オンランシネマ

ラストツアー

『やすらぎの郷』×『イージー★ライダー』な老人ロードムービー、東へ!

The Last Laugh
2019年 アメリカ カラー ビスタ 98分 Netflixで配信
監督・脚本・音楽:グレッグ・プリティキン
出演:チェヴィー・チェイス、リチャード・ドレイファス、アンディ・マクダウェル、ケイト・ミクーチ

 老人ホームで再会した元コメディアンとマネジャーが、50年ぶりに巡業ツアーに出る……。
 主演は「サタデー・ナイト・ライブ」出身で『ファール・プレイ』や『サボテン・ブラザース』のチェヴィー・チェイスと、『JAWS/ジョーズ』や『未知との遭遇』のリチャード・ドレイファスだ。ドレイファスは『グッバイガール』でアカデミー主演男優賞を受賞している名優だし役柄的にも主役といっていいはずなのに、なぜかチェイズのほうがトップビリングなのはなぜなんだろうか……まあ、そんなことはどうでもいいけど)。

 最近ありがちな70年代の生き残り俳優を使った老人コメディかあ……どうせ、どちらかが病気で死んじゃうとか、老人ネタのギャグがいまいち面白くないとかで、残念な感じなんだろうなあ……それにしてもアメリカの老人ホームはプールもあるし室内も豪華。日本の『やすらぎの郷』なんかより居心地よさそうだ……と思って見始めたら、なんと意外な拾い物だった。
 というのも、50年ぶりにコメディアン――いわゆるアメリカ風のスタンダップコメディ――として再出発することになり、老人ホームを車で出発するとき、ドレイファス演じるバディ・グリーン老人は腕時計を放り投げ、車でそれを轢き潰して行くのだ。おいおい「腕時計捨て」は、『イージー★ライダー』じゃないか。
 そう、彼らはロサンゼルスの老人ホームから東へ向かう。まあ、キャプテン・アメリカとは違ってお笑い巡業ツアーだから、ラスヴェガス、サンディエゴ(ではなくてメキシコのチワワ)、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス……バディは四六時中マリファナをふかしている(後に理由が明かされる)のでマリファナ禁止のテキサスでは警官にひやひや……場末のコメディハウス(ライブハウスのような店)を回るのだが、ついにシカゴからニューヨークへ。ニューヨークでは、マネジャーのアルがかつて世話をした人気コメディアンにかけあって、テレビのコメディ・ショーに出演できることになるが……。
 
 ばかばかしいコメディでもなく、時に哀愁を感じさせたりもしながら、のんびりと進む旅が楽しい。途中で仲間に加わるウッドストック世代の美女ドリス(アンディ・マクダウェル)も明るくていい。アンディは撮影時に60歳、娘のマーガレット・クアリーが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が脚光をあびるのはもうすぐだ。

 実をいえば、予想通りにコメディ場面のギャグはそれほど面白くはない(まあ、日本とアメリカの違いもあるし)。また、音楽で感情をコントロールしたがっているような曲の使い方も少し邪魔だ。それでも、ときおり、哀しげに響くジャズがいいなあ、なんとなく『ハドソン河のモスコー』を思わせるじゃないか。と思ったら、最後の最後に「ポール・マザースキーに捧げる」とクレジットが出て驚いた。マザースキーは元コメディアンで、『ボブ&キャロル&テッド&アリス』『グリニッチ・ビレッジの青春』などを監督、老人と猫のロードムービー『ハリーとトント』なんてのもあった。個人的には最高傑作は『ハドソン河のモスコー』だ。2014年に世を去っている。
 そんなマザースキー・リスペクトの映画なので、もちろんお涙頂戴のようなダサい展開は回避している。万人が楽しめるかどうかはあやしいが、上質の軽いコメディを楽しむには最適だ。

 アルの孫役でコメディ・フォーク・デュオ「ガーファンクル&オーツ」のケイト・ミクッチが出てくるのも楽しい。目と鼻がでかいファニーフェイスで可愛いなあ。え、もう40歳近いの!?

by 無用ノ介