海外ドラマ

ボーン・トゥ・キル 僕が人を殺すとき

生まれながらの殺人者というのは存在するか?いや、普通にいるよ・・っていうドラマ

Born to Kill
2017年 イギリス カラーHD 60分 全4話 Channel 4/BBC Worldwide Aamzon Prime、Hulu、FOD(フジテレビ・オンデマンド)で視聴可能
クリエイター:トレーシー・マローン、ケイト・アシュフィールド 監督:ブルース・グッディソン
出演:ジャック・ローワン、ロモーラ・ガライ、ダニエル・メイズ、ララ・ピーク、リチャード・コイルほか

 恐っろしいドラマである。救いがない!ミステリーではあるけど、最初からこんなに嫌な予感しかしなくて、そのまま予感が的中するドラマも珍しい。「ボーン・トゥ・キル」などと聞くと、日本人はいかにもアメリカ的な乾いた無軌道ぶりを想像してしうまうが、まったくそういうイメージとはかけ離れたドラマ。なんせ半分はイギリスの地方の高校生ものと言ってもいい。
 同じ地方でも「ゴールドディガー」や「ウェイステッド」に出てくる南西イングランドの豊かで美しい田園風景とは懸け離れた、地方のうらぶれた町の貧しい地域の風景の中、労働者階級の子供とシングルマザー、ファーザーの実情がリアルに描かれてゆく。撮影自体も、ウェールズの首都カーディフ近郊で行われたようだ。世界ではBBCが配給しているが、制作して本国で放送したのはチャンネル4で、どうしても綺麗な英国を見せる傾向のあるBBCとは一線を画すリアル感を押し出した映像だ。
 反社会性人格障害は遺伝するのか?ということがモロにテーマになっている。
 主人公のサム(ローワン)は16歳の一見、普通の高校生。父親のことをたずねられると「アフガニスタンに従軍して、幼い子供と親を助けるために死んだ」と悲しそうに答えるが、実は毎日自分の部屋で自らをスマホで撮影し、もっともらしい嘘がつけるように練習を繰り返している。そのあたりで十分気持ちが悪い。
 サムの母親のジェニー(ガライ)は、若くてなかなか美人の看護婦さん。女手一つで息子を育てているが、息子との密着した関係は、なんだか不気味ですらある。
 実は、ジェニーには息子に伝えていない大きな秘密があった。4歳の時に死んだということにしてあったサムの実父ピーター(コイル)は殺人罪で服役中で、間も無く釈放される可能性があると、通知されてきたのだ。ピーターは凶暴な異常人格者で、釈放されればジェニーとサムの命を脅かすのは間違いない。しかし、ジェニーは16歳になった愛する息子に、父親の人格の鱗片を見つけて、嫌な予感に苛まれている。
 一方、サムは学校に転校してきた、パンクでねじけた転校生クリスティー(ピーク)に興味を抱いてちょっかいを出す。母を亡くして反抗期のクリスティーは、優しいがダメな父親ビル(メイズ)と一緒に入院した祖母を介護するために、祖母の家に引っ越してきたようだ。その祖母が入院しているのは、ジェニーが勤める病院で、そこでビルとジェニーと知り合うことになる。
 少しづつ、父親譲りの凶悪な人格を表してゆくサムは、ふとしたことから父親が生きていることを知り、父親に対する思いを爆発させるのだが・・・。
 当時19歳ぐらいだった、ジャック・ローワンの演技が素晴らしく気色悪い。ローワンは、子供の時代からアマチュア・ボクサーとして活躍していたそうで、目つきの悪さはそのせいだろうか?
 いかにも労働者階級パンクス系の女子といった風情のララ・ピークが演じるクリスティーとローワン演じるサムのデートシーンでは、キュアーが流れていたりして、まさにぴったりである。
 ジェーン・オースティンの『エマ』をドラマ化したBBCの「エマ 恋するキューピッド」や、映画『アメイジング・グレイス』などで知られる、母親のロモーラ・ガライも、美人さんなのにくたびれた感じがよく出ている。クリスティーの父親ピーターを演じるのは、ドラマ「テンプル駅地下診療所のDr.ミルトン」や、映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』など、今や引っ張りだこのダニエル・メイズ。「いい人感」がにじみ出てしまうところが、このひとのならではである。
 このドラマで知られるようになった、トレーシー・マローンと女優としても知られるケイト・アシュフィールドが担当した脚本は、細部まで落としがなく良くできている。サムが飛び込みの選手をしていいて、プールの中で繰りかすかな記憶のイメージが湧いてくるところも、後で効いてくるとは!
 そして、最後の最後で、こーゆーことになる!衝撃の結末です。
 うーん、なるほど、確かに・・・そうなるんですねー。かといって、すごく救われるわけでもないですが。

by 寅松