海外ドラマ

ローマ警察殺人課 アウレリオ・ゼン 3つの事件

全面英国スタッフによる、イタリア物よりイタリアが楽しめるローマご当地刑事ドラマ

Zen
2011年 イギリス、ドイツ、イタリア カラーHD 90分 全3話 Left Bank Pictures BBC One Amazon Prime / Huluで視聴可能
脚本:サイモン・バーク、ピーター・ベリー 原作:マイケル・ディブディン 監督:ジョン・アレキサンダー、クリストファー・マニュアル、ジョン・ジョーンズ 音楽:エイドリアン・ジョンストン
出演:ルーファス・シーウェル、カテリーナ・ムリーノ、ベン・マイルズ、カトリーヌ・スパーク、スタンリー・タウンゼント、ヴィンセント・リオッタほか

 イギリス人作家マイケル・ディブディンによる、ローマ警察の警部、アウレリオ・ゼンを主人公としたシリーズから、最初の3作をドラマ化したもの。2011年公開の旧作だが、最近Aamzon Primeでは(会員)無料視聴ができるようになった。Huluでも見られるようだ。
 ゴールドダガー賞を受賞した<Ratking>「欲望の渦」のほか、<Vendetta>「愛憎と陰謀」、<Cabal>「血の復讐」が、作品の発表順とはちがい<Ratking>が最後に来るようにシリーズ化されている。シリーズとは言っても、1作品90分でほぼ映画3本分の連作と思って間違いない。
 製作は、「刑事ヴァランダー」「主任警部アラン・バンクス」「アウトランダー」のレフトバンク・ピクチャーズで、主演は「高い城の男」や「マーベラス・ミセス・メイゼル」などでも知られるルーファス・シーウェル。監督は3作とも違う。ローマ警察が舞台なのでスタッフも俳優(2大女優以外)もほぼイギリス人なのに、全面ローマロケを敢行。イタリア人が撮るよりも、観光目線で美しいローマが描かれていて、その辺はなかなか面白い。出演者が喋る言葉は全て英語なのに、街で聞かれるエキストラはイタリア語であるという矛盾もあるが、まあ日本人にとってどの程度気になるかと言われれば、それほどでもないのかもしれない。
 物語は、ローマ警察に勤務するアウレリオ・ゼンが難事件に当たる姿を描く。基本的な構造は、結果を出せとうるさい上司と、なぜかゼンを見込んで政治的に有利な方向で事件を解決するように圧力をかけてくる内務大臣の板挟みになり、そこに、野心満々の美人女性検事ピルロのアプローチやら、情熱的美人人妻との不倫が入り込んで、その片手間に複雑な事件の真相を解決しようとするゼンの活躍が描かれる。
 ベネチア生まれのゼンは、ローマ警察の中では異色の高潔な人物(まあ、正直汚職などは気にもしないローマ人から見たら、律儀なところのあるベネチア人自体が変人と言えるのだろう。一方、ドラマの中でも出てくるが、一般的ベネチア人はローマ以南のイタリアのことを「ほぼアフリカ」と呼んでバカにしている。このようなイタリア的文化がドラマの背景となっている)と言われているが、アングロ・サクソン的高潔さとは程遠く、あらゆることに個人的なコネは利用するし、人妻に手は出す。もちろん、相手を陥れるためにはギミックも厭わない。
 しかし、持ってきた身代金は自分の懐に入れるのではなく、アフリカの孤児を保護している修道会に置き去りにしたり、不幸な暗殺者は追及されないように手を打ったりと、カソリック的な帳尻合わせは忘れない。その辺が、通常の米英のミステリー・ドラマではみられない特別な魅力といえるだろう。
 窮地に追い込まれても、さほど慌てずに、様々なコネやブラフで見事に切り抜けるゼン役のシーウェルはなかなかのカッコよさ!イタリア男はまあ大抵そうなのだが、ゼンもその例に漏れずマモーニ(マザコン男)で、浮気をした妻と別居してママと同居中、そのママは60年代のアイドルであった、カトリーヌ・スパークが演じている。お色気担当の、署に配属された美人人妻役は、なんといってもカジノロワイヤル(2006)のボンドガール、イタリア人女優のカテリーナ・ムリーノだ。
 しかし、このドラマの最大の魅力は、オープニングや随所にみられる60年代末から70年代にかけてのイタリア映画へのオマージュ的演出。ドラマは現代の話だが、しゃれた雰囲気は、この時代のイタリアそのものなのだ。おそらく、イギリス人にとっても、イタリア映画のイメージはその辺で止まっているとことなのだろう。
 まずは、イタリア人かと思わせるエイドリアン・ジョンストンのサウンドトラックのカッコよさ!元ウォーター・ボーイズやマイク・フラワーズ・ポップスでドラムを叩いていたジョンストンのレトロなおしゃれなスコアは、王立テレビ協会のRTSアワードを受賞している。オープニングタイトルも、アフター・エフェクトの加工満載のよく見かけるやつではなく、昔フィルムで行われた画面分割風のアニメーションで、ぐっとくる。
 ご覧になるときは、ぜひ、この辺も楽しんでいただきたい。

by 寅松