海外ドラマ

チェスナットマン

一言で言うと、天才というより秀才といった感じの、出来の良いドラマ!

Kastanjemanden/The Chestnut Man
2021年 デンマーク カラーHD 52~59分 全6話 SAM Productions Netflix Netflixで視聴可能
原作:セーアン・スヴァイストロプ クリエイター:ドローテ・ウォノイ=ヒュー、デイビット・サンドロイター、ミケル・シールプ 監督:カスパー・バーフォード、ミケル・シールプ
出演:ダニカ・クルチッチ、ミケル・ボー・フォロスゴー、デヴィッド・デンシックイベン・ドルナー、ラース・ランゼ、エスバン・ダルスゴーア・アンデルセン、リバ・フォシュベリ ほか

 出だしからと〜ても怖い!1987年、デンマークのメン島の農家。牛が逃げ出していると言う通報を受けて、警官が向かった農家で発見されたのは家族の惨殺死体。しかも、農家には子供を監禁するための地下室があり、そこに踏み込むと、震えながら一人の子供がうずくまっている。子供の周りには、チェスナット(栗類)の実でつくった栗人形(チェスナットマン)が多数置かれてあった。警官が、子供に話しかたとたん、後ろから何者かに襲われて・・。
 しかし、このこわーい出だしは、最後までずっと忘れられていて、最後の最後にこの話に繋がるところは・・そんなことだったか〜と血の気が失せる。

 おそらく、北欧では子供が作「栗人形」というのは、ごくごく日常的なアイテムなのだろう。日本ならドングリを使ったおもちゃみたいなものか?
 それが、恐怖の署名として使われるというのは、怖さが増す。しかも、手や足が欠けた栗人形が置かれた現場では、手や足が切られた死体が発見されるのは、グロさ爆発だ。ただ、正直、今まで見たこともないような斬新なアイディアや個性的な描写はない。ドラマとしては「天才」と言うより地道な「秀才」タイプというべきかもしれない。
 2020年にバリー賞新人賞を受賞した、セーアン・スヴァイストロプの『チェスナットマン』(高橋恭美子/ハーパー・ブックス)が原作だ。内容は充分練られているが、のめり込むタイプの刑事とその個人的家庭事情が必ず絡むパターンや、猟奇的な事件と政治世界が徐々に繋がる恐ろしさは、どうも既視感がある・・と、思ったら、原作者、セーアン・スヴァイストロプは、もともとTV畑の人で、実はデンマーク・ダークサスペンスの金字塔「THE KILLING/キリング」(Forbrydelsen)のクリエイターであった。なーんだ、それなら納得だ。
 通りで、Netflixさんも素早くお金を出して、版権取得&制作にこぎつけたわけだ。

 スヴァイストロプは、女性キャラクターの描き方がとてもうまい。主人公の女性刑事、ナイア・トゥーリン(ダニカ・クルチッチ)は、優秀な刑事だが仕事にのめり込むタイプで、女手一つで育てている微妙な年頃の娘リー(リバ・フォシュベリ)との間に溝ができている。仕事が佳境に入ると、娘は養父であった元警官アクセル(アンダース・ホヴ)に任せきりになってしまう。本人も、それを反省して、殺人事件の現場からサイバー犯罪捜査部門へ転出したいと上司に願い出たばかり。
 しかし、そこで事件が舞い込んでくる。37歳のラウラ・ケアが遺体で発見され、片手首が切断された状態で発見されたのだ。
 一方、短期間ユーロポールから派遣されているやる気のなさそうな捜査官マルク・ヘス(ミケル・ボー・フォロスゴー)を、相棒として連れてゆけと、ナイアは上司のニランダ(ラース・ランゼ)に命じられる。ヘスは、どうやら情緒不安定で、ユーロポールも使いあぐねて、コペンハーゲン警察に押し付けたという話のようだ。
 実際、ヘスの態度は上の空で、やる気はなさそう。当然、ナイアも「邪魔だけはしないで」という態度でお客さん扱いだが、次第にこの怪しげな男が鋭い捜査官かもしれない?と考えを改め始める。
 あとからわかってくるが、ヘスは、過去に火災で妻と幼い子供を同時に失い、今も喪失から抜け出せない男だったのだ。

 ドラマでは、殺人事件とは無関係そうな現政権の社会大臣であるローザ・ハルトゥンク(イベン・ドルナー)の1年ぶりの職務復帰が描かれる。ローザと夫のスティン(エスバン・ダルスゴーア・アンデルセン)は、1年前に娘のクリスティンを誘拐され殺害されていた。娘の遺体は発見されなかったが、妄想性人格障害のリヌス・ベッカー(エリオット・クロセット・ホヴ)が自白したため、警察は事件は解決したという見解だった。
 しかし、ローザがなんとか感情を抑えて久々に登庁したその日、ナイアが殺人現場から、不審に思い、証拠として持ち帰った栗人形から、死んだはずのローザの娘クリスティン(セリーヌ・モーテンセン)の指紋が発見されたのだ。
 さらに続けて殺人が起こり、現場にはやはり栗人形が残される。
 いやでも、事件は猟奇的連続殺人に発展するが・・・ナイアとヘスは、死んだ2人の母親の子供たちが虐待されていた疑いがあることに気づく。いずれも、通報はされているが、児童福祉局へ通報されているにもかかわらず見逃されていた案件だ。
 そこから、犯人の次のターゲットを予想できるかもしれないと考えた2人は、一計を案じるのだが・・。

 児童福祉も管轄する社会大臣であるローザ自身の過去と、12歳の娘に起こった事件と、子供をないがしろにした母親に対する残虐すぎる連続殺人。栗人形(チェスナットマン)の示す恐怖のサインが、複雑な形で徐々につながってゆく様は、実に素晴らしい。
 北欧の高度社会保障国家でも、日本で言う「児相問題」のようなことがなくならない現実と、監視の目が行き届かない里親制度の深い闇を考えさせる作品でもある。
 しかし、いくら意外性でも、こんな奴が犯人じゃ、絶対わかるはずないだろ!というオチです。
 
 最後の死闘は、刑事二人が同じ場所にたどり着いているのに、やられてばかりで情けない。刑事ドラマはみなそうですが、なんでそこで相手の話を聞く?まず一発足ぐらい撃っておけ!と言いたくなりますが、毎回それでやられてしまいますね。この二人の刑事もそろって躊躇しすぎです。
 しかし、最後の最後に来てさすがに、躊躇をすてて乗り切ります。最後には、こんなおっそろしいドラマの割に、ほっこりできますよ!

 子供たちが歌う「入っておいで〜、チェスナットマン!入っておいで〜、栗は持ってるの?」と歌う、栗人形(チェスナットマン)の歌は、エフェクト音が入っているからだけど、すごーく不気味・・・。

By 寅松