海外ドラマ

ロースクール

ベタなサスペンスだが、アメリカナイズされた上質の法廷ドラマ!

로스쿨/Law School
2021年 韓国 カラーHD 70分 全16話 JTBC Studios/JTBC Netflixで配信
クリエイター:ソ・イン 監督:キム・ソクユン
出演:キム・ミョンミン、キム・ボム、リュ・へヨン、イ・スギョン、イ・デビット、コ・ユンジョン、イ・ジョンウン、ヒョヌ、アン・ネサン、チョン・ウォンジュン、パク・ヒョックォン、キル・へヨン、ウ・ヒョン、オ・マンソク、チョ・ジェリョン ほか

 「韓国大学」という存在しない大学名は、大抵、韓国ドラマの中では「ソウル大学」にあたる最高学府を指すときに使われる。このドラマは、その「韓国大学」ロースクール(法曹養成に特化した教育を行う、法科大学院)を舞台にした、サスペンス&リーガルドラマだ。
 脚本は、2017年のSBSドラマ「法廷プリンス-イ判サ判-」を書いたソ・イン、監督は「 私の解放日誌」や「 今週妻が浮気します」などのキム・ソクユンで、JTBCスタジオが製作した。ヒットしたとは言い難いが、実によくできたドラマだある。

 韓国ドラマではもちろんリーガルものも珍しくない。例えばNetflixで非英語圏で視聴ランキング1位を獲得して話題をまいた「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」も、よくできたリーガルドラマではあったが、扱う事件がほとんど民事であることもあって、大上段に構えた法廷闘争は皆無。どちらかといえば韓国らしい日常に寄せた争いを取り上げている。
 それに比べると、この「ロースクール」の法廷は、ダイナミックな上に演劇的でもある。もちろんメインが、ロースクール内で発生した殺人事件の嫌疑で教授が訴追された事件なのだから当たり前ではあるが、そのほかにも検事がマスコミに流した捜査情報で、父親が自殺に追い込まれた学生ソ・ジホ(イ・デビット)が起こす、検事の被疑事実公表嫌疑による起訴。ロースクールイチの美女イェスル(コ・ユンジョン)が耐えきれなくなった、恋人による暴力と偽証の強要を巡る裁判。離婚後に養育費を払わない父親を告発したことで、逆に名誉毀損訴訟を起こされたサイトをめぐる裁判など・・・、どれもなかなか深刻な問題で、韓国法制度の問題点を突いている。
 ドラマの中では解決できない韓国法の根本的な問題については、悪党である議員(法司委員会で次期大統領候補)のコ・ヒョンス(チョン・ウォンジュン)をうまく利用して法改正を提起させるなど、大胆な解決法を図る脚本でもある。
 その「問答法」を使用した授業方法から、ヤンクラテス(問答法を提唱したのは古代ギリシャの哲学者ソクラテス)とあだ名される刑法担当で、韓国の田村正和か歌舞伎役者にしか見えないキム・ミョンミンが演じる、主人公のヤン・ジョンフン教授は、自分が被告にされた裁判まで、すべての機会を利用して学生たちに実地体験授業をしてしまう。法廷は、そのまま劇場と化すのだ。
 Safira.K が英語で歌う<X (It’s Driving Me Crazy)>を使ったオープニングタイトルもやたらに欧米調で、まるでShowTimeのドラマでも見ているようだ!

 物語の発端は、韓国大ロースクールに莫大な寄付をして、教授に招かれた元検事総長の弁護士、ソ・ビョンジュ(アン・ネサン)が、自らの寄付で運営される模擬法廷授業に招かれた日に、控え室で死亡しているのが発見されたことだった。
 元検事でソ・ビョンジュの後輩に当たるヤン・ジョンフンや、元判事で今はこのスクールで民法の教授を務めるキム・ウンスク(キム・ウンスク)は、ソ・ビョンジュに対して大変苦々しい思いを抱いている。そもそも2人が法曹界を去ったのは、ソ・ビョンジュがかかわっていたからだ。
 児童性犯罪者イ・マノ(チョ・ジェリョン)を裁く判決で、判事であったキム・ウンスクは、担当検事であるソ・ビョンジュがイ・マノを控訴しなかったため、最高刑を適用できず、飲酒による心神喪失で減刑を考慮せずにはいられなかった。また、イ・マノの犯行を目撃した子供は、ひき逃げ事件にあい死亡していた。
 一方、ヤン・ジョンフンはソ・ビョンジュを、友人の議員であるコ・ヒョンスから賄賂として土地を譲り受けたとして告発したが、最高裁はこれを賄賂と認定しなかった。ヤン・ジョンフンは、このため検事の職を辞したのだ。
 事件は、司法解剖の結果他殺の可能性があるということになり、警察は捜査を始める。「ソ・ヒョンジュ教授を殺害する動機がある人物に心あたりはありますか?」という刑事に、ヤン・ジョンフンは自信たっぷりに「僕だ」と答えるのだ。

 サスペンスとしては、スタート時点からヤン・ジョンフンを始め、ソ・ビョンジュが死亡する前にその部屋を訪れていた、何人かの学生もそれぞれ怪しい言動や隠し事があり、目を離せない展開に。
 ここまで複雑な展開になると、どんでん返しのために無理な設定を詰め込むことが多く、腰砕けになるミステリーも多いのだが、このドラマはその辺も、なんとかうまく組み立ててあって、意外ではないが、たどり着くのが難しそうな犯人と黒幕に迫る段階もよくできている。安心できるミステリーだ。
 
 そして何よりドラマとしては、ミステリー要素だけではなく、ヤン教授やキム教授が、学生を一人前に育てあげようと奮闘するリーガル教育ものとしての要素があるところが秀逸である。
 教授たちの教え子で、スタディー・グループを組む生徒たちのキャラクターの設定がとてもいい。
 リュ・へヨンが’演じるカン・ソルA(同名が二人いるため)は、貧乏な境遇にも関わらず、一念発起して「特別選考」を頼りにロースクールを受験した。次第に、弁護士を志した過去の事件と、ロースクール入学も確実な成績ながら、今は失踪している双子の姉の存在が明らかになる。
 なにかと型破りなカン・ソルAの面倒見てやるのが、すでに司法試験2次合格までしいる学年一の秀才、ハン・ジュニ(キム・ボム)だ。しかし、ジュニはソ・ビョンジュの甥で、ソ・ビョンジュが父親代わりでもあった。
 もう一人の優等生、カン・ソルB(イ・スギョン)は、一族がほぼすべて検事という家系ながら、精神的に不安定な母親(パク・ミヒョン)に振り回されて心を閉ざす日々。なぜか、ハン・ジュニに気がある。そして、後半、母親の元の恋人はソ・ビョンジュで、父親はロースクールの副院長カン・ジュマン(オ・マンソク)であることが明らかになってくる。
 優秀ながら、あまり人間味を見せないソ・ジホは、誤報道で父親が自殺した事件で、情報を流出させた検事を探していたが、それがヤン・ジョンフンを起訴し、議員であるコ・ヒョンスの手先として動く検事チン・ヒョヌ(パク・ヒョックォン)であることを突き止める。
 カン・ソルAとともに、低成績で慰め合うチョン・イェスルは、美人だがいつも携帯で監視されているようなそぶり。実は、彼女が付き合っていたのは、コ・ヒョンス議員の息子のコ・ヨンチャン(イ・フィジョン)で、イェスルに暴力を振るっていた。ヨンチャンはロースクールに合格できず、一緒に受験したイェスルの方が受かってしまったという事情があった。
 そのほか、産婦人科医でありながら、なぜかロースクールに入り直したエリート、ユ・スンジェ(ヒョヌ)。人権派弁護士を目指すお調子者ながら、密かにイェスルに想いを寄せる、ミン・ボッキ(イ・ガンジ)。日和見主義者で現実的。ときには、チン・ヒョヌへの密告者にもなるが、ギリギリで思いとどまるチョ・イェボム(キム・ミンソク)もいる。

 三人の主役、キム・ミョンミンとキム・ボム、リュ・へヨンは実に役柄がはまっているように見えるが、脇役も演技力のある人を配置している。
 「私たちのブルース」のイ・ジョンウンは、人の良さそうな顔だが実は結構策を講じるフィクサーのキム・ウンスクを見事に演じた。
 「客-The Guest-」でも悪人なのか善人なのか怪しい神父を演じていたアン・ネサンが、心の弱さに付け込まれるソ・ビョンジュを。劇団出身で「人間レッスン」や「Mine」のパク・ヒョックォンが、食えない検事チン・ヒョヌをリアルに演じている。
 また、「還魂」パート2の主演に決定しているコ・ユンジョンが演じたチョン・イェスルは、もう少し垢抜けたモデル風の美女として登場してイメージを変転させる役だったのかもしれないが・・・この娘の地なのか、美人なのにやや垢抜けない感じに見えて、それもまた好感が持てる。

 韓国の田村正和・キム・ミョンミンは、最後に元教え子2人を従えて、颯爽とどこかへ向かって行ったが、ま、前述の通り視聴率も高いとは言えないのでシーズン2はないだろう。しかし、見る価値は十分ある。

By 寅松