まぼろし映劇

クレージーボーイ/香港より愛をこめて

007とブルース・リーが合体! 美女なし、演技やる気なし、でも映画愛たっぷりのフレンチ・コメディの傑作!

まぼろし度 ☆☆

Bons baisers de Hong-Kong
1975年 フランス・イギリス・香港 カラー スコープ 93分
監督:イヴァン・シフレ
脚本:クリスチャン・フェシュネール、イヴァン・シフレ
音楽・歌:レ・シャルロ
出演:レ・シャルロ、ミッキー・ルーニー、クリフトン・ジェームズ、バーナード・リー、ロイス・マックスウェル

 イギリスのゴルフ場に飛来したドローンならぬラジコンヘリが催眠ガスを放出、ゴルフ観戦中のエリザベス女王が誘拐された。香港訪問を控えた女王を極秘裏に探すため、イギリス情報部は恥をしのんでフランス秘密情報部に捜査を依頼。白羽の矢が立ったのは殺しの番号「022」「023」「024」「025」の4人(レ・シャルロ)だ。さっそく女王そっくりの掃除のおばさんをみつけて影武者にしたてるべく2人はおばさんとイギリスへ。残った2人はラジコンの製作元があるスペインへ飛び、マドリッドで逃げられた怪しい男を追って今度は香港へ。カラテの達人フー(ユエン・シャオティエン)と女ドラゴンのリー(シャンカン・リンホー)の助けでラジコンおもちゃ屋を追って映画撮影所へ乗り込むが戦争映画の撮影で空襲を受けて退散。そこへ影武者と一緒に残りの2人も到着。女王陛下に求愛するため特別列車で逃げるラジコンおもちゃ屋(ミッキー・ルーニー)をチキチキバンバン号で追いかける……。
 
 1970年代前半に主演作が5本も公開されたのにまるっきり日本では語られることのないフランスのコメディグループ「レ・シャルロ」がシリーズ最大の製作費をかけた(に違いない)大作にして本家007シリーズもビックリの見せ場満載パロディ・スパイ・アクション。あまたあるボンド風スパイ物や007パロディの中でも出色の出来で、なにせ、あの双葉十三郎先生が、最初から爆笑したとほめまくり、パンフレットに寄稿していたほど。オープニングから音楽もガンバレルの中を歩く男もほとんど本家そっくり(もちろんギャグになってます)。

 そもそも「レ・シャルロ」はフランス語で「おバカさん」みたいな意味だが、チャップリンのフランスでの愛称だった。それを映画では「クレージーボーイ」にしたのは配給元の東和だけど、どうみても「クレージーキャッツ」を意識してる。歌、コミックバンド、映画……「クレイジー」じゃなくて「クレージー」だしね。いつも肩の力が抜けてるというか、どことなく「いい加減」な雰囲気は日仏「クレージー」の共通点かも。日本のクレージーにも『クレージー黄金作戦』(67)『クレージーメキシコ大作戦』(68)なんて大作があったけど、フランス版クレージーはイギリス・香港と合作してアメリカからもゲストを呼んだ豪華版になってる。

 時代は、ロジャー・ムーアの本家2代目ボンドが『死ぬのは奴らだ』(73)『黄金銃を持つ男』(74)でコネリーよりもコミカルな味をだしてきたころ。2作品にアメリカの田舎保安官役でコメディリリーフとして出演したクリフトン・ジェームズがいきなり登場、セーヌ川でモーターボートアクションを展開する。盛大に車をぶつけておお騒ぎするのは同時期に流行っていたH・B・ハリッキーのカー・アクション映画(『バニシングin 60″』とか)のマネか。

 とにかくカッコいいのがタイトル・シークェンスで、007とマカロニとカンフー映画が一緒になったキッチュなグラフィックに、いつもはのんびりした曲が多い「レ・シャルロ」がグルーヴ感たっぷりのダンス・ロックチューンを熱唱(といっても「♪ホンコーン」と叫んでるだけか)。なぜか空手や剣道まで登場する画面に日本人は爆笑。今思えば、この曲もフランスのロック歌手クロード・フランソワのパロディだったのかも。

 驚いちゃうのがイギリス情報部にいるのが本家007のM(バーナード・リー)、マネーペニー(ロイス・マックスウェル)コンビ。ニセ女王の登場の後なのでてっきりそっくりさんかと思ったらこれが本物! 2人はイタリアが作ったショーン・コネリーの弟を起用した007パロディ映画『ドクター・コネリー・キッドブラザー作戦』(67)にも出ていたが、そのときにロイス・マックスウェルはショーン・コネリーに文句言われたとコメントしてたのに、懲りないねえ。イギリスからは『メリー・ポピンズ』(64)のお父さんデヴィッド・トムリンソンも参加してるし、香港はショー・ブラザーズが全面協力で自慢の撮影所「邵氏影城」では日本兵が突撃する戦争映画や西部劇の撮影がめちゃめちゃになる。『残酷ドラゴン/血斗竜門の宿』の女ドラゴン、シャンカン・リンホーが大活躍、『ドランクモンキー 酔拳』(78)でジャッキー・チェンの師匠になる前の伝説のカンフー名人ユエン・シャオティエン(あのユエン・ウーピンのお父さん)も連続回転技を元気いっぱい披露する。 

 女王が好きすぎて誘拐するも、頭を打っておかしくなって踊り続ける悪役を演じたのはハリウッドの名子役スターだったミッキー・ルーニーで、当時のオールドファンは老人虐待だと怒っていたという噂もあるが、実はこのラストは奥深い。だいたいこの手の映画の悪役は権力が好きすぎて頭がおかしくなってるわけで……。一方、こんな映画を作った奴らは映画が好きすぎて頭がおかしくなって……る?

 のちのちになってハリウッドも大金かけた007パロディを作ってたが、「レ・シャルロ」たちの良さは、下ネタなし、美女なし、演技は特にやる気なし、でも映画愛たっぷりなところだろうか。おっかけっこの途中にマルクス兄弟やアボット・コステロ(のそっくりさん)が出てきたり。最後に女王の列車を追うみんなが相乗りしてる車はどうみても「チキチキバンバン」号。本家007のプロデューサーが作ったファミリー映画から借りてきたのかと思ったら、あっさりぶっ壊されてました。もったいねー。 

by 無用ノ介