海外ドラマ

ホワイトドラゴン

ストレンジャーはわかるけど、白人の龍は、一体だれだったのか?まさかジョン・シムじゃあないんだよね?

Strangers / White Dragon
2018年 イギリス カラーHD 60分 全8話 ITV AXNミステリーで放映
クリエイター: マーク・デントン、ジョニー・ストックウッド 監督:ポールアンドリュー・ウィリアム
出演:ジョン・シム、アンソニー・ウォン、エミリア・フォックス、ケイティ・リューング、アンソニー・ヘイズ、デヴラ・カーワン、トーマス・チャーニングほか

 「ザ・ミッシングー消えた少年」で一躍有名になった脚本家/製作者ウィリアム兄弟(ハリー&ジャック)は、その後「フリーバック」の製作、「真実を知る者/犯人はこの中にいる」や「ザ・ウィドウ 〜真実を求めて〜」のクリエイターとしても大活躍だが、彼らのTwo Brothers Picturesが手がけた2018年のITV作品。<Life On Mars>(「時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ)のジョン・シムが香港で途方にくれる香港版フランティックだ。
 この作品ではハリーとジャックはクリエイターではないが、一部の脚本は担当してるようだ。
 英国の大学教授、ジョナ・マーレイ(シム)は、仕事で香港滞在中の妻メーガンが追突事故で死亡したという知らせを受けて、香港の空港に降り立つ。担当大使館員のサリー・ポーター(フォックス)に促されて警察で妻の遺体を確認したマーレイは、別の部屋で妻の写真を見せて尋問されている香港人の男を見かける。「この男は誰だ?」マーレイは警官を問い詰めるが、警察は相手にせずその場から返されてしまう。警察の外に出たマーレイは、男が出てくるのを待って彼が何者なのかと問い詰める。デヴィッド・チェンと名乗った男の答えは、「メーガンの夫だ」というものだった!
 3年前に大学時代から好意を持っていたメーガン・ハリスと遅い結婚をしたマーレイが、言葉も通じない香港で直面するのは、20年も前から香港で家庭を持ち、元警官の夫チェンと19歳の娘ラウを育てていた妻の重婚の秘密だ。
 それだけでも混乱の極みだが、事故死だと聞かされた妻の死には不審な点が続々。電池切れの携帯にようやく補助電源を探して、メーガンからの最後のメッセージを聞いたマーレイは、事故の衝撃音の後に、妻の息の根を止めた銃声が録音されていたことに気づく。マーレイはその不審を警察に突きつけ、妻の検視をやり直すように迫るが、音を分析すると言って携帯を預かった刑事は、銃声部分だけを消去してそれを返し、何も録音されていないと嘯(うそぶ)く。さらにメーガンの遺体は手違いで、警察から行方不明になったと前代未聞の言い訳を始めた。
 この地では誰も信用できないことに遅まきながら気づいたマーレイは、仕方なくチェンを訪ね、2人の妻が殺された真相を探ることを提案する。

 事件は、娘のラウが熱をあげる抗議運動の鉾先で、次ぎの香港行政長官に立候補している巨大産業のオーナー、シャンドン・ゾー(ケネス・ツァン)、地元のヤクザファミリーの凶悪な長男、カイ・ラン(ジェイソン・ウォン)、善良でか弱そうに見えるが、メーガンと前後して婚約者が不審死を遂げたことで、どうやら大きな秘密に関わっているらしいことがわかるサリー・ポーター、ゾーの巨大企業のNO.2を務める妻レイチェル(ラクエル・キャシディ)と離婚して親権を争っている、香港クロニクルの記者マイケル・コーエン(アンソニー・ヘイズ)など、全員怪しい登場人物が物語を複雑にしてゆく。
 最後に妻の死の真相は解き明かされるのだが、残る謎には文学的な余韻で決着をつけようというドラマである。
 「ライフ・オン・マーズ」では飛ばされた1973年のマンチェスターで戸惑い、「マッド・ドッグス」(英国オリジナル版)では、マジョルカ島で戸惑っていたジョン・シムは、今度も言葉の通じない香港で、戸惑いつづける。相変わらずだが、最後の方にちょっと頼もしくなるのもパターンか。
 もう一人の主演で、シムとは対照的な物静かな男の苦渋を感じさせるアンソニー・ウォンは香港映画の大名優。「インファナル・アフェア」や「頭文字D THE MOVIE」への出演でも知られ、つい最近も新作映画「淪落の人」に出演し、公開に際して来日した。香港の民主独立派を支持したことで、中国市場から圧力を受け続けていることでも知られる偉い人だ。
 まるで歌舞伎俳優みたいな顔だが、実はアンソニー・ウォンの父親はイギリス人で、4歳の時に生き別れになった後は、行方が知れなかったそうだ。Facebookに投稿したことがきっかけとなり、BBCの番組がこの話題を取り上げる。それを見た、年上の異母兄弟に当たる双子の兄たちがウォンとコンタクトを取り、驚きの対面を果たしている。
 実は、ウォンの父親は英国と香港で2重生活をしており、兄たちはウォンの存在すら知らなかったという。その対面時期も、このドラマの制作時と前後しているので、まさにウォンにとっては他人事のドラマではなかっただろう。演技の重みもよくわかる。

 そのほか、男優ではデヴィッド・チャンの元相棒で、目力がやたらにすごい警官ションを演じた中国系デンマーク人俳優トーマス・チャーニングが印象的だ。

 女性はちょっと物足りない。気弱そうなのに徐々に怪しくなってくる、エミリア・フォックス。2人の夫を引きつけるほど魅力的には見えないおばさんではあるが、デブラ・カーワンまではギリギリ、リアリティーはあるということで許せるか・・。
 しかし、30歳を超えているスコットランド人女優(「ハリー・ポッター」のチョウ・チャン役で有名)が演じる19歳のラウは、だいぶ薹が立っている。ラウのレズビアンの恋人、ベッキー役カエ・アレキサンダーも典型的なエキゾチック顏で、2人そろうとなおさら若いカップルには見えない。
 10年くらい前なら、これほどギャップは感じなかったかもしれないが、現実の民主化運動のリーダーで、一般人の周庭(アグネス・チョウ)があれだけ可愛いとなると、この辺のキャスティングはかなり痛い。
 欧米ドラマのアジア人キャスティングは、ともかく英語の完璧さが重視されがちで、その根底にはいずれにせよアジア系は脇役なので、顔自体は二の次だという軽い差別意識があるに違いない。おばさん顏の菊地凛子が、若い子の役でキャスティングされてたり、「スターウォーズ/最後のジェダイ」のケリー・マリー・トランなんかも・・・そうとしか考えられない。

 ドラマ全体の背景には、香港で迫る行政長官選挙とその候補を批判する若者たちの抗議行動が描かれており、製作者としては現代の香港の姿を取り込んだつもりだったろうが、たった1年で香港の民主主義の状況がここまで切迫するとは予想だにしなかったに違いない。
 ドラマでは悪い資本家は出てくるが、(その辺、配給的に多少気を使ったのか)中国からかかる香港への政治的圧力は微塵も出てこない。
 あっという間に現実社会がドラマを追い越してしまったために、このドラマの怖さやリアリティは驚くほど後退してしまった。
 製作者の責任ではないかもしれないが、残念としか言いようがない。

by 寅松