オンランシネマ

特捜部Q Pからのメッセージ

エホバの証人信者の子供ばかりが狙われる誘拐事件の身も凍る真相に、資料整理係「Q課」の2人が挑む!

Flaskepost fra P (英題:A Conspiracy of Faith)
2016年 デンマーク、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー 112分 Zentropa WOWOW /洋画専門チャンネル ザ・シネマで放映 Amazon Primeで視聴可能
監督:ハンス・ペテル・モランド 脚本:ニコライ・アーセル 原作:ユッシ・エーズラ・オールスン
出演:ニコライ・リー・コス、ファレス・ファレス、ポール・スヴェーレ・ハーゲン、ヤコボ・ローマン、ヨハンヌ・ルイーズ・シュミット、アマンダ・コリン、オリヴィア・テルペ・ガメルゴーほか

 ニコライ・リー・コス主演のデンマークのダークサスペンス・シリーズ。人気作家ユッシ・エーズラ・オールスン原作を、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」のニコライ・アーセルが脚本化していくスキームは変わらずだ。本作は最高傑作と言われているらしいが、どうも絵の質が全然ちがう。構図もアーティスティックだし、風景の美しさと物悲しさも素晴らしい。おかしいなあ?それにどーも話の展開も、完全に映画的で格調高いよ。先の2作品は、まあ楽しめたけど正直映画というには無理があるTVドラマレベルの作品でしたが・・・、これはぜんぜん違う感じが。
 そうです、原作も脚本も出演者も同じレベルなのに、監督が代わっているのでした!あれ、ハンス・ペテル・モランド?おー!納得!そりゃ素晴らしいわけだ。
 ノルウェー人監督ハンス・ペテル・モランドは、特にスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドとのコンビでよく知られていますが、2014年の『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』でブレイク!同作品をリアーム・ニーソン主演でハリウッドがリメイクした『スノー・ロワイヤル』でも監督に抜擢されて話題になりましたな。  淡々とした説明過多でない、映画的な省略の巧い監督です。

 物語は、海岸で泳いでいた退役軍人が拾った、プラボトルに入っていた助けを求める手紙から始まりますが、一方でデンマークの場所によっては信者が多いらしい、キリスト教系カルト、エホバの証人家族の生活が淡々と描かれます。そして、家族の姉と弟の兄弟が、エホバの牧師を名乗る男に連れ去られる事件も発生が起こってしまいますが・・・。
 8年もの月日のために、半分以上が消えてすでに読めない手紙が回されたのは、予想通り警察の資料整理係Q 。精神的ダメージを受けて、自宅でボロボロになっている刑事カール(コス)が出署を拒否しているのも相変わらず。
 しかし、この事件を重要と判断した相棒アサド(ファレス)は、カールの自宅を訪ねて本人を引っ張り出して捜査に参加させる。最初は、本当に事件があったのかさえ疑わしかった誘拐事件は、手紙を投函した兄と一緒に誘拐されていた弟が生きていたことにより、にわかに連続誘拐殺人事件であることが判明。しかも、子供を誘拐された両親が、警察を信用せず名乗り出ない特殊な宗派、エホバの証人の家族を狙ったものであることがわかってくるのだ。

 テキサス生まれのアメリカ人、チャールズ・テイズ・ラッセルという男が設立した新興宗教「エホバの証人」は、輸血を拒否することで有名ですが、現代社会と相容れない戒律も多く、しばしば子供を虐待していると非難されることも多いカルト宗教。世界中に熱心に布教していることでも知られ、日本でも年中戸別訪問をしていますが、デンマークにも信者が多いようですね。誘拐殺人犯となるヨハネス(ハーゲン)も、姉とともに狂信的な母親に虐待されて、方向性が驚くほどに捻じ曲がってしまっているのが印象的です。
 そもそもメンタルは弱いが、神を信じないカールと、基本的にはイスラム教を信じているアサドの宗教に関する会話なども織り込まれ、描きすぎないけれど、背景にあるものを想像させる監督モランドの手法は健在。
 もちろんこれはシリーズのエンタメ作であるので、ドローンなどをふんだんに投入して、派手な映像でバランスをとることも忘れない。海上に並んだ巨大な風車発電機の麓で繰り広げられる死闘。その殺伐とした光景は、北欧ダークミステリーらしさ爆発である。
 今回もやっぱり頼りになるのはアサドの方で、カールは人質になる始末。
 ま、一つだけいい仕事をしたので許してやろう。

by 寅松
 

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