海外ドラマ

サウス・オブ・ヘル 魔物の巣食う街

現代版・悪魔くんはセクシーお姉さんに取り憑いた淫乱悪魔!?

South Of Hell
2015年 アメリカ カラー 42分 全8話 WeTV/ブラムハウス Amazon primeで配信
クリエイター:マット・ランバート 製作:イーライ・ロス
出演:ミーナ・スヴァーリ、ザカリー・ブース、ラマン・ラッカー、ポーリーナ・シンガー、ビル・アーウィンほか

 サウスカロライナ州チャールストンを舞台に繰り広げられる、悪魔払いB級ホラー・ドラマである。南北戦争が始まった街チャールストンは、南部風の美しい街並みが自慢の港湾都市だ。歴史的な建造物や、海辺なので風景も美しいのだが、その風景や景色を織り込みながら、悪魔同士の戦いが繰り広げられる。
 のっけから、姉マリアと弟ディヴィッドのアバスカル兄弟は、チャールストンへ越してきて、悪魔払い業を始めている。最初は弟がそつなくマネージメントをこなして、危ない霊能者の姉を面倒見ている話かと思ったが、ぜんぜん違う展開に。どうやら、姉であるマリアは悪魔を祓うどころか、自身に悪魔が取り憑いている状態らしい。彼女が悪魔に対面し、危機が訪れると、彼女に取り付いた凶暴な悪魔アビゲイルが表出して(外見は一人二役)相手に取り付いた悪魔を取り出すと、ガツガツ食べてしまう。なぜか、アビゲイルはいつも腹をすかしているのだ。(その上淫乱だ!)
 イケメンの弟は、頼りになるどころか悪魔祓いの金が入るとすぐにドラッグを買いにいく意志の弱いジャンキーで役に立たない。
 全体としてはエグゼクティブ・プロデューサーに名を連ねる、イーライ・ロス(「ホステル」「グリーン・インフェルノ」などで知られる新世代ホラー監督の代表格)が自ら監督した1話目は、さすがに「掴みはOK」というところだろう。(ちなみに制作は「パラノーマル・アクティビティ」など、ホラー映画で知られるプロデューサー、ジェイソン・ブラムのブラムハウスが行っている。)
 マリアに悪魔を取り憑かせた二人の父親イーノスは、この地でカルト宗教集団を営んでいたが、警官隊の突入で死亡。しかし地獄で出世を遂げ、自身も悪魔となってこの地に戻ってきているようだ。(笑)今は現代的な自己啓発セミナー「A&O」を主催している。
 TVにはひっきりなしにこの「A&O」の怪しげな広告がオンエアされていてるのだが、不気味というより間抜け感が強い。日本でいうと、TV通販のCMみたいなもので、アメリカではあまりに真似しやすい代物なのでリアルすぎるのだろう。
 姉弟を巡ってその周辺には、新しく街の教会に赴任してきた正体不明の黒人牧師ブレッドソーや、牧師の娘で悪魔に取り憑かれている美少女グレース、教会で神父の面倒をみる元カルト教団の信者テルマ、さらにはマリアたちの家の向かいに住む、元軍人のアバクロ系イケメン、ダスティなどが登場。ブレッドソーを敵と付けねらう、古参のカルト宗教「息子たちの会」の魔の手が伸びるなど、ありがちながら先の読めない展開に。しかしテンポも良く、終盤までは難なく見られる。
 キャラクターも、漫画調ではあるが好感は持てる。マリアと悪魔のアビゲイルの関係は、(オカリナとチョコこそないものの)1963年に水木しげるが描いた「悪魔くん」のそれと大差ないのは微笑ましい。悪魔は気まぐれで、勝手だが、強い意志のある宿主が、「私が自殺したらお前は永遠に消滅する」と脅すと、嫌々従うパターンだ。
 途中、廃墟とライティングとスモークで作った低予算な地獄も登場するが、地獄への入り口が、昔の渡し舟からバスで大量輸送する時代になったために、バスターミナルのカウンターバーのようになっているところが笑える。
 しかし、最終回の出来はひどい!
 ユマ・サーマン主演の「アベンジャーズ」(「おしゃれ(秘)探偵」のリメイク)ほか、TVドラマ「チャック」や「パーソン・オブ・インタレスト」でも知られるカナダ人監督、ジェレマイア・S・チェチックが手がけた最終回は、AMC系列のペイテレビWeTVでのオリジナル放送で放送されず、iTuneでのダウンロードのみで公開されたらしい。
 8話はでは当然のように、姉弟たちと悪魔の元締めになっいる父親イーノスの最終決戦が描かれるはずなのだが、突然ホラー感は薄れ、幻覚と迷宮感を志向した話になっていく。しかも幻想的表現はダメダメ。イーノス自身が登場するA&OのCMが頻繁に画面を独占するが、これも全く怖くない。最後の戦いに至っては、これだけかよ!と言いたくなること請け合いだ。
 一つ言えることは、決着のつかない中途半端なエンディングで、「では引き続きシーズン2をごらんください」の予定で作られたであろうことは間違いないということだ。しかし、当然ながら視聴率は伸びず、スーズン2はお流れになってしまった。(中途半端なままかよ!)
 悪の権化である父親を演じるのは、ベテランのビル・アーウィンだが、まずこの人が、ほとほと威厳がない。通販CMのたちの悪いセールスマンそのもの外見で、A&OのCMの安っぽさはまさにリアルだが、本当の悪魔が正体を現す時の「凄み」が全くもってないのだ。
 ドラマ全体としては美人でセクシーなお姉さんが悪魔に変身するという意外性がキーポイントなはずだが、主演のミーナ・スヴァーリは年相応の劣化が激しく、もはやマリアの時はややおばさん気味。「アメリカン・ビューティー」でケヴィン・スペイシーを誘惑する女子高生を演じた彼女は、若い頃は小悪魔的美少女だったので、童顔が逆に年を目立たせるケースと言える。もちろん、12歳からCMに出演していた彼女の演技力は十分で、悪魔アビゲイル役の出来はすばらしい。
 オープニングの使用された<Cross My Heart Hope to Die>の楽曲<Wild Side>も、南部カントリー的ですごく雰囲気を出していてる。
 ドラマを観終わっても、全く怖さは感じないが、チャールストン風のフィッシュ・シチュー(Lowcountry Fish Stew)がとても食べたくなった。

by 寅松