海外ドラマ

アンデッド

ジョン・シムのアメリカ進出がこれで絶たれた?人間の転生を管理する秘密結社も、あまりの酷さに二度と生まれ変われなかったのだあ!

Intruders
2014年 アメリカ/イギリス カラーHD 45分 全8話 BBC Worldwide / BBC America Amazon Primeで視聴可能
クリエイター: グレン・モーガン 原作:マイケル・マーシャル・スミス 監督:エドゥアルド・サンチェス、ダニエル・スタム
出演:ジョン・シム、ミラ・ソルヴィーノ、ミリー・ボビー・ブラウン、ジェームズ・フレイン、ロバート・フォスター、トリー・キトルズ、アレックス・ディアカンほか

 ドラマは、2014年のものだが、最近Amazon Primeで視聴が可能になった。しかし、まずタイトルがひどい。そもそも原題の<Intruders>(侵入者)も<Intruder>という映画など、類似のタイトルが多いのだが、それでも原作小説がこの題名なので致し方のない部分はあるだろう。然るに、この紛らわしい原題のドラマに、なぜわざわざ「アンデッド」という無関係のカタカナ題(そもそも意味も違う)をつける必要があったのだろうか?「アンデッド」は、まさに同名の映画などもあり、二重にややこしいくなるだけなのだ。
 本作は、BBCワールドワイドが、おそらく「ライフ・オン・マーズ」で人気の高まったジョン・シムのアメリカ進出作という位置付けて考えていたと思われる企画。ものの見事に、滑り倒したが・・・。
 アマゾンの解説にも先入観からか、ジョン・シムが演じたジャック・ウィーランを「ロンドン警視庁の元刑事」と記しているが、「ロス市警の元刑事」の間違いである。設定から、シムはアメリカ人として登場するし、それなりに発音を直してアメリカ英語にしているので気合いは入っているのだ!主な舞台は、ワシントン州シアトルで、その他もすべてアメリカである。
 ジャックの奥さん役で問題の中心となるエイミー役にミラ・ソルヴィーノ。クリエイターには「Xファイル」の脚本/プロデュースで知られるグレン・モーガン。そして、監督には「ブレア・ウィッチ」シリーズのエドゥアルド・サンチェスと、「ラスト・エクソシズム」のダニエル・スタムという、悪い予感しないしかしない顔ぶれが迎え撃つ。で、思った通りの混乱になってしまいました!
 基本は、人間の転生(リーインカーネーション)をめぐる話。現在の人間の体内に、転生した以前の人格を覚醒させる秘伝を継承し続けている秘密結社の存在と、その結社の内紛が物語の中核になる。
 ジョン・シムの演じるジャックは、元刑事で、(おそらくは)現役時代の不当な発砲が問題になり現在は作家に転職。美しい弁護士の妻とワシントン州の郊外で優雅に暮らしている。しかし、シアトルに出かけてくると言い残した妻は、行方不明になり自分の所属事務所にも出社はしていない。そんなところに、シカゴの弁護士で、高校時代の友人ゲーリー・フィッシャー(キトルズ)が突然訪ねてきて、曖昧な表現でジャックの妻エイミーも怪しい組織に関わっているので一緒に捜査して欲しいと申し出る。なんだかわけがわからない。ジャックは、エイミーを探しにシアトルに行くが・・・。
 このストーリーでも、おそらくホラーらしい恐怖感を感じさせる構成と脚本はありえたと思わずにはいられない。自分の中に別人格が起き上がる恐怖を、転生者の宿主本人の側から描くとか、周りの人にとって今まで知っていた人が別人になってしまう恐ろしさを、人間関係の背景を丹念に描くことで表現するとか、いくらでもやり方はあるはずだ。しかし、この脚本家と監督チームは、人を驚かせるシークエンスや思わせぶりで無意味な映像の繰り返しで、そのチャンスを見事なまでに潰してしまった。
 パッチワークのように複雑な話にして、徐々に全体の構造が分かるようにしたかったのは理解できるが、技術的にも稚拙である。まず、それぞれのキャラクターがちゃんと描かれない。ジャック・ウィーランは犯人を撃ったらしい過去のシーンだけは繰り返されるのだが、人格がまったく不明。そもそも作家という設定など、必然性もゼロだろう。短気でウィスキーをラッパ飲みするところに、ジョン・シムらしさが出ているだけだ。
 妻のエイミー(ソルヴィーノ)も、もっとひどい。エイミーは、のっけからよく分からない人格で、乗っ取られた別人格になってしまっている。ジャックの台詞では「昔は違った」などと説明されるが、ミラ・ソルヴィーノ自体がそのキャラクターの演じ分けができていない。
 英国のファンタジー作家、マイケル・マーシャル・スミスの原作があり、ひょっとすると壮大な物語なので、シーズン1で明かされるのはほんの一部という構成だったのかもしれないが、8話も見せられてこの説明力はひどいし、シーズン2もキャンセルされているので散々だ。
 さらに構成も呆れる。物語の中の問題のほとんどを引き起こしているのが、その秘密組織<Qui Reverti>(クウィ・レヴェルティ:ラテン語で概ね「我、蘇りし」みたいな意味だと思います・・。ちなみにアマゾン解説の「クワイガン・レヴァーティ」という表記は???)のしもべの実働部隊として働く男、ロバートの躊躇や裏切りによるものみたいに見える。その言い訳的な部分として、この男のプライベートや意図が少し明かされはするのだが、まったくピンとこない。
 その上、この秘密組織の内容や、途中殺されてゆく人たちの関わりは、結局のところ友人であるゲイリーが全部ジャックに説明する。ゲイリーは実は色々調べていたということらしいが、なんで最初から喋らないで、ずぶんたってからおもむろに喋り出すのだ。最初から全部説明しても、何も問題ないように見える。その上、この男も自殺する理由はあんまりないのに自殺してしまう。
 大きな部分を占めていた、ワシントン大学の音響学者が完成させた「降霊機」(ゴーシトマシン)に至っては、話だけで実物もでてこない。あの話はなんだった?

 ということでまったくの失敗作だが、見だしたら、思わせぶりなエピソード乱発で、理解不能の展開なので一気に見られのは確か。見所があるとすれば、撮影時、実際に9歳だった、ミリー・ボビー・ブラウンの演技だ!これはすごい!極悪の連続殺人犯が転生してしまう、9歳の女の子の役だが、時折見せる意地悪そうな「おばさん顔」はエグい。この人の悪さも全て極悪殺人鬼がやらせていたのか・・と納得していると、最後にけっこう地だったことが判明するというおまけ付き。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(今年公開予定『ゴジラVSコング』にも出ている)にも出演していたが、本物の映画女優である。

by 寅松