海外ドラマ

潜入捜査官リジー〜エドゼル作戦の真実

これって、結局失敗ですよね?お色気囮捜査のトンチンカンな顛末!

Deceit
2021年 イギリス カラー 2/1 60分 全4話 All3Media、Story Films/Channel 4 AXNミステリーにて放映
クリエイター:エミリア・ディ・ジローラモ​ 監督:ナイル・マコーミック
出演:ニアフ・アルガー、ハリー・トレッダウェイ、シオン・ヤング、エディ・マーサン ほか

 サスペンス・ドラマというものは、概ね最後には捜査側の努力によって犯人が判明して、捕まる(もしくは捕まらないまでも、殺害するとか、本人が自殺するとか)ことで、一巻の終わりとなる。例え、このドラマのように事実を基にしたドラマであっても、大抵は警察側がなんとか勝利を収めて、完全でないまでも視聴者を満足させてくれるのが普通である!
 しかーし、このドラマでは、この根本的なルールが覆される。なんと、警察の大失態、大間抜けぶりが描かれるドラマなのである。最後まで見ると、驚きますよ!
 だめじゃーん!これじゃ!というドラマなんです。

 実際の事件は、1992年7月15日にロンドン南西部にある広大な緑地、ウィンブルドン・コモン(もちろん、あの有名なテニス場もこの一部)で起こった猟奇殺人事件だ。23歳のレイチェル・ニッケルが、2歳の息子と共に散歩中に、レイプされ、49箇所も刺されて殺害された事件である。
 この事件は子供の目の前でレイプ殺人が行われた残忍さと被害者が若い金髪美人さんであったことから大変マスコミにアピールして、国民の関心事となった。警察には、事件解決のための大きすぎるほどのプレッシャーがかかったらしい。
 ところがこれがなかなか解決しない。
 当時警察は、現地の近くに住んでおり、同じ時間帯にこの緑地で犬を散歩させている、コリンン・スタッグという男に標的を定めて任意同行をかけるが、男が否定したため、警察は確証を得られなかった。
 警察は、犯罪心理学者のポール・ブリトンに依頼してプロファイルを行い、この男が犯人であるとの自信を深め、なんとか証言を得るために女性捜査官を囮として近づけて、自白を引き出す秘密作戦「エドゼル作戦」を実行する。
 この作戦の全貌を描いたのが、このドラマである。

 冒頭「本作は、実際の出来事や膨大な調査、インタビューに基づいて制作されており、そして、主人公セイディの特徴の一部は法的な理由から変更して描かれた」とテロップが出るように、ドラマは、囮捜査を行なった女性捜査官、セイディ・バーン(ニアフ・アルガー)の目を通して描かれる。セイディは、麻薬組織の壊滅などを図るために、潜入捜査を担当する捜査官だったが、レイチェル・ニッケル事件の捜査チームに招聘される。
 セイディは、これ以上「女性犠牲者が出ないようにする・・」という強い使命感をもって捜査に参加するのだが・・、様々な葛藤に直面することになる。
 作戦全体のアウトランを主導したのは、城のような大邸宅に住む、犯罪心理学者のポール・ブリトン教授。こいつが偉そうだが、怪しい感じでいけ好かない。
 その感じを、「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー」や「刑事リバー 死者と共に生きる」などでも、印象に残る人物を演じた個性派俳優、エディ・サーマンがよく出している。
 スーパーマリオヒゲの担当刑事のキース・ペダー(ハリー・トレッダウェイ)も、どう考えても頼りにならない間抜け刑事。
 一人暮らしの妄想童貞らしきコリン・スタッグ(シオン・ヤング)は、確かに怪しさ満点の男で、自宅の地下には悪魔崇拝の教壇のようなものがしつらえてある。まあ、これじゃ疑われるのは仕方ない感じだが、ドラマでは描かれないがのちに判明したところによれば、この地下の悪魔崇拝デザインは、以前に同居してヘビメタ好きの兄が作って、残して行ったものらしい。迷惑な話。(笑)
 セイディは、”リジー・ジェームズ”という偽名で、スタッグの文通相手の友人で、たまたま手紙を見たと名乗り、文通を開始する。当初は文通だったが、結局手紙だけでは証言を引き出せるはずもなく、実際に会うことになるのだが・・。

 おそらくセイディ本人の告白を元に作られたドラマのだろう。描かれるのは、主にセイディ(リジー)自身の心理的な葛藤と、プレッシャー、罪悪感。それをあえてHDではなく1/2サイズの映像で、アップを多用し、昔の映画的映像手法で見せてゆく。ちょっと70年代映画を見ているようで懐かしい。
 セイディの味方になってくれる、元々の部署の上司であるバズ(ナサニエル・マレット=ホワイト)やルーシー(ロチェンダ・サンドール)のアドバイスも、結局のところ、あんまり役に立たない。
 そもそも最後に、ハニートラップ作戦を決行して、自白を促すも、最後までスタッグ本人は「やってない」としか答えてないし、あの供述で起訴したこと自体、ダメそうだな〜と心配なるが、実際、全然ダメダメでした。

 しかも、警察は本当の犯人ロバート・ナッパーが、スタッグ逮捕保護に、東南ロンドンのアパートに押し入り、27歳のサマンサ・ビセットと彼女の4歳の娘ジャズミンをレイプ殺害した事件が起きたにもかかわらず、これを見逃すことになる。
 のちにサマンサ・ビセットの事件で逮捕された、妄想性統合失調症のナッパーが、レイチェル・ニッケル事件について罪を認めたのは2008年のことだ。
 ドラマでは警察を辞めているらしき、セイディがTVで真犯人確定のニュースを知る様が描かれるが、これじゃ、セイディの方も全く被害者だ。

 実は実際のセイディも1998年に警察を早期退職。警察連盟の支援を受けて、非人道的な捜査にから受けた精神的被害を訴えた。この訴えは審理前に和解となり、セイディは、£125,000(約2千万)を受け取ったと言われている。
 もちろん、裁判では無罪になったが、2008年まで世間から犯人扱いを受けた、スタッグの方も英国内務省から£706,000(約1億円)の補償金を受け取ったらしい。

 結論はともかく、スタッグが逮捕される時「おい、一体、俺の犬は誰が散歩に連れて行ってくれるんだー!こいつも、もう歳で心配なんだよー!」と犬の心配だけをしていたのが、とても印象的なドラマです。犬は、本当にどうなったのかー。(のちに、スタッグが犬を散歩させるシーンは出てくるが、16年後のことなので、当然別の犬だ。)

By 寅松

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