海外ドラマ

テンプル駅地下診療所のDr.ミルトン

マーク・ストロングが、大真面目な外科医なのに暴走しまくる、外科医版ブレイキング・バッド!

Temple
2019年 イギリス カラーHD 60分 全8話 SkyOne AXNミステリーで放映
クリエイター:マーク・オロウ 監督:ルーク・スネリン、シャリフ・コルヴァー、リザ・シウ
出演:マーク・ストロング、ダニエル・メイズ、カリス・ファン・ハウテン、キャサリン・マコーミック、リリー・ニューマーク、ウンミ・モサク、クレイグ・パーキンソンほか

 エリック・リクター・ストランドの手になる<Valkyrien>は、ブレイキング・バッド的な要素と医療ドラマを結合させて2017年に大ヒットになったノルウェー・ドラマ。本作は、その英国版のリメイク作だ。エグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねている、主演のマーク・ストロング自身が、このドラマを見て権利取得に動いたというくらいだから、その演技も非常に意欲があふれている。
 ロケーションが面白い。ロンドンの地下鉄駅の地下に広がる廃駅舎に開設された正規のルートで医療を受けられない患者のための非合法診療所。そこに、銀行強盗の最中に金だけを車に積み、仲間をおいて逃げ出したジェレミーが警官に撃たれて転がりこんでくる・・・。
 ダニエル・ミルトン(ストロング)は、英国手術医協会賞を受賞するほどすぐれた天才的な外科医だが、難病に侵された妻ベス(キャサリン・マコーミック)を、秘密裏に彼女自身が開発した新薬で治療中、昏睡状態に陥らせてしまう。妻は、その時は諦めるように言い残していたが、どうしても彼は妻の治療を諦められない。
 一方、交通事故の後にダニエルに助けられた、リー(ダニエル・メイズ)は土木管理局の技術者で街の地下施設などを管理する立場にある。世界の終焉を信じ、その終末の日に向けて準備をすることを信条とする「プレッパー」を自称しているリーは、あるとき偶然に見つけた地下鉄の廃棄施設を、きたるべき日に向けてシェルターにしようと真剣に考えていた。
 この2人の出会いと、その利害が一致して診療所が開かれるまでは、徐々に回想で明らかにされてゆく。常に冷静で沈着な判断をしながらも、妻の死を回避しようと暴走することになるダニエル。本来は寛容だが、カッとなりやすい性格でどんどん追い詰められてゆくリー。それを取り巻くジェレミーや、ベスの元同僚で、ダニエルと不倫をしていたことから、診療所に協力させられる羽目になるアナ・ウィレムズ(カリス・ファン・ハウテン)、ダニエルとベスの、ちょっと変わった娘エヴァ(リリー・ニューマーク)、そしてジェレミーを見つけて金を奪おうと考える、ジェレミーの強盗仲間の母親マーシー(ウンミ・モサク)とそのボーイフレンド、キース(クレイグ・パーキンソン)らが入り乱れて、最後まで展開は予断を許さない。

 マーク・ストロングは、もちろん「キック・アス」、「裏切りのサーカス」、「ゼロ・ダーク・サーティ」、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」、「シャザム!」など多くの出演作を持つ、英国を代表する映画俳優だ。しかし圧倒的にシンプルな悪役が多い映画に対して、主演しているTVドラマシリーズでは、なかなか深みのある人物を演じている。2013年にAMCがリメイクした「偽りの太陽 〜Low Winter Sun」の主演も素晴らしかった。もともと英国で放映された2話のドラマを、舞台をデトロイトに移してリメイクされたものだが、オリジナルにも同じ役(フランク・アグニュー)で出演したストロングが米国版でも主演した。
 このドラマでも、映画では見られない深みを見せる。
 日本では、まだ公開されていないFoxが製作した英国のスパイTVシリーズ<Deep State>も期待できそうだ。
 ダニエル・メイズが演じるリーは、ノルウェー・オリジナル版の同様の役より、英国風になっていおり、ロンドン下町育ち的な雰囲気で面白い。ちなみにメイズは2020年日本公開の地味な新作英国作品「フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて」に主演している。
 一方、オランダ人女優のファン・ハウテンが演じたアナとその夫(サム・ヘイゼルダイン)、アナとミルトン、ミルトンとベスの会話などは、理知的で感情を抑えた雰囲気がもともと北欧の脚本であることを感じさせる。
 アフリカ版渡辺直美のような体型のウンミ・モサク(「刑事ジョン・ルーサー」のシーズン5で巡査部長ハリディを演じた)のキレたサディスティック・ママぶりもとっても迫力がある!それにして、若すぎる母親だ!
 ドラマは、最後の最後までブラックな笑いと、予断を許さない展開で惹きつけるが・・、あ、この終わり方だとシーズン2があるんでしょうねえ!

by 寅松

英語版

ノルウェーのオリジナル版<Valkyrien>
こっちも見たいなあ!