海外ドラマ

インスティンクト -異常犯罪捜査- シーズン1

とりえは都会らしさ!とはいえ、打ち切りもやむなしのゆるーいミステリー!

Instinct Season1
2018年 アメリカ カラーHD 44分 全13話 CBS TV スーパー!ドラマTVにて放映 Amazon Primeで視聴可能
クリエイター: マイケル・ローチ 原作:ジェームズ・パターソン & ハワード・ローワン 監督:マーク・ウェッブほか
出演:アラン・カミング、ボヤナ・ノヴァコヴィッチ、ダニエル・イングス、ナヴィーン・アンドリュース、シャロン・リール、ウーピー・ゴールドバーグほか

 驚いたことに原作がある。「ナッシュヴィルの殺し屋」などで知られるアメリカの超ベストセラー作家、ジェームズ・パターソンの<Murder Games>を原案としているらしいが、まずはこの作家が実にくだらない。映画やドラマに登場する、「内容のない本を乱発する大金持ちの作家」の実在版である。
 その原作を元に、「ビューティフル・ピープル 〜ニューヨークの天使たち」や「ロイヤル・ペインズ ー救命医ハンクー」を手がけてきた、マイケル・ローチがクリエイター/プロデューサーとして主導。今や貴重な地上波ドラマとしてCBSで制作された。無数のPVや「アメイジング・スパイダーマン」や「gifted/ギフテッド」で知られるマーク・ウェッブが1作目を監督。しかし、ディレクターはほぼ1作づつ違う(ダグラス・アーニオコスキー/「クリミナルマインド」ほか、が3作監督)
 頼みは出演者?グッド・ワイフのアラン・カミングを主演に、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』、「シェイムレス 俺たちに恥はない」(シーズン5)などに出ていた、セルビア系オーストラリア人女優、ボヤナ・ノヴァコヴィッチと、Netflixの「恋愛後遺症」などのダニエル・イングス、「ロスト」のナヴィーン・アンドリュースらで固めて、ウーピー・ゴールドバーグまで時折出演する。ディランの父や役で、ちょっとだけ登場するのは「アフェアー」でまさにパターソンのような金持ちの流行作家でヘレンの父親ブルースを演じていたジョン・ドーモン。(年齢的アラン・カミングの父親って・・けっこうギリ?)
 役者の実力は十分だろうが、いかんせん脚本もストーリーも残念だ。
 犯罪精神病理学の教授で、元CIAエージェントであるディラン・ラインハート(カミング)。彼の書作をヒントに起こされた事件への協力を求めに来たニューヨーク市警の美人刑事リジー(ノヴァコヴィッチ)。二人が、最初の事件以降もタッグを組んで次々起こる事件を解決してゆくというストーリー。コメディー・タッチとはいえ、フレーム自体がゆるすぎる。リジーが、相棒であった元恋人の死後、ほかの相棒と組むのを拒否して一人で捜査してたり、民間人をオブザーバーの形でリジーの相棒にすることを警察が簡単に認めてしまったり(いくら上司の副所長が親友だとしても)リアリティーはかけらもない。
 事件の方も、都会の事件らしく一見センセーションだが、どれここれも根の深い犯罪はなし。ま、コメディだからそこはともかくとしても、解決方法も適当。なんといっても切り札はインスティンクト(直感)だから仕方がないが、大学教授で元CIAエージェントのはずのディランは、単におしゃべりなだけで大して倫理的な推理はしない。結局なんでも元同僚のフリーの調査人、ジュリアンに頼んで秘密情報をハッキングしてもらうのがパターンだ。
 主眼が事件とは言い難いが、このドラマは、ニューヨーカーならではの人間模様を描くことも意図してはいるらしい。主人公のディランは、ゲイであることをオープンにしていて(カミング自身もバイセクシュアルであることを公表している)、元弁護士で、夢であったバーをマンハッタンで経営している、恋人のアンディと家庭を持っている。けっこうこの二人のゲイ家庭が描かれるところは、地上波としては珍しいだろう。
 リジーの方は、アルコールに問題のある家族をもつ生い立ちから、非常に生真面目に生きてきた融通の利かない警官。恋人を囮捜査の最中に死なせて以来、ほかの警官と組むことを拒否していて、心を閉ざしている。相棒となるディランは、ゲイらしく彼女のプライベートもそれなりに気にかけていいる・・・。にしてもだ、かなり後の方の回想シーンで、その死んだ恋人が出てくるのだが、まったくダサくて到底リジーがいつまでも思い続けている相手には思えない。もちろん、出演が回想シーンで短いために、手を抜かれたのだろうが物語的には致命的だ。
 しかし、取り柄はある。いかにもニューヨークらしいロケーションと雰囲気。NBCの「MANIFEST/マニフェスト」のように、舞台はニューヨークでも風景がカナダだっったり、出演者がニュージャージーはおろかどう見てもペンシルバニアより田舎の人しか出ていないんじゃないか!?というような問題はない。ニューヨークの風景も違和感はないし、登場人物もいかにもニューヨーカーらしい人格を備えている。
 いまとなっては(執筆時点2020.04では、ニューヨーク州は新型コロナ・ウィルスへの対応として完全ロックアウトされている)すでに失われた懐かしいニューヨークの姿とでもいうしかないだろう。在りし日のニューヨークの雰囲気を味わいたい方には、なかなかお勧めできるかも。
 シーズン2は早めに発表されたが、視聴率が失墜したらしくシーズン3はキャンセルされた。

by 寅松