海外ドラマ

ロック・ネス〜湖に沈んだ謎

ネス湖の風景一押しの、ほのぼの系ともダーク系とも言いかねる、不思議なスコティッシュ・スリラー!?

Loch Ness ( The Loch )
2017年 イギリス カラー 60分 全6話 ITV AXNミステリーで放映
クリエイター:スティーブン・ブレイディ
監督:ブライアン・ケリー、シラ・ウェアー
出演:ローラ・フレイザー、シヴォーン・フィネラン、ジョン・セッションズ、ドン・ジレ、ジャック・バノンほか

 タイトルの<Loch Ness>は日本語に訳すと単に「ネス湖」というだけ。滋賀県のダークミステリーがあったら、こんな感じだろうか?スコットランドの話ではあるけれど、地元民はスコットランド人としてのアイデンティティというより、「ともかく、ここはネス湖だから」と思っている感じがする。とにかく、何が何でもネス湖から離れるわけにはいかないのだろう。
 人々が観光に訪れる美しい風景、そしてネッシー伝説、そして人々は何れにしても一生この街で観光産業に従事するしかない・・・。その湖沿いの小さな町で、あっと驚くような残酷な事件が発生する。
 山の斜面で発見された、ピアノ教師、ニール・スウィフトの遺体は、当初自殺によるものと片付けられそうになるが、検視の結果その脳が生きたままくり抜かれていたことがわかる。一方、食肉加工工場の息子が持ち出した動物の骨と内蔵を並べて、地元の高校生たちが悪ふざけで作った巨大生物の遺骸。その中に、人間のものと思われる心臓が紛れ込んでいたことがわかった・・。
 連続殺人事件の可能性に、地元の警察の対応では不十分と考えた本部は、イングランド人でやり手の女性警部ローレン・クィグリーを送り込んだ。ローレンは、マスコミで有名な犯罪心理学者、ブレイク・アルブリントンをともなって、さっそうと町に乗り込んできたが・・。
 事件に駆り出された地元警察の巡査、アニー・レッドフォードは、18歳の難しい盛りの娘と、観光ボートの船長である夫と暮らす、ママさん警官。しかし、仕事の上では大変上昇志向があり、なんとかこの大きな殺人事件に関わりたいと思っている。
 アニーは自らの働きでなんとか捜査チームに加わるものの、巨大生物の遺骸を作った高校生の中に、自分の娘イーヴィーがいたために捜査を外される。それでも彼女は、なんとか自分でコツコツと捜査に協力していくが・・。
 主人公は、このママさん警官のアニー。次々決定的証拠を、彼女だけが発見してしまうのはやや超能力者的だが、年頃の娘にいつも振り回され、地元の様々なつながりで苦労する、ありがちな女性の役割を上手く演じていると言えるだろう。
 しかし、なんだかこの巡査、いつもちょっと怯えたような独特の表情で、神経症的だなあと思っていたら、ローラ・フレイザーさんであった。フレイザーといえば「ブレイキング・バッド」の第5シーズンで、カブ・フィリングにメスの原料を横流ししている、化学企業の物流責任者、リディアを演じていたあの女優である。猜疑心が強く、殺し屋を雇って、関係者全員を無慈悲に惨殺しようとするヒステリックな女を見事に演じていたが、何れにしても神経質そうに見える女優さんなのだ。
 一方、全体を指揮するために送り込まれた女性警部ローレン・クィグリーを演じるシヴォーン・フィネランは実に安定した演技。「ダウントン・アビー」の底意地の悪い女中(伯爵夫人の侍女)オブライエン役で有名だろうが、北部イングランドの過酷な現実を描いた刑事ドラマ、「ハッピー・バレー」で鋼の意思を持つ女性警官キャサリンの妹で、元薬物中毒の過去がある優しい妹クレアを演じていたのも印象的だった。今回は打って変わって、自分のキャリアがかかっているために厳しく現場をコントロールしようとするエリート警部を見事に演じている。
 そのほか、心理学者役のドン・ジレはさほどあってもいない気がするが、何かを隠す地元の高校の校長を演じるアラスティア・マッケンジー(「ウルフ・ホール」など)は、なかなか雰囲気がある。アニーの娘イーヴィー役、ショオナ・マクヒューも印象的だ。
 全体としてストーリーは意外性があり、最後には驚きの結末も用意されている。エピソードも単調ではなく、小さな町に潜む様々な秘密が満遍なく組み入れられていて、十分の見応えがあると言って良いだろう。ただ、残念なのは、町の人たちを描くほのぼのスリラーとも言い切れず、逆にサイコスリラー的な恐怖を感じさせるダークなドラマとも言えない、ドラマとしての立ち位置だ。
 確かに残酷な事件も、怪しげな人物も盛りだくさん。ネス湖の風景は、いつも霧がかかっていて、不気味な雰囲気も出そうなのだが、どうも暗い風景ばかりでなく、美しい観光地景色もちょいちょい入る。
 確かに「ネス湖」の名前がかかっているドラマなので、あまりダークにしてしまって観光に影響があっても困るのか?なんかこの辺の立ち位置には、大人の事情がちらりと感じられてしまった。

by 寅松