海外ドラマ

刑事★コムラッド 〜同志に別れを〜

1983年のルーマニアで作られたはずもない、悪ふざけ鉄のカーテン・刑事ドラマ!

Comrade Detective
2017年 アメリカ カラー 40分 全6話 A24/Amazon Video ANXで放映。
製作総指揮:チャニング・テイタム クリエイター:ブライアン・ゲイトウッド、アレッサンドロ・タナカ 監督:リース・トーマス
出演:フローリン・ピエルジク・Jr、コルネリウ・ウリッチ、オリビア・ニタ
声の出演:チャニング・テイタム(オープニングでは自分役で出演)、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ジェニー・スレイト、ダニエル・クレイグほか

 日本では、「GIジョー」「マジック・マイク」「ホワイトハウス・ダウン」「ローガン・ラッキー」などで人気の筋肉俳優、チャニング・テイタムが発案、製作総指揮と主演の英語吹き替えを担当したこと。声の出演者としてダニエル・クレイグ、キム・ベイジンガー、クロエ・セヴィニーなどのビッグネームが参戦していること(ほぼ単なる声のカメオ出演)を前面に押し出してプロモーションしているが、中身は豪華さとは程遠い低予算刑事ドラマである。なにしろ、ルーマニア俳優を使って、ルーマニアで撮っているのだから超安上がりだ!
 ちなみに「刑事★コムラッド」という邦題なので「コムラッド」が人の名前だと思ったら、ルーマニア語で「同志」のことらしい。なのでオリジナルタイトルは単に「同志刑事」(どうしデカ)ですかね。

 設定だけは振るっている。
 1983年のルーマニア政府のもとで作られた、プロパガンダ・刑事ドラマの古いVHSテープを入手したチャニング・テイタムが感動し、苦労してマスターテープを入手。ルーマニア映画保存協会の協力を得て完全復元、英語版の吹き替えをつけ、今回の発表に至ったというのだ!もちろん、レベルの低いジョークでしかない。(VHSテープが入手できたとしても、ルーマニアはpal方式!テイタムの自宅に万一、VHS機器があったとしてもNTSCなんだから再生できないだろー!と突っ込みたくなる。)
 ブカレスト警察の暴走デカ、グレガー・アンゲルと相棒のニキータはいつものように官僚的な上司の命令を無視して麻薬捜査を強行するが、なにものかに襲われ、相棒のニキータは、ロナルド・レーガンのゴムマスクをかぶった犯人に撃たれて死亡してしまう。
 もともと酒浸りだが失意からさらに泥酔して立ち直れないアンゲルの元に、田舎から配属されてきた新しい相棒デカ、ロシフ・バチュウが現れる。バチュウはニキータとは幼い頃から兄弟のように育った仲で、体操選手として一緒にニューヨークに行ったことのある数少ないルーマニア人でもあった。絶対犯人を捕まえると、強い意志を持って家族と共にブカレストへ転勤してきたバチュウの熱意で、アンゲルも再び犯人を捕まえる意志を呼び覚ます。
 しかし、その手法は相変わらず間抜けで粗暴。とにかく、怪しい奴を捕まえては捕まえては、白状するまで拷問するだけなので、一向に捜査は進まない。それどころか、手がかりを追うたびに、レーガンマスクの男が暗躍しますます話は迷走。
 ブカレストの地下クラブの元締めは、モノポリーを隠し持っていたり。アメリカ版の聖書を、悪魔教のように布教しようとする牧師がいたり。「戦艦ポチョムキン」を上映しいる映画館では途中で映画が入れ替わってソフトポルノになってしまったり。先は読めないながらシュールな展開の方は楽しめる。ラストには、アッと驚く(というほどでもないが)結末も待っている。
 主人公のクレガーは、アメリカ大使館の美人秘書官(大使が殺されて、臨時大使に任命され、最終的に大使に就任)といい仲になって寝てしまう。家族を大事にする生真面目なバチュウも、ポルノの流布で共産主義の転覆を図るポルノ業者の屋敷で、一服盛られ、モデルに馬乗りされ映像に撮られてしまった。エロ度も十分だ。
 しかし、面白いかと言われれば、たいへん残念なレベルというべきだろう。

 アイディアは、わからないでもない。80年代の東側のプロパガンダドラマだとしたら、現代ではほぼ全てのドラマの根幹として肯定されている資本主義やアメリカ文化を前提としないジョークを飛ばすこともできる。
 例えば、捜査会議の中で主人公のクレガーが、アメリカ人の考え方を知らなければ、この事件は解決しないと、演説を振るう場面。
「アメリカは、1776年に建国された。金持ちで欲深い白人が税金逃れのために作った国だ。アメリカ人にとっては金こそが全てだ!」「アメリカが成長する中で労働を担ったのは、奴隷、低所得者、移民だった。子供も労働を強いられた。残虐行為を正当化するために、ある言葉が使われた。”神”だ!彼らは自らの行いを神の言葉で正当化した!」
 うーん、別に間違いじゃないだろう。ほかにも後半、二人のダメ刑事がアメリカについて話し合う場面。
「ある、アメリカ人は、ニューヨークに摩天楼を建てて、全てのビルに金文字で自分の名前を入れた」
「バカなやつだな〜」
「自分の偉大さを誇示して何が悪い?」
「ビルは一人では建てられない。大勢の力を結集して建てられる!」
「だが、ビルに名前を入れられるのは、たった一人だ」
 こりゃ、トランプのことでしょうね。

 このドラマの最大の間違いは、もともとルーマニア製作のプロパガンダ・ドラマに英語吹き替えをつけたという設定自体の扱いが、テキトーすぎる点だ。
 コメディなのでものすごいリアリティを追求する必要はないが、わざわざルーマニアで撮影して、オープニングではテイタムとジョン・ロンソン(ジャーナリストでドキュメンタリー作家)がもったいぶって本編を紹介するのに、忘れ部分が多すぎる。ドラマが始まるとすぐに1983年という時代設定は形ばかりでグズグズに。警察のミーティングで皆が「拳を!」と振り上げるシーンは最初にあるものの、党主導の警察組織というリアルさは完全無視。その雰囲気はアメリカの警察と変わりがない。(本来は国民の監視や政治犯を取り締まる「秘密警察」である。)
 個人独裁にこだわり、政治犯虐殺や孤児たちに輸血でエイズを蔓延させたチャウシェスク政権は1989年に崩壊するが、このドラマの時期にはすでに国民生活は貧窮しはじめ、人気も低迷していた。当然そんな社会背景は、まったく無視である。
 その上「プロパガンダドラマとして作られた」と説明されているのに、エロ丸出しだったり、警察内部に悪い奴がいたり、設定へのこだわりが全体的に低すぎる。
 さらに良くないのは、豪華俳優を使って全部英語吹き替えにしてある点だ。資本主義に対するセリフだけはいろいろ言うが、登場人物の考え方や振る舞いはアメリカ人そのもの。せめてセリフがルーマニア語なら、少しはごまかされたろうに・・・。
 チャニング・テイタム以下製作者のみなさんは、今、一度「ドイツ1983」を観て、共産圏ドラマはどのくらいのリアリティーをこめたら笑えるか、勉強してほしいものだ。

by 寅松