作品は、どれも、ごくごく普通に見える凡庸なアメリカ人の、心の底にある恐ろしいものを引きずり出してしまうようなドラマだ。そんな人が、なんで挑んだのかは知らないが、最初からブラック感丸出しの、ダークSFに関わろうというのだから始末が悪い。

2013年英国オリジナル版トレーラー

 アメリカ版は、表現がド派手なだけでなく、全員歪んだ登場人物なのにその背景が、見る方によく伝わるという意味で、かなり気持ちの悪いドラマになっているのだ。
 しかも、もっとやばいことに、今現在世界が直面する巨大な恐怖であるパンデミックと見事に被った作品に仕上げてしまった。
 まるで現在を予見したような、変異したウィルスの蔓延の描写はまだしも、それに続くワクチンに関する陰謀が実にやばい。
 少し前から、ワクチン全体に関わる陰謀論は世界で繰り返し語られていて、ビル・ゲイツが設立した財団が、ワクチン配布を通じて第三世界の人口削減を企てているという、まことしやかな陰謀説はなかなか消えることなく語り継がれている。先日もファイザー/ビオンテックやモデルナが採用している(遺伝情報のみを使用した)mRNA技術などを、陰謀として指摘した医師と言われる人物のYoutube映像が拡散して話題となった。(もちろん陰謀論には裏付けはないが、これらの技術がこれまで実用された実績がないこと自体は事実でもある。)
 ということで、このドラマの冒頭には「この作品はフィクションです!現実のパンデミックやそれに伴う出来事とはなんの関連性もありません・・」といった 注意書きを出す羽目になっている。

 1回目の出だしだけは、なんだかオタクドラマなのかー?と安心させる間抜けな雰囲気で和める。ネット上でしか話したことのないオタクたちが、伝説のグラフィック・ノベルの「ディストピア」の続編である「ユートピア」が発見されたことに狂喜して、その原本がオークションにかけられるというコミック・コンヴェンションに出かけてゆく。そこで初めてリアルに顔を合わせるオタクたち。コミックの隅々に、大きな陰謀のヒントを見つけている美人のサマンサ(ローテ)、ネット小説を書いてはいるが、現実には保険のネット販売オペレータをしているイアン(バード)、すでに伝染病に侵されて医師に余命宣告をされているベッキー(ラスロップ)、そして環境破壊と政府の管理に怯えてシェルターを準備するプレッパーであるウィルソン・ウィルソン(ボルヘス)は、とにもかくにも予想通りの初顔合わせに楽しく飲み明かす。金持ちを自称しているグラントだけは、遅れてまだ現れていない。
 しかし翌日、大金を出して「ユートピア」を競り落とした金持ちを始め、セリに参加してユートピアを一目でも見たマニアたちが全員ホテルで惨殺されるという事態になり話は暗転する。4人のオタクたちだけは、市内にあるウィルソン・ウィルソンの自宅兼シェルターにいたために、少し遅れて襲われるのだが、彼らを救った凶暴な女戦士のような人物は、自分はジェシカ・ハイドと名乗ったのだ。ジェシカは、皆が崇拝する当の「ユートピア」の主人公の名前だった・・。

 2回目以降は加速度的にバイオレントで、悪夢のようなストーリーになってゆくが、それでもそれぞれの人物描写は、さすがにフリンである。特に、普通なら不条理な人物として描かれるであろう、ジョン・キューザックの演じた悪の権化、クリスティーや、その息子で部下のトーマス(コーリー・マイケル・スミス)。大人になれない殺人者アービー(クリストファー・デナムが好演している)や、クリスティーの捨て駒のはずが、意志を持ち始めるリリー(ヘイリー・ロビンソン)、その父親役でしかなかったディール(ティム・ホッパー)が動揺してゆく描写なども素晴らしい。レイン・ウィルソン演じる、頑固な2流細菌学者スターンも好感が持てる。
 オリジナル英国版に登場する「ユートピア」の絵は、グラフィック・ノベル風の荒い画風のイラストだったが、アマゾン版ではかなり精緻なファンタジーイラストになっている。実際に描いたのは、サンパウロ在住のブラジル人アーティスト、ジョアン・ホエス<João Ruas>で、この絵も日本人好みだろう。
 音楽の選び方も、なかなかシャープである。

 最後は、なんとか大きな危機は回避されたものの、全員がそれぞれ窮地かあら脱出はできないエンディングで、明らかにシーズン2がないと困るストーリー。元のイギリス版はシーズン2まで放映されたので、こちらも一応想定されているはずですが、はたして色々お騒がせすぎなので、実現できるのか!?いや、作ってほしいですがー。

by 寅松

日本語版